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いわゆる“事後処理”? 4

「領の過去10年間の税収を算出し、その平均から増収した分の15%を向こう10年間支払ってもらおうかな…」


 私なりに、王家が値切ってくるのを計算に入れて出した数字のつもりだったのに、


「なんと欲のない!」

「アリス殿、予とそなたの仲ではないか! もっと高く言っても良いのだぞ!? 何か他に希望はないのか?」


 水晶の向こうからは値上げしてもいいよ~?な雰囲気を出され、


「自分から値切ってどうするのです!」

「ああっ、またアリスさんの悪い癖が出てしまった…っ!!」


 こちらからは両ギルドマスターの嘆きに護衛たちの呻き声と従魔の体当たりが加わり、私は身の置き所に困ってしまった。


 って言うより、王様? あなたと私は初対面の仲です。 どうしておねだりを希望されているのかが理解できません……。


 困り果ててモレーノ裁判官に助けを求めても「しかたのない人ですねぇ」とでも言いたそうな顔で笑うだけで何も言ってくれない。


 必死に考えて、


「陛下にお願いがございます。 直轄地になるネフ村ですが、もしも現村長が解任されて後任に姉夫妻の名が上がって来たなら……、陛下の裁量でお認めになっていただけませんか?」


 とお願いしてみた。


「ふむ? その様な動きがあるのですかな?」


 実務的なことだからか王様の代わりに宰相が聞いてくれたので、安心して続きを口にする。


「私が村でお世話になっていた間はありませんでしたが、村を出る時に希望したのです。 冗談半分にですが…」


「アリス殿が? 何を望まれたのです?」


「現村長に代わって村長のお姉さまが村長になるなら、村に永住したい。と」


 ネフ村を出てまだ10日程なのに、なんだか懐かしい。 マルゴさん達は元気かな?と思いを馳せていると、周りがにわかに騒がしくなった。


「使者を送り、交代を要請しましょう!」

「急ぐのだ! 交代したあかつきには村に免税の措置を取ってもよい!」

「本部と連絡を取って、商業ギルドを設立しなくては…!」

「ネフ村ならここからそんなに離れていないな。 …拠点を移すか」


 “もしも”の話が急に現実味を帯びてしまった…。 村長交代の要請って早い話が命令? それはちょっと……。


「“もしも”の話です!! 夫妻にその気がなかったらとんでもなく迷惑な話になってしまうので、何もしないでください!」


 盛り上がりかけた雰囲気を壊すように、私は慌てて言った。


「夫妻はこれから忙しくなる予定なので、村長なんてやっている時間は取れないかもしれません。 なので“もしも”村長が交代する時にはどうか思い出していただけたら、と……」


 必死に言い募ると、みんなはやっと落ち着いてくれた。  


 何かに気が付いたらしいサンダリオギルマスは、顎に手を当ててゆっくりと口を開く。


「夫妻が忙しくなるのは、村の税収が上がることと何か関係が?」


「ええ、夫妻と夫妻の親しい家族が中心となって事業を始める予定です。

 ……もしもその事業が上手くいったら、10年間ネフ村の税を少し優遇してもらえませんか?  その代わりに私の方は、先ほどのお話の10年間15%から10年間10%に変更します」


 私の願いを聞いたみんなは呆れたようなため息をついて、頭を抱えたり首を横に振ったり…。


「アリスさんにとってその夫妻はとても大切な人なんですね?」


「はい! 1人…、従魔と一緒に旅に出たのはいいけど、何も知らない私に常識を教えてくれた人たちです。 しばらく家に泊めてもらって、夫妻と仲のよい家族と一緒にごはんを食べて……。とても楽しい時間を過ごさせてもらいました」


 モレーノ裁判官だけは穏やかに聞いてくれたので、嬉しくなって満面の笑顔で説明をする。


「もしもお金がなくなって食べるものに困ったら、マルゴさんのお家に泣きつきに行くんです!」


「!! くくくっ…。 泣きつきに行くんですか? それは夫妻が羨ましいですねぇ……。 

 では、アリスさんがもしも誰かにいじめられたら、迷わずに私の所に泣きつきに来てくださいね」


「え~? 小さな子供みたいじゃないですか…」


「いいじゃないですか。 きっちりと敵を取ってあげますよ?」


「今回みたいに?」


「ええ、今回みたいに」


 モレーノ裁判官が悪戯っぽく笑うのが楽しくて、しばらく2人で笑い続けていた。


「じゃあ、そのときの為に、賄賂を贈っておきましょう♪」


 インベントリからミルクアイスとカフェオレアイスを取り出すと、裁判官は嬉しそうにアイテムボックスからお皿を取り出し、見ていた護衛組が自分たちも!と集まってきた。


「みんな気がすむまで召し上がれ! お腹が痛くなったらすぐに教えてね?」


「おっ!? 腹が壊れるまで食ってもいいのか!? やったぜ!」


 ハクを肩に乗せたアルバロがみんなのお皿に均等に盛り付けているのを見ながら感心していると、ライムを抱っこしたエミルが温かいカフェオレを一緒に飲みたいとニコニコと笑いながらカップを差し出した。


「冷たくて美味しいアイスを食べながら、温かくて美味しいカフェオレを飲めるなんて贅沢ですねぇ。 心置きなく楽しめるように、話をすませてしまいましょう」


 エミルに同意を示したモレーノ裁判官はカップを取り出すと、少し早口で水晶に向かって話し始める。


「陛下。アリス殿へのお詫びとお礼は、

 1.領の過去10年間の税収を算出し、その平均から増収した分の10%を向こう10年間支払う

 2.ネフ村の村長が交代することがあれば、次期村長が現村長の姉夫妻である場合のみ速やかに承認する

 3.ネフ村で村長の姉夫妻が中心となって起こす事業が成功したら、ネフ村の税を10年間優遇する

 でよろしいですね?

 アイスが溶けてしまう前に返事をお願いします」


 ……いつも大人なモレーノ裁判官が、今はおやつをお預けされている子供に見える。


 王様も同じ見解なのか、楽しそうに笑いながら、


「ああ、分かった。それでいい。 だが、そうだな。 アリス殿が値切ってしまったせいで礼にしてはいささか少なすぎるな。

 アリス殿、不足分の補填としてモレーノと婚姻せんか?」


 爆弾を落としやがりました……。

ありがとうございました!

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