旅立つ前には準備がいっぱい 3
「料理長を褒めてやらなくてはならないな」
モレーノお父さまが笑い出すほどに、今朝の食事は料理人の気合が入ったものになっていた。
味ももちろんだが、彩りや盛り付けがとにかく素晴らしい。 私があまり得意ではない分野なので、目に焼き付けるようにしながら、一品一品をゆっくりと楽しんだ。
「魔物…、オーククラスがそれなりにいて、薪にする為の木を伐採しても問題のない場所?」
「うん。手持ちのオーク肉が少なくなってるから、オークが生息していて、おいしい水の沸く泉とかがあれば最高」
食後のお茶を楽しんでいるとこれからの予定などを聞かれたので、お勧めの場所がないかを聞いてみた。
「……ここから300kmほど北へ向かうと『ラリマー』という街があって、その途中…、そうだな、270km位の所を少し東に行った所に『スフェーン』という森があるんだが、そこはどうだ? 森だから一応水はあるぞ」
「ラリマーの領主はなかなかのやり手だが、悪い噂は聞かないな。 悪くないだろう」
アルバロが勧めてくれた『ラリマー』の街と『スフェーン』の森は悪い場所ではないらしく、お父さまはラリマーの領主を褒めているし、マルタとエミルは「スフェーンか。あたしも行きたいな」と頷いているので、そこに行ってみようかな。
「アリスお嬢さま。 浴室の仕度が整っておりますのでお時間に余裕があるようでしたらお使いになりませんか?」
心が決まりかけていると、ノックの音がしてメイドさんが部屋に入って来た。
(お風呂にゃ!)
(はいる~!)
私より先に従魔2匹が嬉しそうに反応したので、ありがたく使わせてもらうことにした。
これからしばらくはお風呂に入れないことを理由に世話を焼きたがるメイドさんを説得して、ハクとライムと私だけでお風呂に入らせてもらう。
ぷかぷか浮かぶライムに顎を乗せて、目の前を楽しそうに猫掻きで自在に泳いでいるハクを眺めながら、この街で過ごした時間を思い返す。
良いことも嫌なこともたくさんあった忙しい10日間だったな……。 モレーノお父さまや護衛組を始め、色々な人に出会って、助けられた…。
うん、楽しい10日間だった!!
もう少しこの町でゆっくりと過ごしてみたかったけど、あまりゆっくりすると次の土地に移動するのがイヤになりそうだから、いいタイミングなんだろう。
ビジューに貰った戦闘服に身を包み、腰に<鴉>を佩いてお父さまの部屋へ向かうと、タイミングよくお父さまが部屋から出てきた。
お父さまに案内された応接室でアイスクリームを食べていると、護衛組が次々に部屋に入ってくる。
みんなが息を切らしているのを不思議に思っていると、
「『スフェーン』へ行くなら『ラリマー』行きの馬車に乗って途中で降りると楽だ。 昼前に出る馬車があるんだが、乗って行かないか?」
と聞いてくれる。 歩いて旅をするつもりだったけど、せっかく勧めてくれているんだから乗ってみようかな。
予約もなしに乗れるのかと聞くと、マルタが馬車のチケットを渡してくれる。
「お餞別代りに受け取って」
と言ってくれるのでありがたく貰っておくことにした。
「ありがとう!」
マルタにお礼を言うと、マルタは寂しげに笑って私を抱きしめる。
「…………」
何も言わずにしばらく抱きしめてくれてからゆっくりと体を離し、
「あたしもアイスを食べたいわ!」
と笑った。お昼まではまだ時間があるし、湿っぽくなるのはイヤだったから、喜んでインベントリからアイスを取り出した。
「イザックは?」
部屋にいないイザックがどうしたのかと聞くと、みんなは何かを含んだような楽しげな笑顔で笑い出す。
「イザックはしばらく戻ってこないだろうから、代わりに俺が食うぞ! ああ、馬車の乗り場には来るから心配はいらん」
とアルバロが言うと、マルタとエミルが「イザックの分は自分が食べる!」と主張した。 インベントリに入れておけば溶けないんだから、代わりに食べる必要はないんだけどね~?
タイミング良くモレーノお父さまがおかわりを求めて器を差し出したので、イザックの分はお父さまが食べることで決着は付いた。
3人の恨みがましい視線を浴びても、嬉しそうにアイスに手を伸ばすお父さまは、やっぱりなかなかな性格をしていると再認識した。
ラリマーの街の噂やスフェーンの森に生息している魔物や採取物の情報を聞いていると、あっと言う間に時間が過ぎて、馬車の停留所に移動する時間になってもイザックは戻って来なかった。
まあ、馬車の停留所には来てくれるらしいから、お別れを言うのはその時でも大丈夫だ。
屋敷のみんなとの別れをすませて玄関を出ると、そこにも門番さんや庭師さんが立っていて、昨夜の食事のお礼を言って別れを惜しんでくれた。
たったの2日間お世話になっただけなのにここまで心を砕いてくれることをありがたく感じ、後ろ髪を引かれる思いがしたけど、笑顔を浮かべてお別れを言った。
モレーノお父さまの人柄が良いせいか、使用人のみんなもとってもいい人たちだったな。 メイドさん達にはちょっと困らされたりもしたけどね。 きっと良い思い出になるだろうな。
お父さまの家の馬車で、ラリマー行きの馬車の停留所まで送ってもらう。 何回か乗せてもらった馬車よりも一回り大きな馬車で、お父さま、アルバロ、マルタ、エミルと私に従魔2匹が一緒に乗っても、窮屈な感じはしなかった。
今回の御者は執事のフィリップが務めてくれている。 執事って、いろいろと器用なんだなぁ~。
ありがとうございました!




