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賠償を求める“話し合い” 6

 賠償金の話を円滑に進める為に、私は<どこぞの貴族の娘>という事にされているらしい。


 空気を読むならここは黙って頷いておくべきだ。 


 でも、この嘘は時間をかけて調べたらきっとバレる。 嘘がバレても私は構わないけど“立場”のある人たちはきっと困ったことになるだろう。


 私の苛立ちを解消する為の賠償金要求で、皆さんの信用を落とすわけにはいかないよね…。 皆さんが私の為にここまでのことをしてくれただけで十分だ。 


 ソラルや領主隊、レイナルドに対してはまだ含む所があるけど、私はもっと大事なことを考えないといけない。


「私は皆さんに誤解を与える言動をしてしまっていたようですね。 私はただの平民でこの服は戦闘服です。 戦闘服としては少し華美かも知れませんが、機能に優れているので……」


 諦めるしかない。 残念な気持ちを隠して皆さんに微笑みかけると、


「……そうですか、アリス殿は平民でしたか。 これは失礼を」

「アリスさんは平民でしたか。 ……申し訳ありません」


 皆さんはレイナルドの方を見たまま話を合わせてくれて、皆さんの勘違いということで話が落ち着いた。


 私としては残念だけど、レイナルドはさぞかし安堵したことだろうと視線を流してみると、私の想像とは逆に、レイナルドの挙動はどんどんおかしくなっていく。


「そんな………。 他国の上位貴族、いや、どこぞの王家縁の姫君か…!?  だからモレーノさまが後見を……? 

 くっ、なんという事だ……!」


 なんとも悲壮な顔でぶつぶつと独り言を言い、椅子から立ち上がったり座ったり、椅子の周りをぐるぐると回ったりと忙しい。


 ……どうして、誤解が深まっているの?  訳がわからずに呆然としていると、護衛組が肩を震わせてクツクツ笑う声が聞こえ、振り向いたモレーノ裁判官が咎めるような視線を向けるのに気が付いた。


 もしかして、モレーノ裁判官は私が否定することも織り込み済みだった……?


 目を丸くしている私を見た裁判官は、悪戯っぽく笑うとゆっくりとレイナルドに向き直り、


「そうそう、ソラル子爵の余罪が増えたのを忘れていましたよ」


 と告げた。 レイナルドが跳ね上げるように頭を上げると、呆れたようなため息を一つ吐いて、


「昨夜、ソラル子爵は<アリス殿との接近禁止の誓約>を破りアリス殿の拠点を訪れて、力ずくで押し入ろうとしたばかりか大声で恫喝し、賠償金の支払いをなかったことにさせようとした上に“夜伽”を強要しようとしましたよ。

 レイナルド殿は、この罪にはどんな罰がふさわしいと思いますか?」


 と静かに意見を求めた。


「まだ幼さを残す娘、あ、いや、ご令嬢に対して何ということを…」


 すっかり勘違いをしてしまったレイナルドが私を見て、ソラルに怒りを含んだ冷たい視線を投げる。


 レイナルドの視線に身を竦めたソラルは必死に否定の言葉を並べるが、


「子爵であるわしが平民の住む“小屋”にわざわざ足を運んでやっているんだから、平伏して招きいれるのが当然だ!って言っていたな」

「感謝して平伏するのが当然だっ! とかも言っていたわね」

「謝罪をするなら、わしの伽をする栄誉を与えてやってもいいって言ってたなぁ。 …キモッ!!」


 よく通る声の護衛組にあっさりと暴露されたソラルは、目から火を吹くように強い視線で睨みつけるレイナルドを見て、口元をわなわなさせて黙り込んだ。


「こんな品性の男を派遣した寄り親の責任も追及しなくてはいけませんねぇ?」


 レイナルドはモレーノ裁判官の追及に詰めていた息を吐き出すと、がっくりと肩を落として、


「先ほどモレーノさまが挙げた賠償額を全て受け入れます。 その上でソラル子爵は隠居し、隠居用の費用の1/5をアリス殿に支払うのがよろしいかと…。 我が伯爵家の責は、年間の税収の1/10を追加で支払わせていただきます」


 蚊の鳴くような小さな声で言うと、初めて私たちに向かって頭を下げた。


 ……随分と態度が違うなぁ。 ちょっとおもしろくないから、レイナルドの誤解を解こうと努力するのは止めることにする。 


 私は本当のことをきちんと告げたのに、勝手に誤解をしたのだから自業自得だろう。


「レイナルド殿に、伯爵家の税収を支払うだけの権限がありますか?」


 モレーノ裁判官に意地悪に聞かれたレイナルドは「ある」と答えながらアイテムボックスを開いた。


「父である<ガバン伯爵>からの委任状です」


 レイナルドが差し出した羊皮紙をウーゴ隊長が受け取りティト裁判官に手渡すと、ティト裁判官は目を皿のようにして委任状の確認を始める。上から下まで2回視線を流した後モレーノ裁判官に委任状を渡し、「不備はありません」と報告した。


 モレーノ裁判官自身も委任状にサッと目を通してからレイナルドに頷いてみせる。


「今回の始末をレイナルド殿に一任し、その結果を伯爵家は遵守するとありますね。 結構です。

 では、ソラル子爵は引退を受け入れますか?」


「認めんっ! 認めません!!」


「では、引退に匹敵すると思われるだけの賠償を提案しなさい」


 自身の引退を全身で拒否したソラルはしばらくだけ考えた後、搾り出すような声で、


「我が領の年間税収の1/5を追加でアリス殿に支払います」


 と答えた。  


 支払いは認めたけど、謝罪は一切なし。   


 ……なぁんか、おもしろくないなぁ。と思っていたら、書類の作成をティト裁判官に指示していたモレーノ裁判官が振り返り、にっこりと微笑んでくれた。


 目の奥に意地悪な色がある気がする。  ……もしかしたら、まだ終わっていないのかもしれない。


 気を取り直して、私もモレーノ裁判官に微笑みかけた。   次はどうするんですか!?


ありがとうございました!

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