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街道 ~人里を目指して~

採取をしたり魔物を狩ったりしながら移動して、森から出られたのは日差しが弱くなり始めた頃だった。


 ライムを従魔部屋から出してやり、水とりんごで休憩をとる。


「もう少し移動して、暗くなり始めたらその辺りで野宿をしようと思うんだけど…」


「それでいいにゃ」

「ぷきゅ」


「でね、晩ごはんなんだけど。

 ワイルドボアが増えたから、最初に足の肉を切り取った個体の毛皮を諦めて、適当に解体して違う部位の肉を食べるか、村に着くまでは串焼きにしている魚と肉で我慢するかなんだけど、どっちがいい?」


「焼いてるのでいいから、肉と魚の両方を食べるのにゃーっ!」

「ぷきゅきゅーっ!」


 食いしん坊達だから、違う部位を食べたがるだろうと思いながら聞いてみたら、予想が外れた。 


「明日も同じメニューなんだけど、飽きないかなぁ?」


 ちょっと心配だ。 私はすでに辛い…。 食べられるだけでも幸運なんだけど、それでも調味料なしは辛い…。


「大丈夫にゃ! ボアの肉が増えたから、ちょっとだけ多めに食べてもいいかにゃ?」

「ぷきゅ?」


「いいよ~。どれくらい食べる?」


「肉と魚を2本ずつにゃ♪」

「ぷきゃ♪」


 ライムはともかく、ハク、そのちっちゃな体のどこにそんなに入るの?


「果物は?」


「今夜はいらないにゃ」

「ぷきゅ」


 バランス的にはあんまりよくなさそうだけど、ま、いいか^^


「わかった。じゃあ、晩ご飯は肉と魚ね!」


 にっこり笑って了承すると、


「早く、移動するにゃ♪ ライムはハウスにゃ♪」

「ぷっきゅ♪」


 いつの間にか、従魔部屋は2匹の間で『ハウス』になったらしい。 私が感心している間も、2匹はご機嫌で移動を催促してきた。


 早く行っても、ごはんの時間は早くはならないよ?








 森から村の方角へは街道らしきものがあった。村から近いから、村人が狩りや採取をしにくる森なのかもしれない。


 しばらく歩くと何かが近づいてくる気配があったのでマップを見ると、名前のない赤いポイントが4つ。 


はじめましての魔物が4頭。 魔力感知に慣れてきて、動物と魔物の区別が付くようになった。


「ハク、まも」

「獲物にゃ♪」


 ハクに伝えようと思ったが、その前に気が付いていたらしい。嬉しそうに笑っている。


 街道から少し離れたところに私の腰ほどの高さの草が生えている。その向こうから近づいてきているが姿が見えない。 小型の魔物かな…?


<鴉>を抜いて待ち構えていると、犬が4頭、鎌鼬(かまいたち)のような風と共に草の中から飛び出してきた。


 鑑定を掛ける余裕は無いが、風を避け、<鴉>を振るって犬を倒すには何の問題も無い。犬が弱いのか、私のレベルが上がっているのか、難なく4頭を倒すことができた。



 名前:ハウンドドッグの死骸 (食用可)

 状態:普通

 備考:毛皮で衣類の製作可。牙でやじりの製作可。

   :肉質はイマイチ。



「これも食用になるみたいだね」


「食べるにゃ?」


「美味しいのを先に食べて、猪も無くなって、他に食べるものがなくなったら食べようか?」


「じゃあ、食べることはないにゃ~。 もっと美味しい肉をいっぱい狩るにゃ!」


 ハクはただの食いしん坊ではなく、美食猫(虎)のようです…。


 私もおいしい肉の方がいいからハウンドドッグは売って、食用には猪を残しておこう^^



 ハウンドドッグの回収が終わると、陽も大分傾いてきたので、先を急ぎながら野宿できそうなところを探す。


 しばらく歩くと草の丈が低く見通しが良くなってきたので、この辺りで野宿をすることにした。


「今日は疲れたね~」


 ライムを従魔部屋(ハウス)から出してやると、その場でピョンピョンと飛び跳ねている。 運動不足解消?


 2匹に約束の肉と魚を出してから、焚き火の支度をする。 ハクに火をつけてもらうと、することがなくなった。


 「複製でもしようかな…」


 昨日、回数が足りなくて出来なかったインナーを複製する。 これで、インナーの予備が2枚ずつになった。


 1枚は複製用に置いておき、当面は2枚を着回して、余裕ができたら枚数を増やしていこう。


 残りは2回。


 やっぱり食料(おにく)の予備を作っておいた方が良いだろう。


 まだ複製を試していないのは、今日狩り立てのオークとハウンドドッグ。


 オークは失敗したがハウンドドッグは成功した。 ワイルドボアもオークも大きいから、それで失敗したのだろうか?  イマイチ美味しくない肉が成功しても、あんまり嬉しくない…。


 小さい魔物で試そうにも、美味しくないコボルトはわざわざ複製したくないし、ゴブリンなんて論外だし……。

 ホーンラビット…。うさぎ肉はシチューにしたら美味しいかも?


 可食部の少ないホーンラビットを複製するのはもったいない気もするけど、角と毛皮は売れるし、検証の為だと思い複製してみた。  


 角を狙って頭を刺してしまった個体で試したら、成功した。 刺した傷もそのまま複製していたので、このままの状態で同じ場所で売ると都合が悪そうだ。


 色、大きさ、傷の位置がまったく同じ個体が複数あったら、【複製】のスキルがバレかねない。

 売りに行くときは慎重に考えよう。


「アリスは食べないのにゃ?」


「うん? 後で食べるよ?」


 今は、味付けしてない肉や魚を食べるのが辛いんだ…。


「……食べないと体が持たないにゃ」


 …さらっと流したつもりだったけど、ハクにはお見通しらしい。


 果物を出して皆で食べた。 果物はいらないって言っていた2匹も付き合ってくれた。


 果物はそのままでも美味しくて、助かるな。


 暇だったので、採取していた椎茸をインベントリから出して、串に刺しておく。


 『シーダの森』は狭くはない森だったのに、椎茸しか食べられるきのこを採取できなかった。


 他のきのこも生えてはいたが、毒キノコだった。 何かに使えそうな気はしたけど、マップに赤ポイントが付かなかったので、今は必要がないキノコだと割り切り、時間短縮のために放置した。


「その椎茸は今日食べるのにゃ?」


「ハク、食べたいの? 焼こうか?」


 焼いておいたら、明日からのメニューも増えるし。


「僕はいらないにゃ。アリスは食べるにゃ?」


「私もいいよ」


 お醤油も欲しいなぁ…。 調味料ナシはやっぱり辛い……。 焼き椎茸をお醤油とかポン酢で食べたいなぁ。


「…だったらもう寝るにゃ」


「まだ、早くない?」


「食べないなら、もう寝るにゃ。 明日も移動にゃ!」


 …心配を掛けてしまっているらしいから、素直にしたがっておこう。


「そうだね、もう寝ようか。警か」

「僕がするにゃ! 警戒は僕の役目にゃ! アリスはさっさと寝るにゃ!」


「…うん、いつもありがとうね。 宿に泊まれたら、一緒にゆっくり寝ようね!」


 …いつの間にか警戒はハクの役目になっていたらしい。 ありがたく甘えさせてもらおう。


「ライム、ハウスに入る?」


 インベントリ内の方が安全だと思い勧めてみたけど、入る様子はない。


「入りたくなったら起こしてね?」


 そう声をかけて、焚き火の側で座ったまま寝ようとしたら、


「ぷっきゅう♪」


 ライムが鳴いて、私の背中にへばりついてきた。


 何が言いたいんだろう?と、不思議に思っていると、


「ライムがクッションになるから、横になって休むにゃ」


 ハクが通訳してくれた。


 でも、そんなことしたらライムが潰れちゃうし…。


 どうしようかと困っていると、ライムが地面に降りて平べったく伸びてしまった。


 倒したあとのスライムの様だったので、どこか具合でも悪いのかと焦ったが、


「ほら、横になるにゃ!」

「ぷっきゅう!」


 2匹の様子で、これがライムのクッション形態なんだとわかってほっとした。


 スライムは思いやり深い魔物なのかな?と思ったが、青いスライムに普通に襲われたことを思い出した。 


 この優しさはライムの個性なんだろう。


「重くないの?」


 今更だけど、心配になって聞くと、


「ぷきゅ♪」

「『余裕♪』って言ってるにゃー」


 とのことだったので、甘えさせてもらうことにした。


 うちの従魔は2匹とも優しい子で、私はとても恵まれている。


“これが当たり前だと思わないように”と自分を戒めながら、ぷるんぷるんのライムの上に身体を預けた。


「ハク、ライム。ありがとうね。 おやすみ」


「おやすみにゃ♪」

「ぷきゅ♪」


 明日、村に着いたら、美味しいものをいっぱい食べようね!


ありがとうございました!

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