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身をもって学んだ

「お嬢さんは今まで私たちのお願いを叶えてくれていたから、今回も大丈夫だろうと高を括っていたの……。 ごめんなさい」


「今回も許されるだろうと思っていたんだ。調子に乗りすぎていたな……。 すまなかった。反省している」


 なるほど。 試食は一皿のはずだったのを途中で2皿に増やしたり、試食はないと言っていたシャーベットの味見を許してしまったり、皆さんの要望通りににんにく入りのから揚げを出した挙句お土産用のから揚げを作って販売しようとした私のミスだったのか。 


 依頼主にナメられて好き勝手される所だった。ってヤツだね。 勉強になったな。


 サブマスや他の幹部は謝るが、サンダリオギルマスだけは申し訳なさそうな顔をしながらも言葉では謝らない。


 ……もしかして、私が怒ることも計算の内の“若手教育”だったのかな?   だったら少し協力してあげようか。


「そうですか。 仕方がないですね」


 ゆるく微笑みを浮かべると、幹部たちからホッとした雰囲気が伝わってくる。


 そのまま幹部たちの席に近づいて行きインベントリを開けると何人かが期待した目で見つめてくるが、そんなものに応える気は初めからない。


「…え?」

「……は?」


 テーブルの上に置いていた薬をインベントリに放り込むと、幹部たちが“ぽかん”とした表情で私を見つめる。 悲痛な顔で目を閉じたのはギルマスだけだ。 


 ギルマス、私の“協力”は計算外だった?


 他の幹部の表情を見て、私は「一言謝ればあっさりと許す」と思われていたことを痛感する。 一度ナメられたら後が大変というのはこういうことか……。


「ギルマス? 薬の秘密は守っていただけますね?」


「もちろんです! アリスさんの許可が出ない限り、墓場まで持って行きます」


 ギルマスは悲壮な顔をしながらも、きっぱりと約束をしてくれた。 さっき、“口約束でも約束は約束”と呟いていたギルマスだから、信じていいだろう。


 “信じる”と言葉にする代わりに1つ頷いて、従魔たちの先導で出て行こうとすると、


「どこへ行くんだ!? 薬の登録がまだすんでいない!」


 ファビオの居丈高な怒鳴り声が聞こえた。


 返事をするのが面倒なのでドアに手をかけてギルマスに視線を送ると、


「ファビオ、いい加減にしろ!」

「おまえの行動と、それに目をつぶった我々の行動がお嬢さんからの信用を失い、怒らせたんだ!」

「薬を回収してこの部屋を出て行こうとしているのがお嬢さんの意思表示だ。なぜ、わからん?  第一、謝るのが先だろう!」


 慌てたような幹部たちの声が、ファビオを諌めているのが聞こえた。


 ……つまみ食いも諌めたらよかったのに。


「何を言っているのです!? あんなのはただの口実で、薬のレシピ使用料をふっかけようとしているだけでしょう! こんな安い手に乗って、こちらが下手(したて)に出る必要はない!」


 都合のいいように勘違いをして息巻くフォアビオの相手をするのもばかばかしい。 そのままドアを開けると、今までで一番大きな怒鳴り声が聞こえた。


「もう黙れ! お嬢さんが有望な冒険者だということを忘れたのか! 

 優秀な冒険者は気に入らない話には乗らないし、機嫌を損ねると儲け話からでも簡単に手を引くから要注意だというのは、商業ギルド員なら誰もが肝に銘じていることだろう!

 お嬢さんが商人登録をしていることは、お嬢さんにとっては何の枷にもならんのだ!」


 ……なるほど。 ギルマスが私のことを“本業は<冒険者>だ”と紹介した時の皆さんの反応の意味がわかった。 別に生計を立てる手段があるなら、“商売”にこだわる必要はないもんね。


 疑問が解けてすっきりとした気分で部屋の外に出ると、アルバロたちとコンラートの姿が見えた。


「どうだった?」


「ああ、マルタとイザックが手に入れた」


 アルバロとエミルはダメだったらしい。 お金が足りなかったのかと聞くと、


「競り続けていたら高値になり過ぎちまってな。 ギルドの規定で、高額入札したヤツらでくじ引きになったんだよ」


 とのことだった。 


 オークションにおける“吊り上げ行為”防止の為らしいが、


「オークションって、青天井だと思っていたからちょっとがっかり」


 だ。 私の呟きを聞いて護衛組は素直に笑っていたが、コンラートが苦笑いしながら別の事情も教えてくれた。


「せっかく冒険者ギルドに預けてくれたのにすまんな。 青天井にすると、冒険者間でしこりが残りやすいんだ」


 競り負けした冒険者が逆恨みをすることがあったらしい。 冒険者を守るための措置なら仕方がないと納得した。


 商業ギルドからの依頼でキッチンの扉の前で警備をしているコンラートと別れてみんなと出口に向かっている時に、ふと思いついた。


 “ヒュン!”“カッ”


「アリス?」


 みんなには少し待っていてもらって受付に向かい、


「すみません、ごみを捨てておいて貰えますか?」


 目が合った女性にごみを預けてから外に出た。


 あ~~、すっきりした♪


「あのゴミが<ギルドカード>に見えたのは俺だけか?」

「いや……。俺にもそう見えた。 ギルドカードって、あんなに簡単に破壊できたっけ?」


 護衛組が集まって何かを話しているけど、気にしな~い!










 外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。


「今何時?」


「19時37分だ」


 ネフ村では村が静かになっていた時間だけど、この町はまだ賑やかだ。


 少し散歩をしてから帰りたいと伝えると、


「お酒でも飲んで憂さを晴らす?」


 マルタが素敵な提案をしてくれた。 でも、私を護衛中のみんなは飲まないらしいので今日はやめておく。


 お酒好きなマルタ達に我慢なんてさせたくないからね。


 お酒代わりの冷えたミルクをとボアのタレ焼き串を両手に、の~んびりと遠回りをしながら拠点へ戻った。


ありがとうございました!

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