断固戦います! ……私以外が
王様と宰相さんの反応から、この声の主はこの国の王族だと当たりを付けて、内心で反感を募らせてはいたけど表情には出さないようにして聞き流した。
なるほど、性質の悪い権力者はこうやって情報や利益を掠め取るのか。と納得してしまうほど、女性の声に悪びれた所がなくて驚いてしまう。
彼女にとって…、王族にとっては当然の行動なのかな?とモレーノお父さまの方を見ると、笑顔を浮かべているのにどこか冷たい雰囲気を纏っているように見える。 ……声の持ち主が苦手なのかな?
「それはならぬ!」
「第3妃殿下、それはなりません!」
「恐れながら申し上げます! <商業ギルド>のギルドマスターとして、今の発言は看過いたしかねます!」
私がぼんやりとお父さまを見ている間に、一斉に謎の女性を咎める声が響いた。
この声は、王様と宰相さんとサンダリオギルマスだな。
「な、なんじゃ!?」
謎の女性、どうやら第三妃らしい女性は自分が咎められたことに驚きを隠さない。
それにしても、“第三妃”って何? 王様には3人も妻がいるって事? なんかイヤだなぁ……。 ああ、でも、世継ぎ問題もあるだろうし仕方がないことなのかな? 日本も昔の権力者は何人も妻がいたらしいし…。
第三妃は注意をされても自分に非があるとは思わないらしく、発言を許されたサンダリオギルマスが、
「今のアリスさまのお話は立派な“情報”でございます。 有益な情報には<情報使用料>が発生し、提供者には報酬を受け取る権利がございます。
第三妃殿下がそれを横から取り上げるのを、商業ギルドは黙って見過ごすことはできません!」
と強く訴えても、
「なんと無礼な! それくらいの話、わらわとて知っておったわ」
と言って取り合わず、
「第三妃殿下。 今のアリス殿の発言を己の物として広めることはなりません。 王家の権威に傷がつきます!」
宰相さんが注意をしても、
「なぜじゃ? あの娘の代わりに広めてやろうというわらわの優しさではないか。何を咎められることがあるのじゃ! わらわはこの国の王の妃じゃ。 わらわが広めた方が皆がありがたがるに決まっておろう? あの娘だとて、喜んでわらわに献上するに決まっておる!」
どこまでも自分に都合のいい自論を口にする。 献上するつもりなんて、これっぽっちもないんだけど?
あまりのばかばかしさに思わず吐いたため息に、誰かのため息が重なった。
「……お父さま?」
ため息の出所を見ると、モレーノお父さまが目を閉じてこめかみを押さえていた。
「商人たちの交渉を横から邪魔したばかりか、成人してまだ間もない娘から利益を掠め取ろうとするとは、なんと品のないことか……。 これが我が兄の妻の1人だとは頭が痛いことだな」
いかにも“苦悩している”といった風情の声音だけど、表情は呆れを含んだものだった。 顔が見えないように水晶には背中を向けているから別にいいんだけど…。
これって、第三妃に対して喧嘩を売ってるのかな?
「なっ…! いくらモレーノ殿とてわらわに対して無礼であろう? わらわはそなたの兄の妻、この国の王の妃であるぞ!?」
「陛下の妃であるなら、もう少し思慮深くあっていただきたいものです。 わが国で手柄の横取りがいかに恥ずべきものであるかをご存知ないのですか?」
「手柄の横取りなど…! あの娘が<登録>を拒んだから、わらわが代わりに社交界…に広め終わったら民に広めてやろうとしたのではないか。 民を思うわらわの優しさじゃ!」
「それが商人たちの交渉の邪魔をしているだけだとなぜわからないのか…。 そもそもあなたがこの情報を広めたところで誰がそれを信じるのです? たった今!野菜を“家畜の餌”だと言ったのはどなただったでしょうねぇ?
少なくとも民はあなたが思うほど愚かではない。 あなたがそれを発信したところで、『王家が自分たちの都合のよいように情報を操作しようとしている。 貴族たちが肉を独占するためにごまかそうとしている』としか受け取らないでしょう」
「なら、あの娘ならどうなのじゃ!? あのような小娘が言う事など誰が信じるというのじゃ!」
「第三妃殿下! アリス殿を『あの娘』や『小娘』などとお呼びになるのはおやめください! 先ほどからアリス殿に対してあまりにも無礼でございます!!」
「……なっ!?」
モレーノお父さまと言い争っていた第三妃は、突然参戦した宰相さんの言葉に目を白黒とさせている。
「ぶ、無礼じゃと? 家畜の餌をパーティーの食事に出し、あのような貧相なドレスを恥ずかしげもなく着ている娘に? モレーノ殿の養女にすらなれぬ身分の娘に対して、わらわが無礼じゃと宰相殿は言うのかや?」
「確かにあの食材には私も驚きましたが、話を聞くときちんと根拠のあるものでした。 わが国の食事事情を変える程の情報を教養として持つ方が、どうして身分を持たないと思われるのですか? あのドレスもわが国の流行から見ると一見貧相にも見えますが、アリス殿や隣の婦人の着こなしを見るに、計算された作りであることは見て取れましょう。
陛下や周りの方の態度を見ても、アリス殿がモレーノさまの養女になれない理由は、他国人で身分が高すぎる方だからだとは思われませんか!?」
……宰相さんの私に対する認識が、どこまでも私とはかけ離れたものになっていくのはこの際目を瞑る。 でも、この部屋にいるみんなが頷いていることには納得できない!
私のどこが身分の高い人に見えるの!?
私が内心で滝のような冷や汗をかいているとも知らず、モレーノお父さまが宰相さんの言葉を引き継いだ。
「私もできるならアリスを養女として迎えたい。 だが、国家間の事を考慮し、アリスの本当のご家族がどんな思いでアリスを旅立たせたかを思うから、今の立場で甘んじているのです。
養女には出来なくても、私の娘として扱うことは陛下も了承されていること。 私の娘はあなたに軽んじられる存在ではありませんよ」
「……っっ」
宰相さんとモレーノお父さまに責められて、第三妃はとうとう言葉に詰まってしまい、
「陛下! 陛下の妻であるわらわとモレーノ殿の義理の娘。 この国ではどちらが偉いのですかや!? どちらが陛下にとって大切な存在なのですかや!?」
王様に助けを求めた。
第三妃の気持ちはわかる。 宰相さんと王弟であるモレーノお父さまを敵に回したら、それ以上に権力のある自分の夫に助けを求めるのは当然だ。
王様なら、いくら妻が可愛くても、モレーノお父さまをないがしろにすることはないはずだ。 この場を良い感じに収めてくれるだろうと、私も王様の言葉を待った。
「アリス殿だな」
「……は?」
……へ? 空耳が、聞こえた、かな……?
ありがとうございました!




