冒険者はダイエットいらず?
みんなにお昼ごはんのリクエストを聞いたら、
「ガッツリしたモノ」
「甘いもの」
「試食会で評判の良かったもの」
とふんわりした希望だったので、炒飯・から揚げ・誘惑のトーストと、見事に高カロリーな取り合わせになったけど、誰も文句はないようだ。
サラダとりんごを出して、それぞれに食前の挨拶をすると、
「これが例のからあげですね? 生姜バージョンですか?」
モレーノ裁判官がさすがの情報収集力を披露する。 一応、登録までは極秘のはずなんだけどなぁ…。
まあ、モレーノ裁判官だから別に構わないんだけど。
「ご希望ならニンニクバージョンもありますよ? お勧めはしませんけど」
にんにくバージョンのから揚げを取り出しながら言うと、モレーノ裁判官はさすがに理性的で、
「この後も仕事があるので止めておきましょう」
苦笑しながら生姜バージョンのから揚げにフォークを伸ばした。
「なるほど、これは美味しい! 柔らかくてジューシーですね!」
「にゃん♪」
モレーノ裁判官の感嘆の声にハクが嬉しそうな鳴き声を上げると、裁判官がハクとライムのお皿にから揚げを乗せてくれた。
「にゃっ!」
「ぷきゃ!」
から揚げが大好きな従魔たちは大喜びだ。 …初めて作った時に3日間連続でから揚げだったことは忘れられない。
あの頃とは違って、色々と食べるものがあるから大丈夫だとは思うけど。
「この“誘惑”のトースト、美味しくて止めれないわ! おかわり!」
マルタがお皿を差し出すと、全員がおかわりを希望する。 ……高カロリーだって言った方が良いのかなぁ?
嬉しそうにおかわりに手を伸ばすみんなの笑顔を見ると、“太る”なんて無粋なことは言いたくない。 でも……。
「アリス、どうしたんだ?」
“太る”と言い出せなくて迷っている姿が不審だったのか、エミルが心配そうに聞いてくれた。 みんなも心配そうに手を止めてくれるけど、なんだかますます言いづらい。
「もしかして、彼らが少しふくよかになったことが気になっていますか?」
「!」
「ああ」
「なるほどな」
「そんなこと?」
「この程度なら誤差だぞ」
モレーノ裁判官に心の内を言い当てられてびっくりしていると、護衛組はあっさりと“太った”ことを認めて、安心したように食事を再開した ……あれ?
「アリスの飯が美味くて、いくらでも食えるんだよな~。 でも、探索に出たら体重なんてすぐに落ちるぞ?」
「この程度の肉なら、動きにも支障は出ないから安心してくれ」
「休息期間は酒で太るんだが、依頼中に飯で太るのは初めてだな。 アリスが心配をしてくれるなら、訓練の時間を取って調整するか?」
「ここでのバイトも今日で最後でしょ? アリスも一緒に訓練しない?」
……みんなは気にするほどでもないけど、私の心配を解消するために訓練するの? その程度のコトなの?
「もう! 心配して損したよ! だったらデザートも安心して出せるね♪」
インベントリからシャーベットを取り出すと、みんなの目が輝いた。
「モレーノ裁判官のリクエストの“甘いもの”です。 こっちがさっぱりレモン味で、こっちがヨーグルト味」
器に取り分けてスプーンを添えて渡すと、みんな躊躇することなく口に入れる。
「これは素晴らしい…!」
「甘くて冷たい?」
「なにこれ、冷たいわ! 美味しい!」
「冷たいからお腹を壊しやすいの。 自分で調整してね?」
一応注意はしたけど、きっと無駄なんだろうな~。 まあ、お腹が痛くなっても治してあげるから問題ないけど。
いち早く食べ終わった裁判官が器を差し出したので、おかわりを盛り付けると、
「これもとても美味しいですねぇ! アリスさんの作るお菓子は何を食べても美味しい。 昨日のクッキーも美味しかったですよ。 みんな喜んでいました。ありがとう」
幸せそうにシャーベットを食べながら、昨日のお礼を言ってくれた。
「こちらこそ! 法廷兵さんを護衛をつけてもらって感謝しています。 ありがとうございました!
今、日陰を作ってくれているパラソルも職員さんのご好意です。 感謝していると伝えてもらえますか?」
職員さん用に生キャラメルを入れたバスケットを、裁判官用にビンに詰めた生キャラメルを渡すととても嬉しそうに笑って受け取ってくれた。
裁判官はちっとも太らないので、安心して甘いものをプレゼントできる。
護衛組と従魔たちのシャーベットのおかわりはアルバロとマルタに任せて、にこにこと裁判官と笑いあっていると、
「モレーノ様!」
受付さんが血相を変えて走ってきた。
受付さんに耳打された裁判官は、少しだけ眉根を寄せて、
「アリスさん、しばらくこちらで待っていてもらえますか?
アルバロ、私が戻るまでは、アリスさんに誰も近づけないように!」
と言い置いて裁判所に戻って行った。
……珍しいことを言っていたけど、何かあったのかな?
ありがとうございました!




