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かわいい弟

 私は国永愛凜澄(くにながありす)。 31歳の地方公務員。 最近、キラキラな名前が辛くなってきた。


 弟がいる。名前は流威(ルイ)。 22歳。 いわゆるイケ面で、幼少時から現在まで“ファン”を自称する女の子が途切れない。


 今日は有名レストランで、“家族揃っての食事”ってのにつき合わされていた。


 父は中堅企業の取締役。お付き合いといっては綺麗な蝶々がいっぱいいるお店で散財していた。


 母は『カリスマ』と呼ばれていたこともあるスタイリスト。今は有名シンガーの専属で、家に戻ってこない日も珍しくはなかった。


 そんな両親の仲が良いはずがなく、何年も家庭内別居を続けた挙句、今回めでたく、父に子供ができ(もちろん夜の蝶との子だ)、母もシンガーのマネージャーさんと非常に仲良くなり、利害一致の円満離婚をやっと決めた。

……2人とも、もういい年なのに、元気だな~。


 今までほとんど家にもおらず(弟の流威は私が育てた!)、家族団欒なんてものとは縁がなかったくせに「最後に家族が揃う、思い出を」と言い出して、ほぼ強制的に食事会に連れ出された。


 何年も不仲だった両親の離婚にいまさら何か感じるものもなく、しぶしぶ参加した食事会。


 心の癒しは弟の流威だけだ。


 就職先も決まって最後の学生生活を謳歌している弟は、朝と晩は私と一緒にごはんを食べる為に家に帰ってくる、姉思いの可愛い弟だ。


 思春期を迎え、両親に対して怒涛の反抗をしていた頃も、姉の私に対しては笑顔と思いやりを忘れなかった、可愛い可愛い弟なのだ。


 そんな可愛い弟との、普段は敷居が高いお店のおいしい食事を報酬と思い、すでに夫婦ではなくなった両親の恋人に対する惚気話を聞き流していた。


「愛凜澄、この鴨のコンフィ、旨いね。 家でも作れる?」


 弟の可愛いリクエストに、


「頑張れば多分作れる、かな?」


 と答えてやれば、


「やった! じゃあ、頑張って! 俺、愛凜澄の作る飯、大好き♪」


 なんて言って笑う、本当に可愛い弟なのだ。


 私のことを「お姉ちゃん」と呼んでくれないのはちょっとだけ困るけど、小さい頃の「あいしゅ~」と、まるで冷たいお菓子のように私の名を呼んで、後を追って来ていた頃のことを思い出すと、仕方がないな~と思ってしまう。


「じゃあ、ワインは俺が買ってくるよ」


 そう言って笑う弟に満面の笑顔を返した、次の瞬間だった。


 店の入り口付近が騒がしくなり、女性の甲高い悲鳴やグラスの割れる音が聞こえたのとほぼ同時に、拳銃を手にした覆面の男達が3人、店の奥に押し入ってきた。


 そして、周りを見回したかと思うと私たちのテーブルに目を留め、3人が3人とも、揃って私たちに銃口を向けたのだ。


 とっさに弟に手を伸ばし、弟の「愛凜澄っ」と私の名を呼ぶ声を聞いたのを最後に、私の体中を、激痛が襲った――。


ありがとうございました!

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