表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/763

生野菜、塩もいいけど・・・

 正門が近づくと、ハクとライムがそわそわし始める。 サンダリオギルドマスター達との待ち合わせ場所だからだ。


 何度目かの通行料を払いながら、“この町の冒険者ギルドで登録をしていたら”払わずにすんだであろう通行料の合計にがっくりしながら護衛組のギルドカードを眺めていると、


「アリスさん! ハク君! ライム君! こちらですよ!」


 門を入ってすぐ脇の所に止まっている荷馬車の前で、手を大きく振っているサンダリオギルドマスターに呼び止められた。


「おはようございます」


「おはようございます。ギルドマスター」


 挨拶を返すと、ギルドマスターは突然悲しそうな顔になる。


「まだ、許してはもらえませんか…」


「なんですか?」


 ポツリと呟くように言われた言葉が理解できなくて聞き返すと、


「もう、私の事を“ギルマス”と気軽に呼んではもらえませんか?」


 と寂しそうな顔をされてしまった。


 ……自分でも気が付いていなかったけど、どうやらまだ、わだかまりを残しているようだ。


 ギルドマスターは両隣に立っていたサブマスターとファビオの父親に慰めるように肩を叩かれているけど、私はただ、笑ってごまかすしかない。


「にゃん!」

「ぷきゅ?」


「おおっ! ハク君、ライム君。 君たちの朝ごはんを用意したよ!」


 空気を読んだのか、ただ食欲に負けたのか。ハクとライムが可愛らしくギルドマスターの前でお座りをして鳴き声をあげると、ギルドマスターは嬉しそうに荷馬車を指差した。


「今朝入荷した物の中で、お勧めの野菜と果物よ!」

「全て君たちの物だ!」


 サブマスターの声で幌が外されて山と積まれた野菜や果物が見えると、2匹は荷馬車の周りをぐるぐると回って喜びを表現した。


「これ、全部ですか?」


 さすがに多すぎるだろうと呆れていると、


「2匹が食べきれない分は、アリスさんに受け取ってもらえれば」


 と言うので、私への付け届けも含まれているらしい。


 お礼を言って受け取ると、3人は嬉しそうに帰っていった。









 朝ごはんを食べるために拠点に戻るのも面倒なので、裁判所へ行く途中にある公園で食べることにする。


 護衛組にはローストボアをたくさん挟んだサンドイッチとフルーツヨーグルトとカフェオレを。


 従魔と私はさっきもらったばかりの野菜の中から、そのまま食べられるトマト・きゅうり・セロリを出した。


 護衛組が不思議そうに私を見るけど「従魔たちだけ罰ごはんはかわいそうだから」と言うと、納得したのか笑って頷いた。


 ただ、生野菜ばかりをいっぱい食べるのは辛くて、塩を振ったトマトときゅうりを1つずつで止めようとすると、みんなからすごく心配されてしまう。


 仕方がないのでハクに遮蔽結界を張ってもらってから、調味料を作ることにした。


 いきなりボウルと食材を取り出した私を興味津々の目で見ていた護衛組だったが、卵黄・お酢・レモン汁・塩を、一束にした串で必死にかき混ぜている私を不憫に思ったのか途中でエミルが代わってくれて、私は少しずつ油を注ぐ係に落ち着いた。


「色が変わってきたぞ…」


 ひたすらかき混ぜていたエミルが不安そうに呟いたけど、私の満面の笑顔を見て安心した。


「いい感じか?」


「うん。 色が白っぽくなってこんな風にもったりしたら完成の合図だよ! マヨネーズの出来上がり♪」


「まよねーず?」


「うん。私の故郷の調味料。 手伝ってもらったお礼に、何か甘いものでも出そうか?」


 と聞くと、エミルはマヨネーズの試食をしたがった。 アルバロ達も食事の手を止めてマヨネーズを凝視している。


「いいよ。 これが合うのはきゅうりとセロリ。今朝は出していないけど、キャベツやレタスにも合うよ」


 手本にセロリにマヨネーズをつけてシャクッっと齧る。 手作りのマヨネーズ、最高!


 私の顔が何かを語ったのか、ハクやライム、護衛組が生野菜を手に一斉にマヨネーズに集った。


「なんだこれ!」

「いくらでも生野菜が食べられるぞ!」

「生野菜の苦味が消えたわ」

「もう、生野菜を嫌いじゃない…」


 護衛組が大騒ぎをしながら食べる中、従魔たちは無言でひたすらに生野菜を食べ続けていた。


(おいしい?)


((うん!!)にゃ)


 みんなの手が止まらないので、ストックしていたキャベツの千切りやレタスも出すとあっという間になくなる。


「アリスはもう食べないのか?」


「うん、お腹いっぱい」


「そうか…。 アリスはいつも小食だけど、冒険者は体力勝負だぞ? もっと食わねぇと……」


 アルバロが心配そうに言って、みんなが大きく頷くけどそれは違うよ!?  私が小食なんじゃない。 みんなが大食なんだ! 


 今までも薄々思ってたんだけど、昨日の商業ギルドの試食会で確信した。


 この世界は元々の食料が少ないんじゃなくて、みんながいっぱい食べるから食料が少なくなるんだ!









 裁判所に着くと受付で、昨日モレーノ裁判官が取り調べた盗賊たちのスキルと持ち物を貰った。


「さすがに落ちるな」


 1日目に首領を始め主だった幹部たちを済ませたので、盗賊たちの持ち物が格段に残念な感じになっている。


 私は小さな宝石を1つ貰って、後は護衛組で分けてもらった。


 モレーノ裁判官の伝言「お昼ごはんは13時頃を希望」を受け取り「裏庭で待っている」と伝言を残すと、ウーゴ隊長が受付まで迎えに来てくれた。


「少し熱が上がっているように見える」


「わかったわ。 警戒を強める」


 ティト裁判官の部屋へ案内しながら、ウーゴ隊長がティト裁判官の様子を教えてくれる。


 あのキラキラとした視線は居心地が悪いから、聖女じゃないって証明は出来ないのかなぁ?とぼんやり考えていると、ティト裁判官の部屋の扉が急に開いた。


「アリスさま! おはようございます。 今日も大変に麗しく」

「おはよう。 早く取調べを始めてちょうだい」


 迎えに出てきたティト裁判官がキラキラとした笑顔で話しかけてきたけど、マルタにすげなくあしらわれて、凄い目で睨みつけていた。  マルタは何とも感じていないようだけど、見ているほうが落ち着かない。


「ティト裁判官、おはようございます。 今朝は色々とあったので少し疲れていまして……。 取調べを早く始めてもらえませんか?」


 思わず口出しをすると、ティト裁判官は「おいたわしい」とか「お疲れなのに、罪人の治癒の為にわざわざ」とか言いながら、キラキラとした視線を強めてしまった。  


 後ろで護衛組とウーゴ隊長のため息が聞こえる。 うん、私も失敗したと思ってる……。


 でも、私が「疲れている」と言った為か今日の取り調べはスムーズで、治療が必要な5人を全て調べ終わったのはまだ11時になる前だった。 


 昨日はわざとゆっくりしていたのかな? まあ、いいけど…。


ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ