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便利な結界

 気が抜けたのか、立ったまま動かない法廷兵さんたちをアルバロとイザックが優しく座らせている間、マルタとエミルは結界越しに領兵たちを観察していた。


「結界を叩いても、音も振動もしないのね」

「“出て来い、無礼者”とか言ってるが、たかが領兵だよな? なんであんなに偉そうなんだ?」


 2人の視線の先では5人の領兵が、自分たちを阻む結界を叩き壊そうとしている。


 それに気が付いた法廷兵さん達が、呆れたようにため息を吐きながら説明をしてくれた。


 今ここにいないモレーノ裁判官は、急に訪れたジャスパーの領主・ガバン伯爵の嫡子レイナルドとの面談中だということ。


 領兵たちが私を探しているのは、私がガバン伯爵とその寄り子貴族のソラル子爵に出した謝罪要求を不服に思い、力ずくで撤回・謝罪させるため。


 本来なら、裁判所の法廷兵と領兵では法廷兵の方が立場が上になる。 だが、彼らは領主である伯爵家の跡取り息子の護衛という自負が強く、権高になっているらしい。


 説明をしながらどんどん目つきが険しくなっていく法廷兵さんたちの口にポルボロンを入れてあげると、ほろほろと崩れるお菓子の食感に少しだけ目元を和らげた。


 気付くと護衛組の目も剣呑なものになっていたので、みんなの手にもポルボロンを握らせ、アルバロとエミルの膝にはハクとライムを乗せてあげる。


「この裁判所の裏庭で寛いでいるアリスは、モレーノ裁判官の庇護下にあるんだよな? あんたらはヤツらを止めようとしていたし」


 少し落ち着きを取り戻したアルバロの問いに、法廷兵さんたちは揃って力強く頷いた。


「モレーノ様は今回のアリスさまの謝罪要求は当然のものであると認識していますし、我らも同様に考えます。今回のソラル子爵のやりようは裁判所としても見過ごすことはできません!」


「裁判所が認めた被害者であり、町長の不正を暴くのに貢献されたアリスさまを勝手に囮に使うなど、子爵ごときに許される所業ではありません!」


 ああ、そういうことか。 法廷兵さんたちの話を聞いてやっと納得できた。


 モレーノ裁判官が、私の要求した賠償をあっさりと全て認めてくれたのは“裁判所に売られた喧嘩”という事も含まれていたからなんだ。


「あっ……」


「ん?」


 マルタの呟く声に顔を上げてみると、視線の先では領兵たちが剣で結界を切りつけていた。


「攻撃魔法まで……」 


 エミルの視線の先では、ファイヤーアローとウォーターランスが結界で弾かれている。


(この結界って、あの攻撃をどのくらい防げるの?)


(今の攻撃だと半年くらいかにゃ? アリスが心配なら、内側にもう1つ結界を張っておくにゃ!)


 ハクが笑ったと思ったら、結界が分厚くなったように見えた。


 領兵たちは顔を引きつらせて攻撃の手数を増やし、護衛組は大爆笑だ。


「アイツら……。 アリスさまが怪我をしたらどうするつもりだ!?」


「はははっ! これは、怪我のレベルじゃないだろう? 命を狙われてるって言ってもおかしくない」


 結界に対する信頼か、怪我の心配をしてくれていた法廷兵さんはイザックの一言で真っ青になった。


 まあ、剣とは違って、攻撃魔法は一度放つと途中で止まらないからね。 私もハクの張ってくれた結界じゃなければ、こんなに落ち着いて見ていられなかっただろうし。


「攻撃の種類と数を覚えておいてくれる? 賠償に上乗せして請求するから」


 とお願いすると護衛組はますます楽しげに笑い、釣られたのか、法廷兵さん達も苦笑している。


「それにしても、レイナルド?って跡取りもバカなの? こんなことをしたら自分が不利になるってわからないのかなぁ?」


 シチュードティーを味わいながら呟くと、嬉しそうにアイスシチュードティーを飲んでいた法廷兵さん達が首を横に振った。


「いいえ、レイナルド様は思慮深いと方だと評判ですが……」

「これは驕った領兵の暴走かと……」


 領兵には怒りを見せていた法廷兵が、レイナルドを庇うのを聞いて少しだけ跡取りに対する評価を改める。


「ふぅん? 思慮深くはあるけど統率力には欠ける、と」


「まだ、成人されたばかりなので……」

「愚かな者が功を焦ったのでしょう」


 私の肉体年齢と同じくらいかぁ。 じゃあ仕方がないのかな?  かといって、要求する賠償金額に手加減をする気は欠片もないけど!









「何をしている、おまえ達!!」


 聞き覚えのない若い男の声が聞こえたのは、領兵たちが個別に攻撃をしても効果がないことに気が付き、5人が揃って結界の1箇所(私の真ん前!)を狙って攻撃をした直後だった。


 走ってくる若い男の後ろを早足で歩いてくるのは、怖い顔のモレーノ裁判官と顔を引きつらせているウーゴ隊長。 と法廷兵と領兵たち。


「おまえ達は自分が何をしているのかわかっているのか!?」


 若い男が領兵たちを叱責している間に、モレーノ裁判官とウーゴ隊長は口々に私たちの安否を確かめてくれている。


(ハク)

(わかっているにゃ! 結界の消失は2秒にゃ!)


 2秒か。 説明をしている時間はないな…。


 私は若い男と領兵たちから少し離れた場所に裁判官たちを誘導し、ハクの結界が消えるのと同時に2人の腕を引っ張り寄せた。 2人が驚いている間にハクの結界が再度張られ、若い男が驚愕の声でモレーノ裁判官を呼ぶ声が聞こえる。


「ああ、アリスさん! 怪我はなかったですか?」

「アリスさま! 一体なぜこんなことに!? 恐ろしい思いをされたでしょう!」


 2人は結界内に取り込まれたことなんかどうでもいいとばかりに、私たちのことを心配してくれる。


「大丈夫ですよ。 みんな、怪我1つしていません」


 にっこりと笑って答えてからクルリとその場で回って見せると、2人はやっと安心したように笑ってくれた。


「モレーノ様、申し訳ございません! 我々の力が及ばず……」

「アリスさまに守っていただいていました……」


 攻撃を受けたのは結界を張ったせいなのにおかしな報告をする法廷兵をもう一度座らせて、裁判官と隊長にも座ってもらい飲み物のリクエストを聞く。


 説明は護衛組に任せて2人のリクエストのカフェオレを注いでいると、若い男がモレーノ裁判官を呼ぶ声が一段と大きくなった。


「この結界は物理・攻撃魔法を防ぎ、外の音は聞こえますが、中の私たちの声は外には聞こえません。 こちらの声が向こうに聞こえるようにしますか?」


「…いいえ。 この結界のことを聞かれたら、両方の音は聞こえないという事にしましょう。 その方が彼らの本音が聞けておもしろい」


 裁判官は自分を呼ぶ声をまるで“聞こえていない”ようにきれいに無視し、楽しげににっこりと笑った。 


 ……頼もしいっ!


ありがとうございました!


今回で200話なのですが、物語内の時間はあまり経過していません…。 おかしいな^^;

今後もよろしくお願いします!

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