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モレーノ邸 1

「あ、それ俺がやりたい!」

「あたしも!」


 固まったゼリーをフォークで崩そうとすると、アルバロとマルタがやりたい!と手を挙げたので任せることにする。


「なんか、楽しいよな!」

「うん、気持ちいい!」


 キレイな表面をフォークで崩しながら笑い合う2人は子供みたいに無邪気な笑顔だ。 私も新雪に足跡を残したくなるから、2人の気持ちは理解できる。


「まよねーずができたぞ! 味見してくれ」


 エミルとイザックは2人でマヨネーズを作ってくれていた。 大変な作業を買って出てくれた2人には感謝だ!


「ん。完璧! 2人はもうレシピなしでも大丈夫だね!」


「…いいのか?」


「ん?」


「レシピを買わずに作っても良いのか?」


 エミルが家庭教師のような顔をして聞くけど、気にせずに、 


「もう、買う必要ないでしょ?」


 と答えると、大きなため息を吐かれた。


「アリスは商人には向いていないな……。  そう言うときは“ちゃんと買ってね!”って言うんだ」


「そんな無駄金を使うくらいなら、孤児院にでも寄付した方がずっと良いよね?」


「……わかった。寄付しておく」


 エミルが苦笑しながら言うと、隣にいたイザックだけでなく、アルバロもマルタも大きく頷いた。


「…寄付の強要じゃないよ?」


「わかってるよ。 浮いた金を有意義に使うだけさ」


「エール(ビール)に消えるよりは有意義だな」


 仕事終わりのエールも十分に有意義だと思うけど…。 まあ、いっか! 寄付しようって心が大事なんだもんね。


「アリスさま、そろそろモレーノさまの本日の仕事が終わります」


「は~い!」


 裁判所の簡易キッチンが借りられたお陰で明日の試食会用の料理は十分にストックができた。 


 朝ごはん用に何か新しいメニューをと思っていたんだけど、時間がなくて手が回らなかったので諦めることにする。


 護衛組には申し訳ないけど、食べたことのあるメニューから選んでもらうとしよう。










「歩いても良かったんじゃないのか?」


 先に馬車から降りていたイザックの疑問ももっともで、モレーノ裁判官の屋敷は裁判所から馬車で3分とかからないほど近くにあった。馬車2台分の仕度の手間を考えたら、歩いた方が早かったかもしれない。


「裁判官は恨みを買うのも仕事のうちだからな」


 護衛組が首をひねっているのがおかしかったのか、ウーゴ隊長が苦笑しながら教えてくれる。 暴漢対策だったらしい。 物騒だな……。 


「大丈夫ですよ。 我々が護衛をしていることももちろんですが、モレーノさまご自身も大変にお強いのです」


 モレーノ裁判官のエスコートで馬車を降りようとしていた私の眉間にしわが寄ったのを見て、ウーゴ隊長が安心させるように笑いながら説明してくれるが、私にはモレーノ裁判官が剣を持って闘う姿が想像できない。


 私を安心させるために大げさに言っているのかと疑っていると、アルバロが私を見上げながら言った。


「ウーゴ隊長の言ってることは本当だぞ。 王弟殿下は剣も魔法も騎士団長仕込みでかなりの腕だと評判だった」


「あたしも聞いたことある! モレーノさまのことだとは思ってなかったけど」


 ウーゴ隊長だけじゃなく、冒険者の2人の耳にまで届いていた武勇は本当らしい。


 ああ、だから、盗賊団を町の外で迎え撃とうとした時に自分も来るって言っていたのか。  穏やかな紳士にしか見えないのに、人は見かけによらないな……。


 今も私がステップを踏み外さないように、優しく手を引いてくれているモレーノ裁判官からはとても想像できない。









 モレーノ裁判官の住まいは予想以上に素晴らしいものだった。 屋敷の大きさは町長の家よりやや小さいくらいだったけど、白で統一された外観は、モレーノ裁判官の人間性を写し取ったかのように品が良い。


 モレーノ裁判官にエスコートされて玄関をくぐると、


「「「「おかえりなさいませ!」」」」


 使用人たちが揃って迎えてくれる。  高級な旅館に来た気分だな。


「旦那様、お嬢さま。 おかえりなさいませ。  いらっしゃいませ、お客さま方。 ようこそお越しくださいました」


「ああ、帰ったよ」


 執事らしい初老の男性が挨拶をしてくれたので、


「こんばんは! 2日間お世話になります」


 と挨拶を返すと、とても悲しそうな顔になった。 ピンと美しく伸びていた背も心なしか丸くなったような…?


 どうしたのかとモレーノ裁判官に視線を向けると、裁判官も寂しそうな顔で私を見ている。


 困って護衛組に助けを求めると、


「さっき、お嬢さまに向かっておかえりなさいって言っていたな。 ここでお嬢さまと呼ばれるのはアリスしかいないだろう?」


 エミルの解説を聞いて裁判官に視線で尋ねるとゆっくりと頷いたので、どうやらそういうことらしい。


「……た、ただいま?」


「はい! お帰りをお待ちしておりました。 お疲れではございませんか? 浴室の準備が整っておりますが」


 “帰宅の挨拶”に切り替えて言い直すと、モレーノ裁判官は満面の笑みを浮かべ、執事は元気を取り戻した。 


 ……お風呂の準備までしてくれているし、私を“お嬢さま”と呼んでいることから前もって連絡をしていたことはわかるけど、どういう風に連絡をしていたかがとっても気になる。 私はどういう態度を取るのが正解なんだろう?


 とりあえず、今聞かれているのは“お風呂をどうするか”だ。 お邪魔したばかりでずうずうしいかも?とは思うけど、もう準備が整っているのなら素直に甘えた方がいい気もする。 


「従魔も一緒に入られますか?  よろしければわたくし共でお世話をさせていただきますが」


 私の迷いが伝わったのか、返事をする前に“今すぐお風呂に入る”前提で話が進みだした。


(アリスと一緒にゃ!)

(おふろはありすとはいる~♪)


 2匹もお風呂を楽しみにしているし遠慮を捨てて入浴を希望すると、執事が視線で2人の女性を呼んだ。


 お風呂まで案内をしてくれるらしい。 モレーノ裁判官に促されて後を付いていこうとすると、マルタが一緒に入りたいと希望した。 お風呂の大きさがわからなかったので執事に視線を向けると、にっこりと頷いて新しく2人の女性を指名する。 ………案内に4人も必要ないんだけど。 


「では、アリスさん。 また後で」


 モレーノ裁判官が奥へと歩き出してしまったので、皆さんへの挨拶もそこそこに私たちはお風呂に向かった。


 ……この世界で初めてのお風呂! どんなんだろう?


ありがとうございました!

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