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千客万来

 護衛組に手伝ってもらい、マヨネーズが小さいミルク瓶に15本分、生キャラメルがバスケットに山盛り5個分できた所で玄関の扉をノックする音が響いた。


「アリス、客だ」


 応対していたイザックに呼ばれて玄関に行ってみると、


「よお! ねえちゃん!! こんばんは!」

「アリスさん、こんばんは」


 アウドムラ牧場のフェルナン君がピカピカの笑顔で立っていた。 少し後ろでお母さんも嬉しそうな笑顔で軽く頭を下げる。


「こんばんは! こんな時間にどうしたの? とりあえず、上がって?」


 フェルナン君たちを拠点に招こうとすると、フェルナン君が私の手を取り表に誘う。


「今日はお礼をしに来たんだ。 さっき搾ったばかりのミルクとチーズとヨーグルトを受け取ってくれ! ねえちゃんにはいっぱい買ってもらったものばかりだけど、ねえちゃんのアイテムボックスなら余裕だろう?」


 フェルナン君が指差した先には荷馬車にいっぱいのミルク缶と、おかあさんと連れて来た護衛たちがアイテムボックスから取り出したチーズとヨーグルト。


 何のお礼かと聞いても「ここじゃ言えないから、先に受け取って欲しい」と言われて、わけもわからずに受け取ることになった。


 チーズはそのまま受け取れたけど、ミルクは缶ごと【クリーン】を掛けてから護衛たちにミルクだけインベントリに注ぎ入れてもらい、ヨーグルトは私の寸胴鍋に移し替える。


 その間、約20分。フェルナン君はずっと物言いたげな顔でそわそわしていた。 









「ねえちゃんのお陰でうちの牧場が大きくなるんだ!」


 嬉しそうに私に抱きついているフェルナン君の横でお母さんが話してくれたのは、


 今朝、商業ギルドのギルドマスターと幹部2名が“牧場拡大計画”の話をしにわざわざ牧場までやって来た。


 ギルドが無利子でお金を貸すので、アウドムラを繁殖させたり新たに捕獲したりして牧場を広げましょう! これからミルクとミルク製品はどんどん売れる!!という話だったらしく、最初は何の冗談かと思ったが、ギルドマスターや幹部がわざわざ来ているのだから本気の計画なんだとわかった。


 詳しく聞いてみると、私の登録予定のレシピに乳製品が多く、試食に使っていたのがフェルナン君の牧場のミルクだったことから、この牧場に計画を持ち込んだとのこと。


 最初は戸惑うばかりだったけど、ギルドマスターと幹部たちによる3人がかりでの熱意溢れる説得と、拡大計画によるアウドムラたちが受けるであろうストレス、それに伴う一時的な収益の落ち込みまでもが計算されている計画書を見て心が傾き、私の作った料理を思い出してこの計画に乗ることを決断した、と…。


「商業ギルドの全面協力の下で事業拡大なんて、滅多にある話ではありません。 全てはアリスさんのお陰なので、お礼にきました」


 そう言って、お母さんとフェルナン君は深く頭を下げてくれた。


 全てはフェルナン君一家や従業員が頑張って育てているアウドムラのミルクがおいしかったお陰だと思うけど、わざわざ来てくれた気持ちが嬉しかったので素直にお礼を受け取り、代わりにさっき作ったばかりの生キャラメルをバスケットごとお土産として渡した。


 好奇心いっぱいのフェルナン君がさっそく1つ摘んで口に放り込み、


「!! ……母さんっ!」


 目をまん丸に開いてお母さんの口にも1つ押し込んだ。


「!  美味しい!!  ……これもうちのミルクを!?」


 2人の驚きようが嬉しくて、にっこりと笑いながら頷くと、


「凄い! こんなに美味いものを食べたのは生まれて初めてだ!!」

「うちのミルクがこんなに美味しいものになるなんて、凄いわ!」


 2人は手を取り合って、クルクルと回りながら喜びを表現してくれた。


 こんなに喜んでくれると、今日1日の疲れが癒される気がするな~。


 ほっこりした気分で2人を見ていると、また玄関のドアをノックする音が聞こえる。


 ……今度は誰だ?










 応対しに行ったアルバロが、ドアを大きく開いて来客を招き入れた。


「こんばんは、アリスさん。 今夜一晩、私とウーゴを泊めて下さいませんか?」


 やって来たのはモレーノ裁判官とウーゴ隊長の2人で、突然の宿泊希望に戸惑ったが、護衛組も問題なさそうだったので喜んで了承した。 2人にはお世話になっているからね。事情は後から聞けば良い。


「「モレーノさま!」」


 裁判官の顔を見てフェルナン君とお母さんはびっくりしていたが、ハッと気が付くと急いで駆け寄ってきた。


「モレーノさまにご紹介いただいたアリスさんのお陰で、牧場を拡大することになりました。 明日のミルクの配達の時にお礼に伺おうと思っていたのに、ここでお会いできるなんて…! 

 モレーノさま、ありがとうございます!」

「ありがとうございます、モレーノさま!」


 2人のお礼を聞いて、何かを理解したらしい裁判官はゆったりと微笑み、


「全てはアウドムラをよく世話していた君たちの努力とアリスさんの素晴らしいレシピのお陰だ。私への礼は不要だよ」


 と言ってフェルナン君の頭を撫でてあげる。


「君たちの牧場のミルクを使ったアリスさんの絶品料理の数々を味わっている私の方が、君たちにお礼を言わないといけないね」


 と優しく微笑まれて、2人は照れて頬を紅潮させながら喜んでいる。


「よかったな~」


 護衛組にも祝福されて、2人は本当に嬉しそうににこにこと笑いながら帰って行った。


 牧場の拡大計画、うまく行きますように!!


ありがとうございました!

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