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依頼主はギルドに守られる

 裁判所へ出勤する2人と別れ、私たちは冒険者ギルドへ向かった。


 アルバロ達に守られるようにしてドアをくぐると、気が付いた職員さんが訓練場の方へ手の平を向けたのでそのまま奥へ進むと、


「待ってたぞ!」

「おはようさん!」


 訓練場には依頼を受けてくれた2人が満面の笑みを浮かべて待っていた。


「おはよう! 今日も朝早くからの依頼を受けてくれてありがとう!

 今日はおばあさんから始めよう!」


「わしからかい?」


 おばあさんはちょっと意外そうな顔をしたけど素直に従ってくれて、帆布の上にアイスウォールを出してくれる。


 エミルに計ってもらうと合計で26㎏になった。


「昨日よりも1kg多いわ。 はい、78,000メレね」


「嬉しいねぇ。 ものは相談だが、昨日のクッキーはまだあるのかい? あるなら3,000メレほどはクッキーで欲しいんだがね。 美味いと聞いたから、孫への土産にしたいんだ」


 おばあさんは義足の男性と頷き合って笑顔でマルタに聞いている。 マルタが私を見たので“少し多めに”とジェスチャーで返すと、きっちりと読み取ってくれたマルタがにこにこと笑いながらおばあさんにクッキーを渡してくれた。


「さすがね、おばあちゃん! とってもいい判断よ! アリスのクッキーはとっても美味しいから!」


「ああ、孫と食べるのが楽しみだ! 明日も依頼を出してくれるのかい?」


 おばあさんが嬉しそうに聞くとマルタが私に代わって“今日でおしまいだ”と答えてくれた。


「でも、ギルドにはちょくちょく顔を出しておいた方がいいわよ。 楽しい依頼が入ってくるかもしれないから!」


 マルタがついでの様に言った言葉に何かを感じたのか、おばあさんはしっかりと頷いてから帰っていった。


「次は俺だな」


 義足の男性は出しておいた寸胴鍋にゆっくりと近づくとコロンコロンとアイスボールを鍋の中に転がしていく。こちらも昨日より1㎏以上多い。 


 MP量はレベルアップ以外ではそうそう増えないだろうから、日によって魔力の使い方にムラがあるのかな? 


 考え込んでいると「義足の男性が何か気に入らなかったのかと心配している」とマルタが教えてくれたので、説明する代わりに氷の量が日によって変わるのはどうしてかを聞いてみると、


「なんだ、そんなことか。 攻撃魔法を使うのは久しぶりだったから、昨日はあんたらが来る前に試し撃ちをしたんだ。あのばあさんも同じだろう」


 とあっさり答えてくれた。  


 MPが回復しきる前に依頼を始めたから、昨日は今日よりも氷の量が少なかった、と。


 MPを回復するポーションはないのかとマルタに聞いてみると「高いから」の一言だった。


 今度薬屋で探してみよう。


 マルタからお金とクッキーを受け取っている男性にアルバロが近づいて何かを耳打ちすると、男性はお金を受け取りそこねて地面にばら撒いてしまった。 


 屈むのが大変な男性に代わってマルタとアルバロがお金を拾っている間も、男性は呆然と立ち尽くしている。


「本当か…?」

「ああ」


「本当なのか…?」

「ああ」


「本当に本当か…?」

「ああ、本当だ! 本当に本当だよっ!」


 義足の男性はどこかに飛ばしていた意識を取り戻すと、アルバロの胸元を掴んで何かの確認を始めた。 


 随分と疑っているが、アルバロは気にせずに笑いながら肯定し続けている。


「諦めていた足が治る。それもたったの350万メレで治してもらえるって聞いたら、ああなるさ」


 エミルが私の耳元で小さい声で教えてくれたので、これはあまり大きな声で言わない方がいいんだと再認識する。


<治癒士>からしたら商売敵になるし、価格破壊だって怒鳴り込まれそうだしね。 今更だけど、治療はこっそりとした方がいいだろう。


 護衛組に声を掛けてさっさと移動を始めると、ギャラリーがざわつき始めた。


「待ってくれ! 俺も氷魔法を使えるんだ! 氷を買ってくれないか?」

「わたしもよ! わざわざ早起きしたんだからっ」

「今日は地味だな~。 昨日みたいに攻撃を受け止めないのか?」

「もっと派手な見物(みもの)を期待してきたのに!」


 売り込みはともかく、私を見せ物だと勘違いしている人たちは放っておこう。 宣伝した覚えは一切ない。


「氷の買取りは仕舞いだ! もう十分に手に入ったからこれ以上はいらない!」

「今日は依頼分の氷だけでいいんだ! 諦めてくれ!」


 アルバロとイザックが断りを入れてくれるが、ギャラリーはなかなか諦めない。


 氷を売り込みたい人と派手なパフォーマンスを期待している人が即席のタッグを組んで訓練場の出入口を塞いでいる。


 仕方がないから氷を買い取ってあげる? でも、氷魔法の魔石をもらったから自分でいくらでも作れるしなぁ…。 そんなことで無駄にお金を使うくらいなら、“お風呂貯金”に回したい。と迷っていた心は、


「こんな朝早くからあんたの為にここまで来ていたんだから、氷くらい買い取ってやれよ!」


 ギャラリーの誰かが発した言葉で簡単に決まった。 が、


「今すぐ道を空けなさい! 邪魔するなら力ずくで」

「あなた達! 冒険者としての誇りをどこへ捨てたの!? そこをどいて依頼主一行をお通ししなさい!」


 “力ずくで通る”と言い終わる前に、女性の鋭い声が辺りに響いた。


 ギャラリーが割れて出来た道の先に、ギルドの女性事務員さんが立っている。


「ギルドを通しての依頼に個人的に応募をしたいのなら冒険者カードを返却しなさいっ! 必要のない物を徒党を組んで売りつけるような品のない行動をギルドは認めません!

 ギャラリーの皆さん! ギルドの仲介する依頼は見せ物ではありません! 勝手な期待を依頼主に押し付けるならあなた達が氷代を出してから言いなさい!」


 女性職員さんに叱られたギャラリー達は一斉に静まる。 群集心理の興奮が冷めたらしくばつが悪そうな顔をしている人も多い。


 ギャラリーの発言にちょっと“カチン”としたことは女性職員さんの活躍で相殺かな。 頼りになる女性職員さんの先導で、ゆっくりと受付まで戻ることができた。












 受付で依頼終了の報告をして清算を済ませると、今度はアルバロが氷の依頼を出し始めた。

 

「毎朝5時前に、裁判所のモレーノさま宛に氷を3kg届ける依頼だ。今朝みたいに氷魔法の使い手が直接行ってもいいし、氷だけを届けてもいい。ギルドの判断に任せるそうだが、依頼自体は引退していたヤツらを優先にまわせとのことだ」


「朝飯の後に、頼まれたんだよ」


 少しだけきょとんとしていた私に、イザックが楽しそうに笑いながら教えてくれた。  


「モレーノ裁判官は影響力がある人だからな。 きっと金持ち連中が真似をするだろうから、引退した氷魔法の使い手や、駆け出し冒険者たちにとってありがたい常時依頼が1つ増えるぞ!」


 らしい。 


 氷魔法の魔石が手に入りにくくなる前に入手できた私は運がいい! 商業ギルドのミゲルさんに感謝して、何かを贈っておこうかな♪


ありがとうございました!

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