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旅立ちはにぎやかに 1

「……どうして?」


「どうして来ないと思われたんでしょうな?」


 馬車の停留所には、この町で出会った人たちがたくさん待ってくれていた。


「ここは深くお付き合いをさせていただいたと自負しているわたしから、お別れを言わせていただきましょう。 アリスさん、どうぞ受け取ってください」


 サンダリオギルマスがにこにこと笑いながら、アイテムボックスから見覚えのある羊皮紙を取り出した。


「これは…」


「遠見の水晶の使用許可証10枚セットです。 わたくしや信頼できる<商業ギルド>にご用ができましたら、最寄のギルドの受付にお渡しください。 一度に100万メレの使用料と20万メレの手続き代が掛かりますが、通信がつながったら20万メレは使用料に含まれますし、つながらなかったら20万メレは戻りませんが、代わりに使用許可証が戻ってきますので、旅先で商売関係のお困りごとが発生した際にお使いください。

 ご連絡の内容が商業ギルドの他の支部の不正につながることであれば、使用料は商業ギルドが責任を持ってお返しした上で褒賞金も出ますので、その際にも是非お使いください!」


 ……私に密偵になれってことかな? 受け取りを拒否しようかと迷っていると、ベルトランギルドマスターがサンダリオギルマスの隣に並び、同じ羊皮紙を差し出した。 


「これは<冒険者ギルド>間を繋ぐ水晶の許可証ですが、使い方は<商業ギルド>と同じです。 使用料は150万メレと少し高くなってしまいますが、どこかのギルドで困ったことが起きたらご連絡を。 こちらも内容によっては褒賞金がでます」


 ベルトランギルドマスターは、


「腐ったギルドを見つけたら、成敗する前に連絡をください」


 となんだか楽しそうな笑顔を見せた。  えっと、こっちも密偵が欲しいってコト? それにしても“成敗”って、物騒なことを言うなぁ…。


 インベントリからお父さまから貰った使用許可証を出して3通を見比べてみると、紙質も文言もほぼ一緒。それなのに使用料は3通り。 何の違いかなぁ?と首をかしげていると、サンダリオギルマスが


「<裁判所>の水晶の使用料は300万メレ、<冒険者ギルド>は150万メレですので<商業ギルド>が一番お得です! 何かお困りごとが起きた時には<商業ギルド>にいる私にご連絡をいただいたら、すぐに対処いたします! もちろんベルトランへの伝言もお引き受けしましょう!」


 と、いきなりプレゼンを始めた。 でも、


「サンダリオ。 裁判所間の使用許可証はすでに通信料を支払済みだ。 私への連絡が一番お得だから、アリスは何かが起きたら私に一番に連絡をくれるだろう」


 お父さまが満面の笑みでサンダリオギルマスを退けた。


「くっ! 私にはできないことを……」


 と悔しがるサンダリオギルマスと、それを宥めるように肩を叩いているベルトランギルドマスター。そして微笑を絶やさないお父さまを見ていると、後ろから張りのある声で呼びかけられた。


「隊長さん!」


「もうお別れなんてとても寂しいですね。 昨夜はせっかく誘っていただいた食事会に参加できなくてとても残念でしたが、アリスさんが衛兵の詰め所に届けてくれたりんごの菓子は、みんなで奪い合いながら美味しくいただきましたよ。 本当にありがとう!」


 隊長さんがとても丁寧な挨拶を言ってくれていると、


「裁判所の職員や法廷兵からも礼を言付かっています。 こちらも楽しい奪い合いを繰り広げたようですよ」


 ウーゴ隊長とティト裁判官がにこやかに微笑みながら声をかけてくれた。


 私の方こそ隊長さんや衛兵の皆さん、ウーゴ隊長やティト裁判官を始め裁判所の皆さんにはとてもお世話になったので、丁寧にお礼を返す。 


 トラブルの度に手間をかけてしまったけど、とても丁寧に対応してくれて、本当に色々とありがたかったなぁ…。


「ねぇちゃん!」


 感傷に浸る間もなく、元気なフェルナン君の声が掛かったのを皮切りに、フェルナン君のお母さん、セルヒオさん、八百屋さんと職人さんに支えられながら歩いてきた金物屋さん夫妻、一緒に食事をしたことのある衛兵さんや冒険者ギルドの女性職員さんまでもが見送りに来てくれた。


「わざわざ来てくれたの…? 皆さん、本当にありがとう!」


 短い期間でも良いことばかりじゃなかったけど、見送りに来てくれた皆さんの顔を見ていると、楽しかったことばかりが思い出される。


 抱っこしていたハクやライムと微笑み合っていると、ハクが急にそわそわし始めて、ほぼ同時にアルバロとエミルの声が響く。


「おう! 間に合ったか!」


「こっちだ! 無理を言ってすまないな!」


 2人に迎えられたのは、以前にオムレツを買ったバルの店主夫妻とチュロス専門店の店主だった。


 それぞれの店主さん達はアルバロとエミルに迎えられると、両手に持っていた大量のオムレツと大量のチュロスを2人に渡した。 ……手があいたと思ったら、アイテムボックスからもオムレツとチュロスが出てくる。 どれだけ時間をかけたのか…。


 2人は店主さん達にお礼を言うと、


「ハク! オムレツだぞ~!」

「ライム! チュロスだぞぉ!」


 優しく甘い声でそれぞれに私の従魔に声をかけた。


「にゃ~んっ♪」

「ぷきゃ~♪」


 待っていました!とばかりにアルバロとエミルに飛びつく従魔たちを見ていると、どこかで約束をしていたとしか思えないんだけど……。  追求するのも野暮だよね…。 笑顔を浮かべて2人からオムレツとチュロスを受け取った。


「ありがとう!!」

「んにゃん!」

「ぷきゅう!」


 受け取ったものをインベントリにしまっている間に、ハクとライムは力いっぱいにアルバロとエミルに甘えかかっている。 


 ……なかなかに露骨だなぁと少し呆れていると、ちゃんとマルタにも愛想を振っていたから今回は見逃すことにした。


 わざわざ配達をしてくれた店主さん達にも丁寧にお礼を言っていると、


「間に合ったかっ!!」


 イザックが息を切らして走ってきた。


 ………荷物をいっぱい抱えているみたいだけど、どうしたのかな?


ありがとうございました!


先日、同じ読者さまから一度に40箇所弱の誤字報告をいただきました。

句点の後の文章の始まりにハイフンが出るという現象でしたが、作品を確認したところ、作者のPC環境では正常に表示されていますので、閲覧環境による問題の可能性があります。

他にも同様の方がおられましたら、ご一報いただけますか?

運営さまに相談をした方が良いのか検討中ですので……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文字の異常などはありません。 (解決済かもしれませんが、一応 …) アリスちゃんと周囲の人たちの「縁」が たまりませんね。 読むこと=女神の視点? とても楽しませていただいてます。あり…
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