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モレーノという男性(ひと)… 6

 “可愛い弟自慢大会”が一段落つくまで待ってくれていたサンダリオギルマスに「明日の夜には町を出て行くから登録はまた今度」と告げると、法廷はハクが耳を塞ぐほどの喧騒に包まれた。


「どうしてそんなに急に!?」


 護衛組にも詳しい予定を言っていなかったから、血相を変えた4人に取り囲まれてしまう。


「この町でやらなくてはいけないことは済んだし、明後日で滞在が10日目になるの。また通行税が掛かってくるからその前に出ていかないと」


「通行税って……、5千メレだよな?」


「うん。大金でしょ?」


「…………そうだな」


 護衛組は通行税を払いたくないと言うと納得してくれたけど、サンダリオギルマスが「通行税は自分が、いや、ギルドが払う!」と言い出して断るのが大変だった。


 ベルトランギルドマスターが、今の私には5千メレは大きな出費ではないだろうと呆れた声で言ったので、次の町では宿に泊まろうと思っていることや買い物をするためにも1メレも無駄にできないことを説明する。


「宿代って、1泊4~5千メレだっけ?」


「ん~、お風呂が付いている宿は最低でも50万メレって聞いたよ?」


「風呂って……、アリスには【クリーン】があるんだから別に必要ないだろう?」


「えーっ!?  お風呂と【クリーン】はまったく別物だよっ!  一日の終わりにはたっぷりのお湯の中で手足を伸ばして寛ぎたい!!」


「……毎日か?」


「うん!」


 何か言いたそうな顔をしながらも護衛組が黙り込むと、モレーノ裁判官が、


「だったら今夜からうちに泊まりませんか? お風呂がありますよ」


 と誘ってくれた。


「通行税は11日目に掛かるので、町を出るのは明後日でも大丈夫です。 2日間はお風呂に入れますよ?」


「おお、それは良い! 旅立ちの英気を養うためにも、モレーノの屋敷でゆっくりと過ごしてはどうか? モレーノの抱えている菓子職人の作るフィナンシェはなかなかの味だぞ」


「んにゃ~ん♪」

「ぷきゃ~!」


 お風呂とおいしいお菓子の誘いに、私が返事をする前に従魔たちが喜んで返事をしてしまう。


 可愛く鳴いたと思ったら、2匹同時にモレーノ裁判官の胸元目がけて飛び込んでいった……。 気持ちは分かるけど、ね。 私が何も食べさせていないみたいで、ちょっと恥ずかしいよ?


「アルバロ達もどうだ?」


「ぜひっ!」


 モレーノ裁判官の誘いに護衛組も喜んで了承し、私は自分で返事をすることなく、お泊りの予定が決まってしまった。


 その後も、王様が、


「アリス殿は公にはモレーノの被後見人であるが、実質は娘のようなものだ。 

 よし、モレーノに新しい家族ができた祝いに、その町とネフ村の一帯を新公爵の領地としよう!」


 と言い出し、せっかくの王家の収入源なのに良いのか?という疑問は、


「そうですな。 モレーノさまは最高裁判所の長官に就任されるので王都に引越しをされますが、モレーノさまにとってもジャスパーは馴染んだ土地、アリス殿にとってネフ村は思いの深い土地のようです。 

 元からの領地とは飛び地になってしまいますが、モレーノさまでしたら問題なく、お2人にとってもわが国にとっても良い統治をされることは間違いございませんでしょう。 

 陛下、英断でございます!」


 宰相の楽しげな声で解消された。


 私としても、マルゴさん達の住む村をモレーノ裁判官が治めてくれるなら安心できる。


 水晶に向かって拍手を送っていると王様が咳払いをしたので、手を止めて注目してみると、


「あ~、それでだな、アリス殿?

 後見人の領地を潤してやろうとは思わないか?」


「はい?」


「予は、モレーノが3回もおかわりをしている、その美しい菓子を早く食べたいのだ! 旅に出る前に、その町でレシピ登録をしてはくれぬか?」


「そうですな! 旅先で落ち着くまでの日数など待てません! モレーノさまの領地で登録されてから出発してはいかがでしょう!」


 威厳たっぷりに話し始めた王様だったが、内容と話の後半の口調はただの駄々っ子のようで……。


 本当に嬉しそうな声で追従する宰相の様子とあいまって、絆されてしまった。


 サンダリオギルマスと相談して、明日の朝に登録試食会を開くことが決まる。


 条件は前回と一緒で有料。 そして私はひたすら作るだけ。  前回と違うのは、会場の隅で従魔と護衛組が朝ごはん(当然無料)を食べることだけだ。


 商業ギルドとは無関係で、試食会には不参加のモレーノ裁判官とベルトランギルドマスターの冷たい視線をものともせずに喜ぶサンダリオギルマスを見て、


「ギルマス、今まで思い通りにならなかったことってあります?」


 と聞いてしまったのは仕方がないと思う。


「……思い通りになってくれない方が何を言っているのです?」


「え、私!? なんだかんだで最後はギルマスの思うとおりになってるのに!? 今回だって、陛下や宰相…さままで味方につけてるし…」


「そんなことは!」

「アリス殿! 私の事はどうぞ呼び捨てで! せめて、殿くらいで!」


 さっきから冷たい視線でサンダリオギルマスを見ていたモレーノ裁判官とベルトランギルドマスターは、宰相の叫びには頷きを返したけど、サンダリオギルマスの声には首を横に振っている。


「ああ、もう! わかりましたよ!  モレーノさまとベルトランも明日の試食会に参加してください! もちろんギルドが食費を負担します! 

 アリスさん、お願いします。よろしいですよね!?」


 2人の視線なんて気にしていないように見えていたけど実は辛かったらしいギルマスは、2人を試食会に招いた。 もちろん構わないけど、


「モレーノ裁判官とベルトランギルドマスターとウーゴ隊長はアルバロ達と同じ枠、朝ごはん組に入ってもらいますから、お代は結構です」


 後見人の分の食費を他の人に払ってもらうなんて、そんな格好悪いことはお断り!


「わ、私もですか!?」


 驚きの声を上げているウーゴ隊長は、


「私の護衛に来ると良い」


「ハッ!!」


 モレーノ裁判官の言葉に嬉しそうに相好をくずした。 これでここにいる人間は全員参加だ。 今はいないティト裁判官は…、モレーノ裁判官の判断に任せよう。


「話は決まったな? では、アリス殿の旅立ちを祝う晩餐には予も呼んでくれ。 水晶越しにはなるが、旅の無事を祈りたい。

 モレーノ、おまえに新しい縁がつながったことを、私は心から嬉しく思うよ。 アリスさん、困ったことがあったら私のことも思い出してくれ。 モレーノの大切な娘は私にとっても大切な身内だ。 

 ……私の可愛い弟を、よろしく頼むな」


 王様は最後に“おにいちゃん”になって通信を切った。


(任されたにゃね~?)

(まかせろ~!)


 従魔たちも嬉しそうだし、喜んで頼まれましょう!





 ジャスパーで出会ったモレーノという甘いものが大好きな裁判官は、この国の王様が溺愛する王弟で、貴族の最高位の公爵で、王都の最高裁判所長官で、私のとっても頼りになる“お父さん”になりました。


 今夜からのお泊りが楽しみだな♪


ありがとうございました!

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