スキルをリンクしてみた
「チュンチュン、チュチュン」
聞き覚えのある、鳥の鳴き声で目が覚めた。
「ん…?」
堅い木にもたれて寝たはずだったが、背中が柔らかいもので包まれていて、首筋がふんわりと温かい。
「おはようにゃ♪」
耳のすぐ側でハクの声がする。首筋の温かいモノはハクの体温だ。ふわふわの感触が気持ちいい。
「おはよう。 昨夜はなにも無かった? ライムは?」
「ぷきゅ~♪」
ライムを探すと背中から鳴き声がした。 背中を包む柔らかい感触はライムだったらしい。
「ライム! 挟み込んじゃったんだね! ごめんね! 痛くない?」
謝りながら背中を起こすと、
「ぷきゃー♪」
機嫌よく鳴いて湖の方へ移動していった。 大丈夫らしい。
「まずは魔力感知の発動にゃ! それと、少し獲物があるから傷む前に収納するにゃ!」
ハクが肩に移動しながら言うのであたりを見回してみると、毛皮が点々と転がっている。
毛皮の向こうに空が燃えているかのような、綺麗な朝焼けが広がっていた。赤い色が湖に反射する様も美しい。
幻想的な光景に陶然と見入っていると、チクリと頬に痛みが走る。
「!?」
「魔力感知と獲物の収納が先にゃ! 傷んでしまうのにゃ!」
私の目の前に移動したハクが、ちっちゃな口を大きく開き、可愛らしい牙を剝いて威嚇していた。
ああ、頬の痛みの元凶は、その牙か。
魔力感知を発動してから、
「ハク、次に噛んだら、1日お肉抜きね」
注意しておく。うら若きオトメの頬に歯形は似合わないからね!
……口を開けたまま固まってしまったハクは放っておいて、獲物を回収しよう。
スライム ×2
バンパイアバット ×4
角の生えたうさぎ ×2
合計8匹がハクの一晩の成果のようだ。大量だな。 初めて見る魔物もある。
「【鑑定】」
名前:ホーンラビットの死骸 (食用可)
状態:普通 (味以外の品質には問題なし)
角の生えたうさぎはホーンラビットと言うらしい。ちょっと味は落ちてるようだけど、食料Get!
スライムもバンパイアバットも同じく質が落ちてしまっているけど、回収回収♪
ハクが一晩頑張って護ってくれていた証だし、頬の歯形のことは忘れよう。
湖で顔を洗い、朝焼けの色に染まりながら水に浮いているライムを眺めていると、ハクも水を飲みに来た。
「昨夜は火の番と警戒、お疲れさま! お陰でぐっすりと眠れたよ。ありがとうね!」
感謝を伝えると、まだ、さっきの肉抜き発言を気にしているようで、
「アリスの疲れが取れたなら、それでいいのにゃ。 …今日も肉を食べたいにゃ~~」
しっかりリクエストを言ってきた。 子猫にしか見えない虎の、シュンとした顔も可愛いけど、
「いいよ!」
と言ってやった時の、嬉しそうな笑顔には敵わないね~。かっわいい♪
ハクが朝ごはん用に湖の魚を獲ってくれた。 まるで遡上する鮭を獲る熊のような勇姿だった。
内臓を抜いて串に刺し、焚き火で焼きながら今日の予定を考える。
「【マップ】」
ここから遠くない場所に沼と泉があるけど、水質はどうだろう? 飲めるレベルなら、そこで野宿をしても良いけど、魔物の強さは?
魚串を見ると程良い感じに焼けている。 今朝もハクが串を回してくれていた。
葉蘭に串から抜いた魚を乗せてやり、りんごを出してから2匹に声をかける。
「食べながら、今日の予定を聞いてくれる?」
ハクとライムが頷いて食べ始めたので、私もいただきますを言って食べ始める。
「今日も、レベル上げと食料の採取をしたい。
この辺りの魔物はあまり強くないみたいだから、少し奥の方まで行ってレベル上げと採取をして、夜にはここに戻ってこよう」
「戻ってくるのにゃ?」
「うん。ここはあまり強い魔物が出なさそうだし、水もあるからね。 ここを拠点に野宿をしながら森を探索しようと思うんだけど、どうかな?」
「悪くないと思うにゃ」
ハクは賛成してくれた。 ライムも縦に伸び縮みしてるから賛成かな?
「じゃあ、食べ終わったら早速移動しよう!」
陽がある内に、少しでも経験値を稼いでおきたい。 気合を入れていると、
「アリス、スキルの方はどうなったにゃ?」
と聞かれたので、先に鑑定をする。
「【鑑定】」
名前 :アリス
レベル:1 → 4
HP :260 → 380
MP :500 → 800
攻撃力:85
防御力:430
スキル
身体能力向上 レベル3
剣術 レベル3
魔力操作 レベル3
魔力感知 レベル3 → 4
鑑定 レベル1 → 3
料理 レベル1
回復 レベル3
薬師 レベル3
特殊スキル
インベントリ 容量無限。時間経過なし。リスト機能・ソート機能あり
マップ レベル1 → 3
複製 レベル1 3/3
レベルが少し上がってHPとMPが増えているけど、攻撃力と防御力には変化なし。
もう少し上がって欲しいな~。
スキルは昨日よく使っていた魔力感知と鑑定とマップだけがレベルアップして、他は変化なし。 料理スキルも変化なし。串で刺して焼くだけでは料理とは言えなかったかな?
「鑑定とマップが両方ともレベル3になってるにゃ! アリス、良くがんばったにゃ~!!」
ハクが私に飛びつきながら褒めてくれた。どうしてこんなにはしゃいでいるのか不思議に思っていると、
「鑑定スキルが3になると、他のレベル3以上のスキルと【リンク】ができるようになるにゃ~♪」
「リンク? ビジューとしてるみたいな?」
「あ~……、一方的なものじゃなくて協力的な感じにゃ」
良くわからない……。
「わからなくてもいいから、やってみるにゃ!
まずは、鑑定スキルとマップスキルがリンクするとどんなに便利かを想像するにゃ」
便利さを想像するだけ?
物の名前や状態がわかるスキルと、地図と魔物の居場所がわかるスキル。どうすればもっと便利?
「地図をもっと詳しく…。 赤くポイントが付いている魔物の名前や、採取物の名前がわかると嬉しいかな」
「なら、地図の赤いポイントに名前が記載されていることを想像しながら、【マップ】を使ってみるにゃ!」
想像するだけなら簡単だ。
「【マップ】」
…っ! 出た! 赤いポイントに情報が出たよっ!!
でも、全ての赤ポイントに情報が出るわけじゃないみたい。 ああ、今迄に鑑定したことがある魔物と採取物だけが反映されてるんだ。
ということは、一度でも手に入れた動植物なら、マップを確認するだけで狙い撃ちで入手できる!
「ハク、【スキルのリンク】ってすごいね! 本当に便利! 他にもレベルが3を超えたスキルなら、鑑定とリンクできるんだよね!?」
「できるにゃ♪ 何とリンクするのにゃ?」
ん~、レベル3を超えているスキルで、鑑定と関係しそうなのは…、
ビジューの言っていた【料理】スキル!
使った事のない食材の調理方法がわかるようになるって言っていたのは、このことだったんだ! レベルが上がってないから今はできないけど、レベルが上がったらすぐにリンクしよう!
「【回復】スキルとリンクしたら、怪我に対して何回ヒールを使えば良いかがわかるかも?」
便利になる!って喜んだんだけど、できなかった……。
「だったら、【薬師】のスキルでやってみるにゃ」
【薬師】も最初からレベル3だから、早速イメージしてみる。
【薬師】はポーションや薬を作るスキルだから、材料がわかると嬉しい。あと、症状に対して薬の使用量は正しく知りたいな。
「ん。これでいいと思うんだけど…。 【薬師】スキルはどうやって確認しよう?」
「【薬師スキル】を鑑定してみるにゃ」
なるほど、スキル自体を鑑定すればいいのか。 自分をもう一度鑑定して、そこから薬師スキルを鑑定する。
スキル名 :薬師
レベル :3
スキル詳細:薬品の精製が可能
:診断が可能
「ハク、薬師のスキルは、薬品の調合と診断ができるスキルで合ってる?」
リンクする前にスキル鑑定をしておかなかったから、変化がわからない。
「薬師スキルに【診断】はなかったにゃ。 鑑定とのリンクでできたスキルにゃ!」
症状に対しての薬の使用量を知りたいと思ったから?
「ハク、ライム。ちょっと確認させてね。 【診断】」
名前 : ハク
年齢 : 0歳
レベル: 1
状態 : 良好
名前 : ライム
年齢 : 分裂後135日
レベル: 2
状態 : 空腹
なるほど。【診断】すると、状態の項目が出るのか。
薬の材料のことは何も記載がない。 【鑑定】!
名前:薬草
状態:摘みたて
備考:ポーションの材料。増血薬の材料。
薬草を鑑定すると備考欄が増えて、作れる薬品の情報もでてきた。
増血薬とは何か?に意識が向くと、羊皮紙もどきに、
名前:増血薬
効能:出血などによって減った血液を増やす手伝いをする。 貧血の改善。
材料:薬草2株・バンパイアバットの血液1匹分
追加情報が記載された。
「【薬師】と【鑑定】をリンクさせたら、薬の材料までわかるようになったよ!
『鑑定スキルのリンク』すっごい便利♪」
ハクは、自分を振り回しながらはしゃぐ私に、
「リンクはアリスだけの特別仕様にゃ♪」
とても得意げに笑った。
特別仕様かぁ…。 他人に知られないように気をつけよう!
ありがとうございました!




