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試食会 2回目 5

「アリスさんの故郷とはいったいどちら……、あ、いや! これは失礼を…!」


 “故郷”を聞かれて一瞬ギクッとしたけど、幹部さんはすぐに発言を取り消してくれた。 訳ありだと思ってくれたのかな?


 なんにせよ、あまり“故郷”を言い訳に使うのも良くないな。 聞かれても正直に答えられない。


「えっと、ですな…。 アリスさんの故郷の知識を広めていただくことで、アリスさんが“情報を流出させた”と責められることがなければいいんですが……」


 “情報流出”かぁ。 なかなか不穏な単語だな。


 それまでは穏やかにお茶を楽しんでいたモレーノお父さまも、心配そうに私を見ている。


「それに関しては心配ないわ。 私が知っている程度のことなら、何を話しても大丈夫」


 ビジューからは何も注意されていないし、地球の神だって、そんなことを気にするなら地球人の魂を<ビジュー>に送り出したりしないだろう。


 自信を持って“大丈夫”と笑いかけると、いくつもの安心した笑顔が返ってきた。 …そんなことまで心配してくれるなんて、優しい人たちだなぁ。


 もしも旅先の商業ギルドの人たちとソリが合わなかったら、ここまで戻って来て登録するのもありかもしれないな。







「ふむ……。 水も新商品も、摂取量はほぼ同じ様なものですが、回復するまでの時間に違いが出るようですな」


 外を走り終わった職員たちが戻って来ると、ギルマスは4つのグループをまた半分の8つに分けた。


 一度戻ったときにスポーツドリンクを飲んで行った組の片方にはもう一度スポーツドリンクを、もう片方には水を飲ませ、水を飲んで行った組も同様に、片方にはスポーツドリンクを、もう片方には水を飲んでもらって経過を観察する。


 水分補給をした直後は皆さん黙って呼吸を整えるだけだったが、少しずつ話す元気が戻って来たようで、自分たちが飲んだ水やスポーツドリンクの味について嬉しそうに話し始めた。 


 ギルマスはその様子をじっと観察し、回復が早かった人が飲んだものをチェックしていたのだ。


「もちろん、元々の体力などの個人差もあるでしょうから一概には言えませんが、今回は新商品を摂取した者の方が回復が早いようですね。 

 飲んだ者が“最初はとても美味しく感じたのに、なぜか途中から美味しく感じなくなった”と言っているのもアリスさんの話のとおりですし。 これも登録予定にしておいて、ゆっくりと検証をしましょう」


 ………サンダリオギルマスが満面の笑みで笑いかけてくれるから、とっても言い辛いんだけど、


「この飲み物のレシピはモレーノお父さまへプレゼントするから、登録しないの。 お父さまが自分の名前で登録するのは自由だけど、他店との差別化を図るなら登録しない方が良いとは思う。 ……ごめんなさい」


 ギルドの職員をただ働きさせてしまったことを詫びて、依頼として受けてくれるなら、先ほどの検証実験の代金を支払うことを伝えると、最初は愕然としていたギルマスが急に声を上げて笑い出した。


「他店との差別化! アリスさんは確かにそう言っていましたね!! これは私が先走り過ぎてしまったらしい!!」


 気を悪くするだろうと思っていたのに、ギルマスは困ったように笑うだけで恨み言を口にする気配はない。 そのせいか、憤慨して立ち上がった幹部たちがきまり悪そうに椅子に座り直した。


 サンダリオギルマスの行動は私を庇うための計算なのかな? と思っていると、ベルトランギルドマスターが喉の奥で笑いながらギルマスの肩を叩いた。


「気持ちはわかるけどな。 私も<冒険者ギルド>内で売りに出したいと思ったよ。 ハードな戦闘をする冒険者たちにぴったりの飲み物じゃないか?」


「ああ、わたしも<商業ギルド>内で売りに出したいと思ってしまった。 風邪や発熱程度では<治癒士>に掛かれない病人に売ってやりたいと思ってしまったんだ」


 2つのギルドのマスターたちの話を聞くと、登録をしないことの罪悪感が湧き上がってくる。


 でも、これはこれから迷惑を掛け続けるだろうモレーノお父さまへのプレゼントだから登録はできない。


 何か新しい商品を登録しようにも今すぐになんて何も思いつかないし……。


「では、<秘匿登録>をされませんか?」


 私が困っていることに気が付いたサンダリオギルマスは、<秘匿登録>というものを勧めてくれたけど、秘匿登録って何だろう? 


 秘匿なのに登録するの? わけがわからない……。


 目が合ったお父さまに視線で助けを求めると、苦笑しながら説明をしてくれる。


 商品や情報を<秘匿登録>して登録手数料を支払うと、商業ギルドは15年間の間はレシピを公開せずに、類似レシピの登録を却下したり、類似品を売っているところがあると取り締まってくれるらしい。 


 そんなことをして、商業ギルドに何の利益があるのかを聞いてみると、類似品を売っている店からのペナルティは、ギルドの収入になるそうだ。 


 登録者は利益が守られて、ギルド側は秘密にしたいレシピを預けてもらえる『信用』と摘発した店からの臨時収入を得ることになるらしい。 いわゆるwin-winだね。


 でも、15年後には期限が切れてしまうので、15年後に<公開登録>に切り替えるのが普通の流れらしい。 自分の登録したレシピに自信がある人は、誰かに解明されるまでは何もしないで放っておく人もいるらしいが、それはごく少数とのことだった。


 ……お父さまはどう判断するんだろう?


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「そんなことをして、商業ギルドに何の利益があるのかを聞いてみると、類似品を売っている店からのペナルティは、ギルドの収入になるそうだ」 意味がわからない。登録していない製品を売って、どうして…
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