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賠償を求める“話し合い” 8  真打登場?

じわじわとブックマークが増えていることに、喜びを隠せない作者です。

皆様、ありがとうございます!

 私たちがゆったりとティーブレイクを楽しんだ後も、レイナルドとソラルは誓約書に血判どころかサインすらしようとしなかった。


 ……さっきまでは納得していたのに、どうしてかなぁ?


 不思議に思っていたのは私だけのようで皆さんはそれぞれが好きなように時間を潰していたが、それにも限界はある。


 モレーノ裁判官が、


「どうした? 誓約書の内容に不服でもあるのか?  先ほどおまえ達が了承をした内容ばかりだぞ」


 と告げても、レイナルドもソラルもペンを持とうとすらしない。 両手を握り合わせて全身で拒絶している。


「さて、困りました」


 大きなため息を吐いたモレーノ裁判官は、本来の裁判官席に飾ってあった水晶に向かって話し始めた。


「一度は納得したはずの誓約内容が、国王に提出されるとわかった途端に納得できないものになったようですねぇ。 これではこの国の貴族は信用できないものと思われましょう。 

 どう思われますか? ……陛下」


「「「「「「…………っ!?」」」」」」


 モレーノ裁判官が水晶に向かって話し始めた時はみんなが沈黙を守っていたが、裁判官が呼びかけた相手がとんでもない大物だったので法廷中の人間が今度は驚きに言葉を失った。 もちろん私もだ。


 モレーノ裁判官に<陛下>と呼ばれた水晶の向こうの男性が、レイナルドとソラルに声を掛けるのを呆然として聞いていた。


「……事に関わるのがこの国の民だけであったなら()もそなたらに温情を掛けたであろうが、此度はそうはいかん。 

 ソラル子爵、そなたの爵位を剥奪し領地は王家の直轄とする。 今この時よりソラルの資財を凍結し、レディ・アリスへの賠償に充てるものとする。

 ガバン伯爵家には、作成された誓約書の通りの賠償をレディ・アリスへ支払うように命じる。 また、ソラルの資財がレディ・アリスへの賠償に足りなかった場合には、不足分を伯爵家が補填することを命じる。 支払いの期間は誓約書の通り、一週間以内だ。

 ……アリス嬢、これでいかがかな?」


「そんな…っ!」

「陛下!!」


 ソラルとレイナルドが抗議の声をあげているが、私はいきなりの名指しに戸惑うばかりだ。


「こくおう、へいか?」


「いかがした?」


 ……やっぱり、この国の王様だ! どうしてこんな大物が出て来たのっ!?  愕然としている私の耳に、


「これって、アリスへ“夜伽”なんてふざけたことを言った罰が“爵位剥奪”ってこと?」


「……そうなるな」


 護衛組のひそひそ話が飛び込んできた。


 これは、王様が私の事をどこかの国の令嬢だって勘違いしての結果だよね!?  不可抗力とはいえ、一国の国王相手に身分詐称なんて冗談じゃない!  


 私はこの場を整えてくれたモレーノ裁判官に心の中で謝りながら、覚悟を決めて王様の声が聞こえてくる水晶に向き合った。


「陛下。 わたくしは平民でございますので……」


 2人への罰を変更するならお早めに!という思いを込めて、少し目線を伏せて頭を下げると、


「おお、左様であったな! アリス嬢は平民であった!」


 王様は笑いながら同意だけを返してくれる。  ……これはきっと理解していないぞ?


 どういえば良いのかと困っていると、それに気が付いた王様は少しだけ考え込んだが、


「アリス嬢と呼んではいかんのか?」


 明後日の方向で考えてくれたらしい。 思っていたものとは違う質問が飛んできた。


「……平民でございますので」


 王様から貴族の令嬢相手のように呼びかけられるのはあまり良くない。 とりあえず、もう一度否定してみたけど、


「左様か…。 では、アリス殿とお呼びしよう。 いくら忍びの旅の最中(さなか)とはいえ、これ以上は譲れんぞ?」


 やっぱり誤解をしたまま話が進む。 モレーノ裁判官に視線で助けを求めてみても、にっこりと笑い返されただけで、裁判官がどう思っているのかも読めない。


(アリス、もう諦めるにゃ!)

(あきらめよう?)


 従魔たちのアドバイスを聞いてがっくりと肩を落としてしまったけど、他にどうしていいかわからないんだから仕方がない。


「それで結構でございます」


 ソラルには自業自得だと諦めてもらうことにして、私は水晶に向かって首肯した。 


 王様の口添えで賠償の話が進んだから、貴族である領主家からの支払いがごまかされたり滞ったりすることもないだろうと安心していると、


「そんなどうして…、どうして、どうして、どうして……、どうしてわしがぁああああああっ!」


 俯いてぶつぶつと何かを呟いていたソラルが急に立ち上がり、奇声を上げて私に突進して来た。


 “ジュッ!”

「ギャアッ!!」


 避けようとする間もなく私はアルバロとイザックの背に庇われて、視界が塞がっている間にライムがソラルに酸を浴びせ、その後を引き受けたウーゴ隊長が取り押さえてくれる。


 2人の隙間から見たソラルは床に額を押し付けられ、背中をウーゴ隊長の膝で押さえ込まれながらも必死にもがいているが、ウーゴ隊長の拘束が外れる様子はない。


「その女が悪いんだ! 悪いのはわしじゃない!! その女が初めから自分が上位貴族の子女だと言っていれば…、いや、この町に来なければわしはこんな目に遭わずにすんだんだ!!」


 声を出すのも大変な体勢だろうに、ソラルは目をギラギラさせて喚き続ける。


「なぜわしがこんな目に遭うんだ! おまえがわしの役に立たないのが、グエッ!」


「お耳汚しを…。 アリスさまはどうぞお気になさいませんように」


 耳障りだな~と思っていると、ウーゴ隊長がソラルを押しつぶしながら私を気遣ってくれた。


 うるさいだけで喚いている内容には興味がなかったので、心理的なダメージはまるでない。 にっこり笑ってお礼を言うと、ウーゴ隊長だけでなく心配そうにこちらを見ていた皆さんが安心したようにため息を吐いた。


 そんな自分勝手な言い掛かりをいちいち気にするような、柔な神経はしていませんよ~?


 耳障りな声に少しだけ不快な気分になってしまったけど、皆さんの気遣いが嬉しかったのでソラルの事は全然気にならなくなった。


「ダビの裁判でアリスを見ていたら、自然と気が付くだろうに…」

「アリスを勝手に巻き込んだのはおまえだろ? 自分の無能さを恨めよ」

「アリスがこの町にこなかったら、町長の調査が進まないままで領主から役立たずって罵られたかもね~」


 護衛組の皮肉を浴びながら法廷兵さん達に拘束されて地下牢に引きずられていくらしいソラルを見ても何にも感じなかったのは、私が冷たい人だからではないハズ。  


 今回はライムがストレスを溜め込まずにすんだことだし、もう、ソラルの事は忘れてしまおう♪


ありがとうございました!

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