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賠償を求める“話し合い” 3

「サンダリオ、この登録予定の数は本当なのか!?  いや、これは“予定”だな…。 どのくらいが審査を通りそうなんだ!?  この“経済効果”は全部を登録できたときの数値だろう? この数字から何%減で見積もればいいんだ!?」


 レイナルドはゆっくりと瞬きをしたと思ったら、サンダリオギルマスに詰め寄って怒涛の質問を始めた。


 ギルマスは片手を挙げて法廷兵を呼び、レイナルドとの距離をとってからゆっくりと口を開く。


「100%か0%のどちらかです」


「何!?」


「これらはすでに審査を通ったものばかりで、幹部が一丸となってアリスさんに登録をお願いしているものです」


「なら、この書類の通りの税収が見込めるんだな? なぜ0%なんて言ったんだ!?」


「アリスさんが、この町のギルドでの登録を拒否しているからです」


「なんだとっ!?」


 ギルマスが突き放すように言うと、レイナルドは驚きに目を丸くした次の瞬間には眉間にしわを寄せて私を見た。


 いや、別に拒否してないけどね~?  ギルマスを初め幹部さん達にものすご~く口説かれて、登録の方向で話は進んでるけどね~?  


「何を驚いているんです? 話を聞いてみると当然ではないですか。 誰しも自分の命を狙った相手に有利になるようなことはしたくない」


「「この娘の命を狙ったことなどない!!」」


 ギルマスの過激な一言にレイナルドとソラルは驚いて反論するが、モレーノ裁判官を初め裁判所組と護衛組は納得しているように何度も頷いている。 


「領主隊のやり方はそもそもがおかしかった。 噂をばら撒くだけばら撒いておいて、誰もアリスさまの身を守ろうとしなかったし、寄ってくるだろう犯罪者を捕まえる為にアリスさまを見張ろうともしていなかったことを、どう説明されるのですか?」


 アルバロの話を聞くと、確かにおかしい気がしてくる。 もしもハクやライム、護衛組のみんながいなかったら、私はあの日に殺されていただろう。


「わたしたちは、ソラル子爵や領主隊がアリスさまを殺そうと意図して噂を流したのではないかと考えました。 子爵や領主隊の中に何かやましいことを胸に秘めている輩がいるのではないのかと」


 エミルが話を盛っている…。 盛ってるんだよね? 本当にそう思って護衛を続けてくれていたんじゃないよね?  もしみんなが本当にそう思っていたのなら、平和ボケしていた自分が恥ずかしくなるよ……。


「アリスさまは命の危険を考慮して、せっかくの旅先なのにほとんどの食事をご自分で作られていました。 外食をしたのは、わたし達が紹介したお店でのほんの数回だけで、手に入れる食材は一つ一つを鑑定して安全を確認してから買っていました」


 え? 私が料理のストックを作りたいから作っていただけだよ? 一つ一つ鑑定をしていたのは鮮度を見たり、スキルのレベルアップが狙いだってマルタも知ってるよね?  本当に誤解をしていたのか、この話を有利に進めるために盛ってくれているのかどっちだろう…?


 私が迷っている間にも話はどんどん進んでいた。


「小娘の考える情報やレシピにそれほどの価値があるわけがない! 商業ギルドはその娘に肩入れをしすぎなんじゃないのか? 審査を通す際に私情を挟んだ者がいたのかもしれないな!」


 自分たちの不利を悟ったソラルがギルマスの作った書類の利益を否定するために、私のレシピをけなしてギルドを侮辱するが、


「今の発言は<商業ギルド・ジャスパー支部>全体への侮辱と受け取りますがよろしいですか?」


 冷静に聞き返したギルマスの態度に何かを思ったらしいレイナルドに急いで撤回させられていた。


「商業ギルドにそっぽを向かれた領なんて、衰退が目に見えているからね」


 囁き声で教えてくれたマルタとこっそり笑いあっていると、ギルマスが私を振り返る。


「アリスさん、何品かレシピを作成できた品があります。 実はこちらの厨房で作っているのですが、試食をお願いできますか?」


「今ですか!?」


 この話し合いを中断して試食をするのかと驚いて聞き返すと、


「はい、今です。 できましたらあちらの方にも試食品を出す許可をいただきたいですね」


 ギルマスがチラッと視線を投げた先にはレイナルドがいた。 モレーノ裁判官が私に頷いて見せたので、ギルマスの発言には何かの意図があるのだろうと思い許可すると、ギルドの食品レシピ担当幹部のラファエルさんが両手にクロッシュを被せた大きなお皿を1枚ずつ持って、魅惑の尻尾をふりふりしながら入廷してきた。 


 ラファエルさんが私の前で立ち止まると、ギルマスがクロッシュを取って大きなお皿の上に乗っていた小さなお皿を1枚ずつ渡してくれる。


「ステーキと煮ボアですね。なぜこれを?」


「一度の試食では到底、レシピがわからないからですよ」


 聞いてみると納得の理由だ。 レシピの流出を防ぐことをきちんと考えてくれていたということは、この話し合いの途中で試食をするのは初めからの予定だったってこと?


 ……モレーノ裁判官が立てる話し合いプランは斬新だなぁ。


 感心している隙にハクとライムがギルマスにおねだりを始めたが、ギルマスは慌てることなく2匹にも小皿を渡してくれた。 うちの食いしん坊たちの試食は最初から想定していたらしい。


「これがアリスさんのレシピです。ご自分の舌でお試しください」


 私たちが試食をしている間に、ラファエルさんはレイナルドに小皿を渡しに行った。 なぜ自分の分がないのかと騒ぐソラルには一瞥もくれずに戻ってくると、


「いかがでしょうか?」


 と感想を求める。


(煮ボアはともかく、ステーキがイマイチにゃ!)

(すてーきがいまいち~)

「こ、これは何の肉だ! こんなに柔らかい肉は食べたことがないぞ!? どちらも肉そのものが特別な魔物の物なのだろう?」


 従魔たちとレイナルドの意見は分かれけど、


「煮ボアはよくできていると思いますが、ボアステーキは…。 焼き方を間違えましたか? それとも仕込みに失敗したのかな?」


 私の意見は従魔たちと一緒だ。


「こ、これがボアの肉なのか? なんだ? どこが失敗だと言うのだ!?」


 ギルマスもラファエルさんも、レイナルドの褒め言葉だけでなく私の辛口意見を聞いても満足そうな笑顔を崩さないので、もしかしたらわざと焼き過ぎたのかもしれない。


 最後に残っていた1皿を口にしたギルマスは、


「調理した者が焼き過ぎてしまったようです。 本来の美味さを損なってしまっていますね、申し訳ない」


 私に対して申し訳なさそうなことを言いながらも口の端が笑っていた。  うん、絶対にわざとだ。


「これほどの出来のものが失敗だと…? 本来はどれほどのものになるんだ…」


 レイナルドの言葉を聞いてこちらを振り向いたモレーノ裁判官は、自分の顔が意地悪な表情を浮かべていることに気が付いているのかなぁ…?


 次は何をするんだろう? なんだか楽しくなってきた♪


ありがとうございました!

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