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夜は穏やかに過ごしたい

 拠点にしている家の前には複数の黒い人影が立っていた。


「7人か、多いな。 アリスに心当たりは?」


「ない」


【マップ】&【魔力感知】とハクの反応を見る限り悪意はなさそうだけど、夜になってからの集団訪問なんて厄介ごとの臭いしかしない。


「アリスさん!」


 もう少し散歩でもして来ようかと考えていると、立ち止まっている私たちに気が付いた1人が声を上げて駆け寄ってきた。


「こんな時間にどうした?」


 護衛組が少しだけ警戒を解いたので知り合いだと思う。私の名前を呼んでいるから、私の知っている人?


「ああ、冒険者ギルドの…」


 顔を見ると、私に冒険者登録のことを説明してくれた男性職員さんだった。 


 職員さんは挨拶をしながら一緒に待っていたまだ顔の見えないメンバーが誰かを教えてくれた。


 職員さんと護衛の冒険者が2名、そして、商業ギルドのマスターとサブマスターと護衛が2名。 一緒に来たわけではなく、商業ギルド一行は先ほど着いたばかりらしい。 


 ここで話をするとご近所に迷惑なので、とりあえず拠点に招いた。










「本日行われたオークションの落札代金をお持ちしました」


 職員さんに渡された皮袋の中には、金貨が1枚と大銀貨が1枚。それと水晶の落札代金が書かれた紙が1枚。


 紙を見ながらアルバロが頷いたので落札金額に間違いはないらしいが、合計の金額が100万メレ合わない。


「お預かりしていた水晶5点のうちの2点がギルドの落札上限額に達した為、それ以降の入札を制限しました。出品者さまに対する損失補填金が1点につき50万メレですので2点で100万メレとなります。 

 こちらからお願いをした出品でしたのに、申し訳ございませんでした」


 職員さんが説明をしながら謝ってくれた。 青天井にしない代わりに損失補填をつけるなら、ギルドの誠意としては十分だろう。


 落札金額も、私の想像よりも随分と高額だったので十分だし。 


 お礼を言って受け取りにサインをすると、職員さんはホッとした顔で帰って行った。


「ステータスの水晶って、随分と高いんだね?」


 ダビのステータスの水晶は大した数値じゃなかったと思うんだけど。


「ステータスの水晶は滅多に出ないからな。いい買い物をさせてもらったよ!」


 イザックがとても嬉しそうに笑っている。 


 護衛組全員が手に入れられなかったのは残念だけど、手に入れたマルタはもちろん、アルバロとエミルも笑っているから、まあ、いいか♪








 冒険者ギルドの職員さんが帰ったあと、護衛組と裁判所で別れてからの行動をお互いに報告していると、


「一同、深く反省しております…」

「本当にごめんなさい……」


 玄関のドアの前に立っていた2人が遠慮がちに詫びの言葉を掛けてきた。 でも、


「そうか、アリスは大変だったんだな……。

 ああ、そうだ。 衛兵の詰め所に行くと盗賊団を引き取りに来た時の隊長がたまたま居てな、アリスからの差し入れをとても喜んでいたぞ。 “隊員が世話になっていてこちらも感謝している。困ったことがあれば、いつでも声を掛けて欲しい”ってさ」


 アルバロは2人を気にもとめずに話を続けた。 視線を向けることもない。


「クッキーも一瞬で一ビンなくなるくらいに、喜んで食べていたわ」


 マルタがにこにこしながらバスケットとビンを1個だけ返してくれた。


「いないヤツらに恨まれるからって、隊長が慌てて止めてたぞ。 …隊長が一番嬉しそうに食べてたけどな!」


 エミルもイザックも楽しそうに笑い、誰もギルドマスター達の事を気にとめない。


 ……ちょっとだけ気の毒になってきたかな?


「おまたせ! 有り合わせでごめんね?」


 でも、みんなのごはんが先だ! いっぱい食べていた2人の事はもうしばらく放っておこう。


「今日のごはんも美味しそう!」

「「「「女神に感謝を!」」」」

  ((いただきます)にゃ!)


 ご飯とオークの生姜焼きと天ぷらと野菜のスープを出すと、みんなは凄い勢いで食べ始めた。


 ……ハクとライムは商業ギルドでも食べていたんだけどね。 まぁ、いいか。


「アリスは食べないの?」


「うん、今日は色々と作って味見もしてるしね。 もう、いいや」


 あま~いシチュードティーをゆっくりと飲みながら、今日1日の疲れを癒す。


 マルタに2度目のご飯のおかわりをよそっていると、玄関のドアを叩く音がした。


「俺が出る。 アリスは動くな」


 ごはんを食べていない私が出るのがいいだろうと立ち上がると、イザックが先に玄関に向かっていた。


「護衛対象はのんびり座ってろ」


 とエミルに苦笑されて座りなおすと、イザックが1人の見知らぬ男を招き入れる。


「商業ギルドの幹部が詫びに来たんだと。 飯の最中だって言ったら外で待つって言うから、とりあえず中に入れてやるぞ? 顔はギルドの護衛に確認させた」


 らしい。 知らない人に謝られてもなぁ……。


 ごはんが終わるまで待つって言ったのなら、大人しく待っていてもらおうか。


 エミルにスープのおかわりをよそいながら、新たな客もしばらく放置することに決めた。










「このたびは愚息が大変失礼をいたしました! 申し訳ございません!!」


 見知らぬ男は、今日の試食会にいたファビオの父親らしい。 


 みんなの食事が終わって片付けをすませてから視線を向けると、それは素晴らしい土下座を見せてくれた。 


「その姿勢が何を意味しているかご存知で?」


「はい。とある国の、心からの詫びを表す姿勢だと聞いております。 首をさらすことで、このまま首を、命を差し出してでも詫びなくてはならない相手に対して行う、詫びの最後の形だと……」


 ……なんか、とんでもなく物騒な解釈になってるな。 どこの国なのか詳しくオスカーさんに聞いておけばよかった。


 絶対に近づきたくない!


「では、その姿勢をギャラリーの前で披露することは、相手に対する脅迫にもなることもご存知で?」


 ファビオの父親はガバッと頭を上げて、驚愕の眼差しで私を見つめる。


「“私が人前で恥を捨ててまで頭を下げているんだ。これで許さないなら見ている人間がおまえをどう思うか、理解しているんだろうな? ああん?” といった形になりますね」


 冷たく見下ろすと、ファビオの父親は慌てて立ち上がり、


「存じませんでした! 重ね重ね、申し訳ございません!!」


 と改めて頭を下げる。 


 うん、普通に詫びてくれたらいいんだよ。 土下座なんてそんなに簡単にするものじゃない。


 この世界に土下座の文化を広めた先輩移住者、出て来い! 軽々しく広めたことを少し反省しろっ!!


ありがとうございました!

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