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聞かない方がいいこともある

「別室を用意するので、ゆっくりとお茶でも」


というティト裁判官の誘いを丁重に(強硬に)断り、裏庭で日向ぼっこをしていると、いつの間にかうとうととしていたようだ。


 ぷにぷにの布団の上にゆ~~っくりと体を倒されて、首元をふわふわの柔らかく暖かい毛玉に覆われるとそのまま何も考えられなくなった。


「無理もない。 アリスはこの町に来てからずっと、忙しく動きっぱなしだったからな」


 アルバロ達の話し声が聞こえる気もするけど、何を言っているかまではわからない。


 意識を保つことを諦めて、まどろみの心地よさに身をゆだねた。









「ねえ、良いわよね!?」


「静かにしてくれ! アリスが起きちまう」


「静かにしていたら、昼食に招いてくれる?」


「そんなことを決める権限は俺たちにはない」


「だったらこの子に聞いてみてよ! きっと“いい”って言ってくれるわ!」


 ……“この子”って私のことだよね?  このうるさい人たちは誰だろう。


 ゆっくりと目を開けて、最初に目に入ったのは大きな傘。ガーデンパラソルだった。 陽の光を遮ってくれていて、目を開けても眩しくない。


((おはよう)にゃ!)


(うん、おはよう!)


 頬におはようのキスを貰い、お返しをしようとすると、


「あら、やっと起きたのね! ねえ、私たちは商業ギルドの幹部候補なのに昨日の試食会に呼ばれなかったのよ! 酷いと思わない? 思うでしょ? だから、今日の昼食に招いてもらいに来たの!」


「もちろん、いいわよね!? 私たちを昼食に招くなんて、光栄なことだもの。断るわけがないわ!」


 甲高い女性の声が耳を貫いた。  ……耳がキーンってしてるよ。


 とりあえず、うるさい女性2人は放っておいて、ハクのふわふわの頬とライムのプルプルの頬らしき所におはようのキスを落とす。


「アリス、すまねぇな…。せっかく気持ち良さそうだったのに邪魔しちまった」


「ううん。アルバロが謝ることじゃないよ。 で、その失礼極まりない人たちは誰かの知り合いなの?」


 そんなハズはないだろうと思いながら一応聞いてみると、4人は全力で首を横に振った。


「じゃあ、誰?」


「さっきも言ったじゃない! 私たちは商業ギルドの幹部候補よ!」

「あなた、料理の腕はいいらしいけどおつむの方はお粗末なのね!」

「「うふふふふふふっ」」


 ……同じ顔と同じ声で平気で人を貶めることを言う双子。 仲良くなれそうにない人種だ。


 アルバロとイザックが体で2人の接近を阻んでくれていることに、心から感謝だな。 手の届く所にいたら、反射的に攻撃をしていたかもしれない。


「このパラソルはどうしたの?」


「アリスが横になってしばらくしてから、ここの職員が持ってきてくれたんだ。 昨日の礼だとさ」


 お礼ってクッキーのことかな? 私がお礼をしたつもりだったのに、そのお礼を貰っちゃった♪ 


 パラソルの設置に気が付かずに寝ていたくらいだから、随分と気を使いながら設置してくれたんだろう。


 職員さんの優しい気遣いに感謝していると、寝起きに感じた不愉快さが少しだけ軽減した。 


「今何時?」


「もうすぐ13時だな」


「そっか、よく寝たな~。

 じゃあ、そろそろモレーノ裁判官がお昼休みになるね。 このパラソルを借りてていいなら、このままお昼の準備をする?」


「きゃあ! やっと食べられるのね!」

「ぐずぐずしていないで、早く準備してよ! いつまで待たせるの?」


 ……どうしてこの2人は一緒にごはんを食べるって思い込んでいるんだろう? さっきから返事もしていないのに気にするそぶりもないし、一体何者なのか。 


 不思議に思っている私に、マルタが不機嫌丸出しの顔で詰め寄ってきた。


「ねえ、アリス? この女たちにもアリスのごはんを食べさせるつもりなの!? あたしが文句を言えることじゃないけど…、イヤよ!」


 きっぱりと言い切るマルタに、みんなが頷いて同意する。


「私も嫌だよ」

「私も嫌ですね」


 私の意思表示と同時にモレーノ裁判官の声も聞こえた。


「「何ですって!? 私たちの誘いを断るつもり!?」」


「モレーノ裁判官、こんにちは! 早速ですが、この非礼な女たちをどうすればいいと思いますか? 力ずくで排除しても問題はないですか?」


 今の所はうるさい声で安眠の邪魔をされただけなので、“相手にしない”以外の対処が思いつかない。


 裁判官の知恵を借りることにした。


「そうですねぇ。 商業ギルドの所属を名乗っているなら、商業ギルドに連絡して引き取りに」

「アリスさん! モレーノ様!」


「…来ましたね」


 連絡はまだしていないけど、引取りに来てくれたらしい。 サンダリオギルドマスターが慌てたように走ってくるのが見えた。


「おまえ達! ここで何をしているんだ!?」


「あら、ギルマス。 私たちはお料理の味見をしに来てあげたのよ」

「登録に値するかどうかを見極めてあげるわ!」


 双子は悪びれることもなくギルドマスターに答えているけど、ギルドマスターの顔はどう見ても怒っているようにしか見えない。


 この、自称・幹部候補の2人を昨日の食事会の会場に近づけなかったことだけでも、ギルドマスターの評価は上がる。


「アリスさん、モレーノ様! 大変失礼をいたしまして申し訳ございません! 

 この愚かな2人は引き取らせていただきます!」


 ギルドマスターの合図と共に、ギルドマスターの護衛たちが双子を縛り上げて猿轡を噛ませて肩に担ぎ上げた。


 “う~う~”と呻いている双子を気にかける様子もない。


「なあ、その2人は“幹部候補”だって言ってるけど、本当なのか?」


 イザックがまるで信じていない声で確認をすると、ギルドマスターは大きなため息を吐いた。


「まさか。 この様な物知らずを幹部候補に迎えるほど、この町の商業ギルドの人材は不足していない」


 きっぱりと辛辣に言い切って、モレーノ裁判官と私に向き直る。


 「この2人はよその町のギルドからの預かり人ですが、今回の暴走には目をつぶれません。送り返すことにします。 “邪魔にしかならない”の評価と共に」


「「むぐーっ! むぐぐぐぐっ!」」


「この2人からレシピが洩れることは?」


「ございません。 登録が整うまでは、相応の処置をしますので」


 自信あり気に言う“相応の処置”がどんなものか気になるけど、今回は触れないことにする。 今はこの双子が目の前からいなくなるだけで十分だ。


 護衛たちに担がれた双子を冷たく睨み「お詫びは後日改めて…」と、足早に立ち去ろうとするギルドマスターを引き止めた。


「ギルマス! いただいたお野菜はどれも美味しかったです! 今度また何か作るので、一緒に食べませんか?」


「!! ええ! 是非!!」


 驚いた顔で振り返ったギルマスは、笑顔で手を振って帰っていった。


 寝起きは不快だったけど、今は胸に残っていたわだかまりが消えてすっきりだ。


 さあ、お昼ごはんにしよう♪


ありがとうございました!

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