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従魔の判断

 醤油           3樽

 塩            10kg

 砂糖           5kg

 蜂蜜           5kg

 米            10㎏袋が5つ

 小麦粉          10㎏袋が5つ

 高品質の紙        1,000枚

 商業ギルドの公認看板   2種類(販売店用・飲食店用)



 これらがギルドからのお詫びの品らしい。 私が商業ギルドを出て散歩をしながら家に戻るまでの時間で、よくこれだけのものを用意できたものだ。


「これで水に流して、薬の登録をしろとでも?」


 冷たく見つめると、


「そこまでずうずうしいことは申しません! 

 …料理のレシピ登録を取りやめないでいただきたいのです」


 そこまでの事は考えていなかったのでびっくりしたが、何とか顔には出さずにすんだ。


「ん?」


 キモノの裾をツンツンと引っ張られて振り向くと、マルタが照れくさそうに笑っている。


「あたしもアリスのレシピを買いたいから、登録して欲しいわ」 


「だったら、ただであげるよ?」


 マルタの為ならレシピくらい書くと言うと、マルタは首を横に振り、


「料理レシピの登録はしてあげたらどうかなって。 

 アレを見て? 商業ギルド公認の看板は商人たちの憧れなのよ? 冒険者のランクで言うとBランク相当かな。 ギルドからの信用を得ている商人にしか渡さないから、結構なステータスなの」


 マルタが指差している先には2枚の看板。 商業ギルドのマークと番号が刻印されている。


「この国だけじゃなくて、商業ギルドのある国ならどこででも使えるわ。 この看板がある店の物なら、お客は安心して買い物をするの」


 どうして看板が?と思っていたら、なかなか便利な看板らしい。


 マルタの説明を聞いてギルドマスターの方へ視線を向けると、3人揃って何度も頷いている。


「でも、私はもう、商業ギルド会員じゃないよ?」


 ギルドカードも返却したし、無用のものだろうと言うと、


「「「アリスさんはまだ商業ギルド会員です!」」」


 商業ギルド幹部の声が揃った。


「もう、カードもないし」


「破損したカードのことならすぐにでも再発行できます!」


 ……受付さんはあのゴミをギルドマスターに見せたんだ? 


「ギルドまで行くの面倒だし」


「ここに血液を垂らしてくれるだけで大丈夫です!」


 見せられたのは、私の名前の記載のあるカード。 用意がいいな…。 でも、


「いらない」


「どうしてですか!?」


「痛いのイヤだし」


 と答えた次の瞬間に、指先にチクッとした痛みが走った。


「いたっ!」


 びっくりして見てみると、ハクが牙を見せながら得意げに笑っている。


(貰えるものは貰っておくにゃ!)


 久しぶりの守銭奴・ハクだ……。  でも、守護対象を自分で傷つける守護獣ってありなの?


 ヒールを掛けようとすると、今度は指先に硬いものが押し付けられた。


「「おおっ!!」」

「従魔ちゃん達、ありがとう!」

(ありす、ごめんね?)


 いつの間にかギルドカードを持っていたライムが、カードに私の血液をこすり付けている。


「凄いな、2匹とも! しっかりとアリスの権利を守ろうとしてる!」

「ハクもライムも本当に賢いな~!」


 ギルド幹部に感謝され、護衛組に褒められて得意気な2匹は可愛いけど……。


「ハク、ライム。 明日の朝ごはんは抜きだよ」


 私の意志を無視するのは、ちょっとやりすぎ。 ペナルティを受けてもらおう。


 “ごはん抜き”と聞いた瞬間に2匹が固まり、回りの大人たちはオロオロして私に視線を飛ばしてくるけど、全部無視する。 これもしつけだ!









「んにゃ~! なぉ~ん!(ごめんにゃ~! ごめんなさいにゃ~!)」

「ぷきゅ~! ぷきゅ~! きゅうぅぅぅ?(ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるして?)」


 ハクは指先をぺろぺろしながら、ライムは私のお腹に体を押し付けながら謝るけど、心話だけでなく、わざわざ鳴き声をあげるところがあざといと思う。 悲しそうな鳴き声に釣られた大人たちが、


「アリス、飯抜きは可哀想だ…」

「アリスの為を思っての行動だから、許してやって?」

「従魔ちゃん達、ごめんなさいね! ああ、どうしましょう!!」

「アリスさん、悪いのは全て我々で…。 2匹にはどうか寛大な……」


 私に執り成すことをわかっていてやっているんだから賢いよね……。


 大きなため息を吐いた私に、みんなの視線が集まる。


「ハクとライムは私とギルドの人たちの為に行動したのかな?」


 2匹に聞いたのに、2匹が答える前に周りの大人たちがこぞって認める。


(本当は違うでしょ?)

(だって~)

(貰っておくのにゃあ…)


 私の怒りが収まっていることをわかっていて、許すのに有利なタイミングを見計らっていた2匹の判断だ。 やりすぎだけど!


「でも、いきなり噛み付くのは酷いよね? だから、明日の朝ごはんは出してあげません! 反省して?」


 2匹に言い聞かせていると、周りから一斉に執り成しの声があがる。


 2匹もここぞとばかりに悲しそうな鳴き声をあげるので、


「ちゃんと反省できたら、商業ギルドの人たちに朝ごはんをおねだりしてもいいよ?」


 にっこりと笑いながら告げると、とたんに2匹は元気になった。


(いっぱい搾り取ってやるのにゃ!)

(ぼくたちにまかせて? ありすのぶんもいっぱいおねだりしてみせる!)


 心話では元気いっぱいに悪役のセリフを決めておきながら、商業ギルドの3人に対しては悲しげな雰囲気を醸し出している2匹は役者だと思う。


 3人は喜んで、


「明日の朝、いっぱいごはんを持ってくるからね!」

「美味しいものを買い込んでくるから待っていて欲しい!」

「荷車ごと買って来るぞ!」


 と息巻いている。


「アリスは明日は6時には表門から出て行く予定だぞ」


 アルバロの言葉に、


「この町を出て行くのですかっ!?」

「そんなに早く出て行くほど、怒っているの!?」

「待ってください! 出て行かないでください!」


 3人が勘違いをして騒ぎ出したのは、アルバロの狙い通りだったらしい。

 

 窘めるようにわき腹をつついたエミルに、


「アリスを怒らせるからだ」


 と答えたアルバロは、初孫を可愛がるおじいちゃんのような顔をしていた。  


 喜んでいい……のかな?


ありがとうございました!

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