“賠償”以外の話し合い 2
「アリスさんは、統治に興味はありませんか?」
サンダリオギルマスの突拍子もない一言で、モレーノ裁判官のシナリオがまた動き始めたことがわかったけど……、話の着地点が見えないのはなかなかにスリリングだ。
どこへ話が向かうのかわからないので、ハラハラしながら答える。
「ありません」
「では、自分の好みの町を1から作ってみたいと思ったことは?」
「……あります」
幼い頃に遊んでいた、開墾から街づくりまでを楽しむボードゲーム。何度もやり込むうちにゲームに手を加えるようになり、その中で大農園の経営者になったり、商人になったり、領主になったり、最後には国王にまでなってしまい、どうすればもっと町が、国が発展をする?なんて事まで考えて遊ぶようになっていた。
弟が生まれるまでの短い間だったけど、かなりハマった遊びだったな。
「ではどうせなら、もっと発展していない国へ行って町を作ってみるのはどうですか?」
「……はい?」
「どこか気に入った土地を見つけて、アリスさんの登録予定のレシピを全てその土地の発展の為に使うのです。 人の集まらない場所に人を呼び込み町をつくる。それをどんどん発展させて大きな街にするんです。
ああ、想像するだけでわくわくしますね!」
「……ええ、本当に! きっと面白いでしょうね!」
確かにわくわくする!
作物の種など必要なものをめいっぱい買い込んで行って、土魔法の魔石を……。 土魔法はもう、持ってる! ミゲルさんから貰った魔石に【アースウォール】と【アースシェイク】がある! この魔法は上手に使ったら開墾が捗りそうな気がするぞ♪
開墾して種まきしたら、ライムとしっかり相談をしながら作物を育てて……。 収穫後には行商人が必要になるな。 作った作物を自分で売りに行くのも有りだけど効率が悪いだろうし、開墾したばかりの土地を留守にするにはリスクが高すぎる。 でも、未開の地にわざわざ来てくれる物好きな行商人なんてそうそういないだろうし、私だけで始めたとして、村人はどうやって募集するの?
…ああ、さっそく躓いてしまった。 空想と現実では隔たりが大きすぎるな。 現実にしようとすると、何十年単位の気の長くなる遊びだ。
今の私には不向きだと判断してがっかりうなだれると、
「もちろん<商業ギルド>も一緒に行きますよ。こんな商機は逃がせませんからね。 物流と税計算などはお任せください」
「<冒険者ギルド>も一緒に行こう。 魔物がたくさんいる土地がいいな。 アリスさんなら引退した冒険者たちにもできる仕事を割り振ってくれそうだから、安心して人材を動員できる」
「土地は私が探しましょう。 隣国以外にも付き合いのある国があるので、アリスさんにぴったりで紐の付いていない土地を用意しますよ。
……人が集まるなら諍いも起きるでしょうし、調停をする人間が必要になりますね。 私も行きましょう」
モレーノ裁判官やギルドマスターたちが同行を申し出てくれた。 この3人が一緒に行ってくれるなら、短期間で成功するイメージが沸いてくるから不思議だ。
私の心が動いたのを察したのか、
「おもしろそうだな! 俺たちもパーティーを連れて行くぞ!」
護衛組も満面の笑顔で同行を申し出てくれた。
「いいかも……!」
想像するだけで楽しいプランにその気になりかけると、
「それはならん!! アリス殿、それだけは止めてくれ。
モレーノよ、そなたが国を出ることなど予は、王家は決して許さんぞ!!」
「待て! いや、待ってくれ! どうしてそうなるんだ!? 我が領のギルドはどうするつもりだ!?」
王様の慌てたように反対する声と、レイナルドのうろたえきった声が楽しい気分に水を差した。
「陛下、わたくしは成人した男子でございますれば、行く先は己で決めます」
「ならん! ならんぞっ! モレーノ、それだけはならん! 土地が欲しいならガバン伯爵家を取り潰してやるからそこを使うがいい!」
モレーノ裁判官の反論を力技で解決しようとする王様に、簡単に取りつぶしが決まりそうな伯爵家の嫡男は顔面を蒼白にして、今にも倒れそうだ。
「お、おまちください、陛下! どうして伯爵家がお取り潰しになるのです!? それでは……」
「何の文句がある? 両ギルドにそっぽを向かれた領地など、どちらにしてもすぐに潰れるわ。
それにアリス殿を怒らせたのは其の方であろう。 其の方の首だけでは到底足りんのだから、家に責任を取らせるのは当然のことだ」
必死に反論しようとするが次の言葉が出てこないレイナルドに対して王様は辛辣だった。
「なぜアリス殿が私に怒るのです? 私は譲歩したではないですか!?」
……レイナルドはやっぱりおバカさんだったな。 王様にまでそんなことを言っちゃうんだ?と思っていたら、凄い形相で私の方を振り向いて、掴みかからんばかりの勢いで近づいて来る。
1歩引いた私の目の前にアルバロとイザックが立ってくれたのと、モレーノ裁判官が私に声を掛けてくれたのはほぼ同時だった。
「アリス殿?」
「はい、モレーノさまやギルドマスター方にお任せしてもよろしいですか? 精神的に疲れてしまって、もう、話すことすら億劫なのです……」
タイミング的に、この呼びかけは“後は交代”という意味だと判断してお願いしてみると、皆さんはうっすらと笑顔を浮かべて頷いてくれた。
合っていたようだ。 後は安心してギャラリー気分でいいらしい。
あ~、本当に疲れた……。
さて、この話の着地点はどこなんだろうね?
ありがとうございました!




