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賠償を求める“話し合い” 2

「盗賊以外にも、アリスさまは2回も命を狙われました」


 アルバロが発言するとソラルはいきり立ち、


「生きているではないか! 何の問題もなかろう!!」


 鼻息も荒く“問題はない”と言い切り、法廷兵さんたちからブーイングを、領兵たちからは喝采を受けた。


「今アリスさまが生きているのは、アリスさま自身が強かったことと俺たちが護衛をしているからです! アリスさまの命を狙わせる行為をしたことを棚に上げないでください!!」


「アルバロの言う通りです。 問題なのは領軍が何の罪もない1人の少女を囮に使い、命の危険に晒したこと」


 アルバロの糾弾は鼻で笑って取り合おうとしなかったソラルも、モレーノ裁判官からの糾弾には顔色を変える。


「りょ、領軍の役に立てるのだから、光栄に思うべきかと…!」


「彼女は領軍に所属しているわけでもなければこの国の人間でもない。 あなた方にそれを強要する権利があると思っているのか!?」


 モレーノ裁判官の一喝には、法廷の空気を凍らせるだけの威厳があった。


 内容ではなく、モレーノ裁判官自身からあふれ出す威厳に私の背筋も伸びる思いがする。 当然ソラルの顔色は蒼白でいつ倒れてもおかしくない。


「ましてやあなた方はアリス殿に対して要請も行わず、ただ囮として利用する為に悪質な噂を流した。 領軍の流した噂はアリス殿に一生付きまとい、彼女は命を狙われ続ける。 賠償を行うのは当然のことでしょう」


「領軍はアリスさまを狙わせる噂を流すだけ流して、襲ってきた盗賊を捕らえるために野営地に来た領兵は1人もいませんでした。 あの夜襲ってきた盗賊は45名でアリスさまは俺たちを含めてたったの5名と可愛い従魔が2匹だけだったんです。 全滅していてもおかしくなかった…」


「……っ」


 そこまでは詳しく聞いていなかったのか、レイナルドは息を呑み私たちをみつめる。


「この行いに対して、領主代理どのは“謝罪も賠償も必要ない”と言われますか?」


 モレーノ裁判官に名指しで聞かれたレイナルドは言葉に詰まったが、


「たかが平民の小娘、しかも旅人ではないか…!」


 蒼白な顔色のソラルが私を睨みつけながら呟いた言葉は、レイナルドに光明を与えたらしい。


 冷たい目でソラルを睨みつけながら立ち上がり、


「領軍の、ソラル子爵のしたことは償わなくてはなりません。 

 ですが、その娘は平民の旅人ではないですか。 モレーノさまから提示された賠償額はあまりにも分不相応なのではないですか? 

 ソラル子爵から金貨5枚、領軍から金貨3枚の合計金貨8枚を支払いましょう」


 今回の決着をつけるのに、8千万メレを提示した。


「そこの娘、あまり欲を出すものではない。 たかが平民に金貨8枚は大金であろう。 金貨8枚あればこの町に居を構え遊んで暮らすこともできるぞ? 特別に税を免除してやっても良い」


 レイナルドは私の返事も聞かずに“話は付いた”とばかりに晴れやかな表情でモレーノ裁判官を見る。


 ……これがこの国の貴族かぁ。 謝罪の1つもなく勝手に値切った金額を押し付けた上に、“関わりを持ちたくない”という要求を聞かなかったことにして、自分の町で金を回収しようとする。


 たまたまソラルの性質が悪かったのかとも思っていたが、やはり<貴族>とは関わらない方がいいらしい。


 うんざりした気分でレイナルドを眺めているとモレーノ裁判官が振り返り、私の視界に入ってきた。


「アリス殿?」


 モレーノ裁判官が穏やかな微笑みを浮かべて私の名を呼ぶのを聞くと、不愉快だった気分が霧散した。 それがモレーノ裁判官にも伝わったのか、穏やかだった表情を、楽しげでいて少し意地の悪いものに変える。


「モレーノさまにお任せしても?」


 私がモレーノ裁判官ににっこりと微笑みかけると、裁判官は力強く頷いて私に背を向けた。


 振り返った裁判官がどんな表情を浮かべていたのかはわからないけど、私と裁判官を見ていたレイナルドとソラルが得意気に視線を交わしているのが見えて、頭の上にアイスボールを落としてやりたい衝動に駆られたが、ハクが尻尾で私の頬をこしょこしょするので何とか我慢した。


 ……ぜ~ったいに! 譲歩なんかしてやらないからね!











「たかが平民、たかが旅人……ですか」


 モレーノ裁判官は穏やかで、優しくさえ聞こえるような声で囁くように言った。


 その声を聞いたレイナルドとソラルは満面の笑みで立ち上がると、握手を求めるように片手を差し出して近づいてくる。 が、


「アリス殿の価値がわからないあなた方にとってはたかが旅人なのでしょうね。 …愚かなことだ」


 急に声の温度を下げた裁判官に驚いた様子で立ち止まった。


「では、愚かなあなた方に、彼女の価値を少しだけ教えてあげましょう。 …サンダリオ殿」


 盗賊たちと入れ替わりに、モレーノ裁判官に呼ばれたギルマスが入廷してきた。


 モレーノ裁判官と私に軽く一礼するとレイナルドへ近づき、手に持っていた書類を1部渡してから私たちの方へ歩いて来て、モレーノ裁判官にも1部渡すとレイナルド達に対峙するように座った。


「まずはご覧を」


 ギルマスの要請でしばらくの間は法廷内に書類をめくる音だけが響く。


「これは商業ギルドの年間利益を見込みで算出したものか? 結構な利益じゃないか。ここ数年分の税を1年で超えているな」


 一番上の1枚だけを読み終わったらしいレイナルドがギルマスに向かって満面の笑顔で言うと、ギルマスは呆れたような声を出した。


「これがギルド全体の年間利益だと誰が言いましたか?」


「なに?」


「次期領主さまは随分と数字に弱いらしいですな。残念なことです。 

 ……これはアリスさんがこの町にいらしてからの7日間で登録をご検討くださった情報と商品が無事に登録されたときのギルドの利益と町が受ける恩恵、いわば経済効果を向こう1年分算出したものです。 3ページ目には領全体に及ぶ経済効果の予測が載っていますので、全ページをきちんとご覧いただきたい」


 ギルマスに促がされたレイナルドは、ギルマスの冷たい声を気にも留めずにもう一度書類に目を通し始め、


「な、なんだと……っ!?」


 目を見開いて絶句しながら私を見つめる。


 ……何が書かれているのかなぁ?


 ギルマス! どうして私の分の書類がないの!?

ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 彼女は領軍に所属しているわけでもなければこの国の人間でもない。  と国が雇っている裁判官が発言していますがこれ貴族側へのアシストになってませんかね 国に所属していない人間なら法を守る必…
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