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森から出よう!

 目覚めると、背中はライムのぷにぷにに柔らかく包まれていて、首筋にはふわっふわのハクの毛皮の感触があった。


 昨日、たまたまじゃなかったらしい。 従魔2匹の思いやりだった。


「おはよう。ハクもライムもありがとうね!」


「おはようにゃ。どういたしましてにゃ!」

「ぷきゃ~!」


 ライムのお陰で背中は痛くないし、ハクのお陰で寒さを感じなかった。 ありがたい。


「顔を洗ったら、ごはんにしようね」


 そう言うと、2匹は競うように湖に飛び込んだ。


 私も、昨日用意しておいた肉串20本を全て焚き火の周りに挿してから、2匹の後を追った。




 焚き火の側に昨夜複製したインナーを干してから、肉串の焼け具合を見る。


 焼けるまでまだ時間がかかりそうなので、今の内にライムを呼んで魚の内臓の処理をしておく。 これで食べたい時に焼くだけだ。 


 数日間は、食事の用意で手間取る事もないだろう。


 串を刺した魚をインベントリにしまい、焼いている肉串を見ると、ハクが面倒を見てくれていた。 小さな前肢を器用に使い、串を回している。


「また、インベントリにしまうのにゃ?」


 残念そうに聞かれてちょっとだけ躊躇ったけど、焼けた順に保存分をインベントリに収納する。


 2匹の視線が刺さって痛い…。


 焼けた肉とりんごで朝ごはんにしながら、今日の予定を立てる。


「今日はこの森を出て、近くの村に向かおう。 距離はこの森から北西の方角に30km位。 

 私たちは今、この森の南東の位置にいるから、森をこのまま北西の方角に抜けていくルートで行こうと思う。 

 ルート上の採取物は採取して、魔物がいたら狩っていく方向でどう?」


「それで良いにゃ!」

「ぷきゅ!」


 2匹も異存は無いようだ。  食べ終わり次第、出発しよう!











 昨日とは進む方角が違うからか、


 名前:毒消し草

 備考:解毒薬の材料。 茶にして飲むと病気の予防になる。


 が群生していた。見た目はドクダミ草に似ている。ドクダミ茶は生活習慣病の予防になるから、効能的にも似ているかな?


 どの程度の毒を解毒するのかはわからないけど、解毒薬を作れば売れるに違いない。 一面に生えているし、多めに摘んでも大丈夫だろう。 


「毒消し草は役に立ちそうだから、いっぱい採取しておこう!」


「イヤにゃ!!」


 お金になりそうだからハクも喜ぶかと思ったら、間髪置かずに拒否された。


「ここは臭いから、早く先に行くにゃっ!」


 猫(虎)だから、臭いがきついのが苦手らしい。


「でも、これで解毒薬を作ったら売れるかもしれないし」


「こんな臭いの売れっこないにゃ!」


 確かに臭いけど、そこまで臭いかなぁ?  でも、ハクが辛いのはよくない。


「じゃあ、従魔部屋に入ってていいよ。採取し終わったら声をかけるから」


「それはダメにゃ! こんなところでアリスを独りに出来ないにゃ!」


「大丈夫だよ! ちゃんと魔力感知を使っているし、マップもこまめに確認するから」


 群生地が目の前にあるのに素通りするなんてできない!


「この2日間、強い魔物には遭ってないし、私も少しは戦闘に慣れてきているし!

 こんなにいっぱい材料があれば、薬師スキルを上げるのにも役立つだろうし、もし、効能がイマイチで安くしか売れなくても、元手がただなら利益になるよ!」


 ハクはまだ納得してくれない。 でも、


「お金に余裕ができたら、美味しいものがいっぱい食べられるよ!!」


 これでどうだ!


「…わかったにゃ。 なら早く採取するのにゃ」


 ハクは前肢で鼻を押さえ、悲壮な顔をしながら折れた。 でも、そんな悲壮な顔で側にいられると私が落ち着かない。


「大丈夫だから、ハクは従魔部屋で待ってて? ビジューの装備もあるし、私も十分に気をつけるから、大丈夫!」


 インベントリを開いて説得した。


「すぐ、だよ。 ね?」


 ハクを掴み、従魔部屋に押し込もうとすると、やっと諦めて、


「わかったから、くれぐれも気をつけるにゃ! そして、僕を早く外に出すにゃ! 約束にゃ!」


 念押ししながら、しぶしぶと従魔部屋に入って行った。


 独りになると、森が静かなことに気がつく。 やっぱり少し心細くて、早くハクに出てきてもらうために毒消し草の採取に集中した。


 ………集中してしまったのが、いけなかった。


 魔力感知の反応に気がつくのが遅れ、気づくと同時に見えたのは、剣を持つ2本足の大きな豚。


 首から下は力士みたいな体型で、顔はどうみても豚。可愛くない方の豚。



 名前:オーク

 状態:興奮



 オークだった。 でっぷりとした腹の下を布で覆っているだけなので、どこが興奮しているのかが丸わかり…。


「オオオオオオオオオッッ!!」


 あまりのおぞましさに一瞬硬直してしまったけど、オークの雄叫びで正気づいた。


 こんな醜いヤツに好きにされるなんて、冗談じゃない!


<鴉>を構えてオークを睨み付けると、オークは持っていた剣を投げ捨て、足元の石や木の枝を投げつけてきた。


「ッッ!?」


 意表を突かれて避けることしかできない隙に、オークは私に掴みかかろうとすぐ側まで迫って来ている。


 剣で私を殺そうとしないことにオークの目的を痛感し、おぞましさに血の気が引くが、<鴉>を強く握り締め、気力を振り絞る。


 上から覆いかぶさるように迫ってくるのを何とか避けて、尻を力いっぱい蹴り付けてやる。体勢を崩した所を狙って、後ろから脳天目掛けて一気に刃を振り下ろした。


「グギャッ!!」


<鴉>は狙い通りにオークを両断し、オークは大量の血しぶきを上げながら地面に倒れこむ。


 とっさに後ろに下がって返り血は避けたが、オークの欲に()てられたのか、少し気分が悪い。 


 毒消し草にもオークの血がかかってしまったのでこれ以上の採取は諦め、ハクを出すことにする。


 オークの流血が落ち着いて収納してからにしようかとも思ったが、後から説明をするよりも現状を見せた方が早いと判断して、このままの状態でハクを呼んだ。


「オーク…。アリス、大丈夫にゃ!?」


 ハクはひと目で現状を把握したらしく、私に飛びついて来た。 頬に柔らかいハクの毛が触れ、その感触に癒されながら状況を説明する。


「やっぱり独りにするんじゃなかったのにゃ……」


 そう言って、ハクは私の頬にスリスリしながら落ち込んいる。


「いや、怪我1つなく無事だったし、大丈夫だよ?」


 悪いのは油断していた私だし。 ハクは何も悪くないので落ち込む必要なんてない。 慰めようと思っても、


「アリス、顔が真っ白にゃ。 怖い思いをさせたのにゃ…」


 確かに怖かったし気分も悪いから顔色は良くないだろうが、ハクが気にすることじゃない。


「本当にもう、大丈夫だよ。ハクの顔見て安心しちゃった。 ねえ、それよりも、オークが食べられるって鑑定に出るんだけど…」


 ハクへの対応に困って、なんとなしにオークを鑑定してみると、



 名前:オークの死骸 (食用可)

 状態:優      (血抜き済み)

 備考:美味しい



 この見た目で“美味しい”って言われても……。


「食べられるの?」


「鑑定で、“食べられる”って出たんだにゃ?」


 確かに鑑定にはそう出たんだけど、


「見た目がちょっと……」


「ボアは食べてるにゃ?」


 ………………。


「美味しいの?」


「ボアより美味しいらしいにゃ♪」


 そっかぁ……。


 じゃあ、回収しようかな。 オークが投げ捨てた剣も忘れずに!







 血の臭いが充満している場所から早く離れたいので、さっさと移動を再開する。


 途中で毒消し草の群生地をみつけたけど、そのまま通り過ぎようとしたら、


「さっき、採取できなかった分も、まとめて採っていくにゃ!」


 と言って、ハクは私の肩にへばりついた。


「でも、ハクには臭いがきついでしょ? 無理しなくていいよ」


 そう言ったら、


「いっぱい材料があれば薬師スキルを上げるのに役立つし、安くしか売れなくても利益が出るにゃ! 美味しいものを食べるのにゃ!」


 私がさっき言った事を、そのままハクから返されてしまった。


「じゃあ、従魔部屋に入っ」

「ここにいるにゃっ!!!」


 入っていた方がいいと思うんだけどなぁ。 でも、一緒にいてくれると心強い。


「毒消し草の臭いは我慢できそう?」


「大丈夫にゃ。警戒は任せるにゃ!」


 悲壮な顔のまま警戒をしているハクに辛い思いをさせないように急いで採取をすませようと、オークの持っていた剣でザクザク刈っていると、


「品質が落ちるにゃ!」


 と叱られてしまった…。  気を遣ったつもりだったんだよ…。


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1人にしなければっていうかだだこねずに我慢してればよかっただけでは?
[一言] 「毒消し草にもオークの血がかかってしまったのでこれ以上の採取は諦め、ハクを出すことにする。」 戦闘中なのにまだ、毒消し草の採取のこと考えているの?
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