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モレーノ邸 3

「んっ~! お風呂上りはやっぱりコレだね~♪」

(最高にゃ!)

(さいこう!)

「なに、この贅沢感。 クセになりそう…」


 お風呂上りの冷たいミルクは最高♪ もちろんカップも冷え冷えに冷やしている。


 氷魔法万歳! 時間経過のないインベントリありがとう!  これからもよろしくね!


 この世界を創ったビジューに感謝していると、視線を感じた。


 振り返ると、バスローブ姿でカップを掲げながら感動している私を見てメイドさん達が笑いを噛み殺している。   いいんだよ~? 笑ってくれても!


「はい、あなたたちも! 浴室は暑かったでしょう? きちんと水分を取らないとね」


 浴室で私たちの世話をする気満々だったメイドさん達だったけど、私もマルタも自分のことは自分でできるので丁重にお世話を辞退した。 それでも浴室内で待機し続けてくれていたんだから喉が渇いているはずだと思い、冷たいミルクのお裾分けだ。


「いいえ、私たちは大丈夫ですので……」


「アリスの出してくれるミルクは最高に美味しいから、遠慮すると損よ?  

 以前に似たようなことがあった時にモレーノさまが“褒美だと思って受け取るといい”って言っていたから、貰っても叱られないわ」


 断ろうとするメイドさん達にマルタが声を掛けると、おずおずとだが嬉しそうにカップを手にする。


 ……マルタのフォローがないと、素直に聞いてくれないんだよね。 ちょっと寂しい。


(おかわりにゃ♪)

(おかわり~!) 


 私の内心を読んだようなタイミングで2匹がおかわりを要求するので、喜んで継ぎ足してあげる。…ついでになでなでしてふわっふわのぷるっぷるを堪能しておいた。


「こんなに美味しいミルクは初めて!」

「このお屋敷で奉公できて幸せ~!」


 といった声が聞こえるので、よっぽど喉が渇いていたんだろう。 もっと早くに気が付いてあげればよかったな。 ちょっとだけ反省した。









 汗が引いて落ち着いたのでインベントリにしまっておいたキモノを着ようとすると、メイドさん達に止められた。


 着替えのドレスが用意されていたのだ。 


 1人で着脱するのは難しそうだったのでマルタと2人で辞退しようとしたんだけど、今回はメイドさん達も引いてくれない。


 自分たちの着ていた服を【クリーン】で清潔にしているから着替えはこれでいいと言っても、ドレスの素材の説明から始まって絶対に似合うとの太鼓判、最後にはメイドさん達が揃っての泣き落とし攻撃にあい、仕方なくドレスを着ることになってしまう。


 食事の前という事もあり、今まで身に付けたことのないコルセットを拒否することはメイドさん達も許してくれたが、装飾品で飾られることは拒否できなかった。


 私は流威(おとうと)に貰ったダイヤのネックレスとモレーノ裁判官から贈られたターフェアイトの髪飾りがあるから良かったが、マルタは色々と試着を重ねていて大変そうだ。 


 まあ、マルタ自身は楽しそうだから、良いのかもしれないけど。


「お嬢さまのネックレスのダイヤは小粒ながらも大変に素晴らしいものですね! 見たこともない素敵なカットです」


 と褒められて喜び、


「お嬢さまの白い肌に、旦那様の守護石のターフェアイトがとても映えますね」


 と言われて照れている間にマルタの装飾品も無事に決まり、着替え終えて鏡の前に立つ。


「とてもお似合いでございます!」

「まるでお2人のために誂えたかのように、よくお似合いです!」


 メイドさん達は誇らしそうに褒めてくれるけど、人生で初めて着るドレスはコスプレ感が半端じゃなくて気恥ずかしい。 着物ドレスは馴染めたんだけどなぁ…。


 隣で鏡を見ながら嬉しそうに笑っているマルタは“お姐さん”から“お嬢さま”へ華麗な変身を遂げていて、男性陣の反応が楽しみだ!










「おっ…!?」

「……へぇ」

「悪くないな」


 メイドさんの案内で着いた食堂には、武装を解いてフォーマルな服に着替えたアルバロたちが居心地の悪そうな顔で待っていた。


 3人は期待したとおり、びっくりしたように目を見張ってマルタ(と私)を見ている。


「あはは! なによ、あんたたち。 結構似合ってるじゃない?」

「……おいおい、せっかくどこのお嬢さまだ?ってくらいに化けてるのに、口を開いたら台無しじゃねぇか」

「やっぱりマルタはマルタだな」

「俺たちも似たようなもんだけどな!」

「「違いない!」」


 “あはははははは”と声を上げて笑っている4人はすっかりリラックスした顔になり、さっきまでの居心地の悪そうな雰囲気は消えていた。


「アリスはやっぱりアリスだな」

「やっぱり“お姫さま”だったんだな~」・

「ああ、生まれは隠せない」


 3人の意識が私に向いて、相変わらず誤解が解けていないことにはがっかりしたけど、ハクとライムを前に押し出すと、3人の意識はあっさりと2匹に移った。


「ハクとライムもリボンでおめかしか。 似合っているぞ!」

「ライムはどうやってリボンをつけているんだ…?」

「そこはライムだからな。 何でもありだろう」

「確かに! 謎が一つ解けたわね」


 ……謎は謎のままで、何も解けてないよ? ライムの生態は不思議がいっぱいのままだ。


 みんなは一見リラックスしているように見えていたけど実はそれなりに緊張しているらしく、さっきからずっとしゃべりっぱなしだ。


 私たちと別れてから各自の部屋についていたお風呂で汗を流し、メイドさん達に髪を整えられてから、用意された服を大人しく借りてここで私たちを待っていたこと。 


 3人の浴室内にはメイドの代わりに従僕がいて、遠慮なく背中を流してもらって気持ちが良かったこと。


 用意された服にはボタンが多く、メイドが掛けてくれたのはいいが手の置き場に困ったこと。


 窓から見えた警備の人間が元冒険者の知り合いでお互いに驚いたことなど、黙って聞いているだけで、離れていた間に3人がどんな時間を過ごしていたかが分かってしまう。


 でも、食事の前に少し落ち着かせた方が良さそうだ。


「3人ともカモミールティーを飲む? 少しは落ち着くよ」


 ティーポットを取り出しながら声を掛けると、


「私にも」


 と後ろからモレーノ裁判官の声が掛かる。 


 しまった! 食前に自前のお茶を出すなんて、招いてくれた裁判官に失礼なことをしちゃったよ……。


ありがとうございました!

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