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初めての馬車旅 1

 乗り合い馬車は8人ほどの乗客を想定しているらしく、2人がゆったりと座れそうなベンチシートタイプの座席が4つ並んでいた。


 先客は冒険者らしい一組の男女、両親とまだ幼い子供の家族連れ、商人なのかな?お腹の出たおじさんと、太い腕を持った禿頭のおじさんの7人だ。


 私たちが乗り込むと、禿頭のおじさんがお腹の出たおじさんの隣に移動して、座席を一つ開けてくれた。


「おじさま方、ありがとう!」


 お礼を言うとお腹の出たおじさんは軽く笑って頷き、禿頭のおじさんは片手をあげて返事をしてくれる。


「出しますよ~」


 イザックと私が座席に座るとすぐに、馬車は動き出した。


 想像以上の揺れに驚いている私を見て、イザックは❝やっぱりな❞とでも言いたげな顔で<乗合馬車>での過ごし方を教えてくれる。


 座席に折りたたんだ状態の帆布を敷いてからその上に毛皮の敷物を重ねて敷いて、


「自分で座り心地を良くするんだよ」


 と笑う。イザックに倣って私もインベントリから帆布とワイルドボアとホーンラビットの敷物を出して座席に引いていると、鼻で笑うような音が耳に届いた。


 旅慣れない私を笑っているらしいが、悪意が感じられて気分が悪い。 ハクとライムもマントの中から出てきて臨戦態勢だ。


(引っ掻いてくるにゃ!)

(とかす~!)


 いきなり飛び出そうとする2匹を慌てて抱っこして取り押さえる。


(ありがとうね~! でも、今回は攻撃しないでいいよ。 いきなり敵意を向けられる理由がわかるまで、少し様子を見よう?)


 と宥めてから、2匹をイザックに預ける。 座り心地を良くする方が優先だ。


 まずは魔力感知で回りに魔物の気配がないかの確認。それから自分たちにクリーンをかけてブーツを脱いで、


(ねえ、ハク? 防臭の結界とかはないかな?)


(ん? 作るにゃ?)


(是非!)


 ハクに私たちのスペースを結界で覆ってもらう。 結界の中にクリーンをかけて除菌をすると、気になる臭いも軽減された。


 お風呂の習慣が根付いていないのは、やっぱり辛い。 何とかして公衆衛生を広めないと…!


 決意をする私を見ながらイザックが密やかに笑いながら同じようにブーツを脱いでいる。


「アリスといると、旅が随分と楽になるな…」


 私の耳元で囁くイザックは、ハクと私のしたことに気が付いたらしく感心顔だ。


 どうしたって馬車は揺れるんだから、せめてそれ以外は快適に旅したいからね! 遠慮はしないよ!








「停留所にはこの馬車しか止まっていなかったけど、馬車の数って少ないの?」


 しばらく乗ってみて、揺れはひどいんだけど、ビジューが創ってくれた身体は乗り物酔いをしないことに気づいて安心した。ハクもライムも大丈夫そうだし、旅慣れているらしいイザックも平気そうな顔をしていたので、暇つぶしの質問タイムだ。


「他の馬車は朝方に出発したんだろう。少しでも距離を稼ぎたいからな」


「この馬車は?」


「最初の野営予定地が近いんだろう。他の馬車より1日長く乗ることになるな」


 なるほど? 乗り合い馬車と一口に言っても、どのルートを選んでいくかは御者次第なのか。 


 1日分多めにごはんを作る時間が取れるのは、今の私には嬉しいことだ。

 

 森での携帯食は何がいいかと考えていると、


「なあ、アリス。 俺に飯を売ってくれないか? 急に旅立ちを決めたから、飯の用意まで手が回らなかったんだ」


 イザックが遠慮がちに話しかけてきた。


「別にお金はいらないけど?」


 初めからそのつもりだったのに今更何を言い出すのかと思っていると、イザックは首を横に振り、


「そうじゃない。 きちんと金を受け取って、俺に飯を売ってくれ」


 もう一度❝売ってくれ❞と繰り返した。


 今の私たちは護衛と護衛対象でもなければ、パーティーメンバーでもない。けじめは大切だということらしい。


「ん、分かった。 じゃあ、1食1,000メレでおかわりとおやつ付きでどう?」


 ちょっとしたランチの値段を提案してみると、イザックは私の耳元で小声で「安すぎる! もっと値上げしろ!」と叱るように言った。


 ……オスカーさんもそうだったけど、どうして値上げを要求するんだろうね? 普通は値下げを要求するものだろうに。


 不思議に思ってイザックの顔を見ると、また耳元で小さな声で「ここは町じゃなくて旅先なんだ。物価を考えろ! カモ認定されるぞ!」と説明された。


 なるほど、それもそうか。 だったら、


「1日5,000メレ。おかわりとおやつ付き」


 なら文句はないだろう。と胸を張って言うと、


「連れの男を相手にぼったくりかよ」


 車内から男の声でボソッというのが聞こえた。


 イザックの耳にも入ったらしく、立ち上がろうとしたのを急いで制す。


 私も出発した日の食事が一食2,500メレは高すぎると思うもん。 お店で1,000メレも出せばそれなりにおいしいものが用意できたはず。


「もちろん、お水もお茶も飲み放題。1日1食リクエストを聞いてあげるよ?」


 にっこりと笑って言うとイザックも気を引かれたのか、


「一食だけか?」


 と乗って来た。


「うん。もう一食はハクとライム、もう一食は私の食べたいものにするの」


「そうか、楽しみだな!」

「にゃん♪」

「ぷきゃ~♪」


 イザックだけでなく殺気立っていた従魔たちも機嫌を直したようで一安心だ。


 それにしても、感じの悪い同乗者がいるなぁ……。


 たまたま今は機嫌が悪いだけ、だったらいいんだけど。 


ありがとうございました!

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