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いわゆる“事後処理”? 3

「モレーノ、予も食べたいぞ!」


「「「「「「「…っ!!?」」」」」」」


 温かいカモミールティーを飲みながら、モレーノ裁判官から領兵5名の身代金は裁判所から私たちの口座に個々に振り込まれることや、ガバン伯爵家の引越し先のハルメトヤ男爵領の話、ガバン伯爵領だった土地の半分がハルメトヤ男爵家の領になるが、この町やネフ村を含めた残り半分は王家の直轄領になることを聞いていると、置きっぱなしだった水晶から王様の声が聞こえてきた。


「アリス殿の料理は本当に美味のようだな? (みな)の反応に嘘はない。 

 アリス殿、すぐにでもレシピをギルドに登録してもらえんか? 予も早く口にしてみたい」


 レイナルドが出て行ってから今までずっと静かだったから、水晶の通信はとっくに切れているものだと思い込んでいた。


 ねぇ、もしかして王様って、本当に暇なの? この水晶通信って、暇つぶしの長電話的な感覚で使っていいものなの!?


 内心でのツッコミは表情かおに出さないように気をつけながら「では登録します」と伝えると、水晶から王様と宰相(まさかこの人までいるとは思わなかった!)の嬉しそうな声が、こちらではサンダリオギルマスを初め、一緒にテーブルに付いているみんなからも雄たけび交じりの歓声が上がる。


 みんなの喜びように私も嬉しくなって、ハクやライムと微笑み合っていると、


「アリス殿のレシピでこの町が潤うことはほぼ確実、ネフ村も潤う可能性が高いとアリス殿が情報をくれました。

 今回の事では陛下が一番得をしましたね?」


 モレーノ裁判官が悪戯っぽく王様に話しかける。 ……なんだか親しげだけど、人前でこんな風で大丈夫なのかな~? 随分と気さくな感じの王様だから、良いのかな?と考え込む私をよそに王様は楽しそうに笑って言った。


「おお、そうであったな! アリス殿のお陰でこの町やネフ村と周辺地域からの税収が格段に上がりそうだし、そなたのお陰でこれから栄えていくであろう2つの地を王家の直轄にすることができた。

 さて、公平な裁判官殿は予に何を望む?」


「そうですねぇ……。 今回はわが国の貴族どもがアリス殿に大変な迷惑をかけたのです。 その責任を王家が取って、今後の税収から詫びを出してもよろしいのでは?」


 黙って聞いていれば、モレーノ裁判官と王様の会話が思ってもいなかった方向に進み始めた。


「サンダリオとやら。先ほど其の方が言っておった、“税収の18%を15年間支払う”というのは本当に妥当なのか? 直答を許す」


 王様からいきなり話しかけられたサンダリオギルマスは驚いたようだが、取り乱すこともなく、その場で跪くと先ほど配っていた資料を取り出して答え始めた。 

 

「はい。 これは<商業ギルド・ジャスパー支部>の幹部一同が今後の見通しを立てたものでございます。 我々の試算では、税収の15%を15年間が妥当だと思われますが、あの方のなさりようを拝見しておりましたので“交渉術”として18%と言わせていただきました」


 サンダリオギルマスはページを開いて水晶に提示しているけど、あの水晶は映像も通すのかな? 向こうの様子は見えないから声だけだと思っていたんだけど。  まあ、私も水晶に向かってお辞儀とかしてたから“パフォーマンス”なのかもしれないけどね。 ……気になるっ!


 そんな私の疑問をよそに話は進み、


「レシピ登録者に税収から還元という仕組みはいつから始まったのか? 我らは知らぬ」


 宰相までもが話に加わってしまった。


「もちろん、そのようなものはございません。 恥を忘れてアリスさんから利益を得ようとされる伯爵家に対する牽制と申しますか……」


「はははははははっ! そうか、牽制か! 商業ギルド、頼もしいが敵に回すと厄介だな。 くくくっ、ふははははははっ!!」


 言いにくそうに語尾を濁したギルマスに、宰相は楽しそうな笑い声を上げた。 っていうか、笑いが止まらない……。


「ふむ。 であれば、アリス殿。今回の詫びと、王家を富ませてくれる礼として………、宰相? いい加減に笑い止まぬか」


「ふっ、くくっ…。 はっ、申し訳ございません。 

 はい、では、さようでございますな……。 向こう10年間の間、税収の5…、いや、8%でいかがでしょう。 男爵領からは3%を還元させましょう。 男爵家としても問題はありますまい」


「で、あるか。 どうだ? アリス殿、モレーノ」


 モレーノ裁判官は穏やかな微笑みを浮かべて私を見ているけど、私としては……。


 本来ならレシピ登録をして、レシピの使用料が私に支払われる。 それだけで十分だし、それが普通のレシピ登録だ。


 それがなぜ“プラスその土地の税収” なんて話で落ち着いているのか。 やっぱり身分の勘違いを正すべき?


「っ!!」


 王様にもう一度自分が平民であると申告しようとすると、肩に飛び上がってきたハクに耳を噛まれた!


(もらっておくにゃ!)

(おかねはだいじ~!)


 ……うちの従魔たちは王様相手でも物怖じしないなぁ。 頼もしいけどちょっと困る。


「アリス殿? 不足であれば希望を言ってくださいね? 今なら宰相殿もいますから、きちんと約束は果たされますよ」


 黙り込んでしまった私にモレーノ裁判官は声を掛けてくれるけど、


「これ、モレーノ! 予だけだと約束を破るような物言いをするでない!」


 王様からのクレームを軽くスルーしてしまうモレーノ裁判官が何者なのかが気になってしまって、考えがまとまらない上に、


「アリスさん、気が付いていますか? 王家は今、値切ってきているのですよ! 商人として、しっかりと立ち向かってください!!」


「アリスさん! 腕のいい冒険者ともなれば、王族が依頼人なんてことはざらにありますよ! 言いなりになっていては一流の冒険者にはなれません! さあ、立ち向かうのです!」


 両ギルドマスターはそろって私に“立ち向かえ”と(けしか)ける。 


 さて、本気で困ったぞ……。

ありがとうございました!

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