女神ビジュー 約束をする
閑話になります。
とばしていただいても、本編には影響ありません。
わたくしが神の一柱として生まれてから、およそ1億年の間。
神力の使い方や神界のルール、次元の管理の仕方や世界の創造の仕方を学ぶ為に、当時からいくつもの次元の管理をしていた高位神・グローブの元で修行をしていたの。
グローブは神々の中でも特に優秀で眷属神も多く、若くして高位に上がった一柱。
いくつもの次元を管理して、いくつもの世界を創造しているけど、破綻した次元や破滅した世界が少ないことでも群を抜いている。
本来であれば、まだ神としては若輩のわたくしが名を呼び捨てにするなど許されないのだけど、堅い物言いを嫌うグローブの強い希望、
「これから俺の一番側にいることになるおまえに、グローブ様なんて呼ばれるのは性に合わん。物言いもくだけたものでいい」
があり、互いのことを呼び捨てにしているの。
どうやってか、わたくしが生まれた瞬間にグローブが迎えに来てくれたので、わたくしが生まれて初めて目にしたものは、精悍な顔を優しく崩したグローブの笑顔だった。
そのせいか、わたくしにとってもグローブは、まるで父か兄の様に近しく感じる存在になったわ。
1億年間、彼の管理するいくつもの世界を巡り、他の神の世界を見学に行き、時には神々の茶会に連れて行かれ、彼に憧れる女神たちから逃げる為の盾にされながら、常に時間を共に過ごした。
だから、わたくしが独立して初めて創った愛しい世界、『ビジュー』へ割く時間が取り難くなってしまった時は、迷わずグローブに相談したの。
「時間さえあるならいつまでも見ていたいのに、新しく創った世界が安定しなくて、どうしてもビジューに割く時間が取れないの。どうしたらいい?」
と。
グローブ自身も、初めて創った地球には格別の思い入れがあるようだったから、何か参考になれば、と思ったの。
グローブは、『自分の代わりに目を置けばどうか』と提案してくれた。
「自分と相性の良い魂とリンクして地上に送り、その魂が経験したことを共有する形で世界を見るのも一興だろう」
と言ってくれたの。
私は早速、『ビジュー』で亡くなった魂と契約・リンクして転生をさせのだけど、何度試してみても上手くいかなかった。
転生してしばらくの間はリンクして世界を見られるのに、時間の経過と共にリンクが維持できなくなってしまう。がっかりしていたわたくしに、グローブは考察と共に1つの提案をしてくれた。
「『ビジュー』で生まれた魂は、『ビジュー』に馴染みすぎるのだろう。俺も地球の様子が気になるから、互いの世界の魂を交換してみないか?」
と。 優秀なグローブの考察は的を射ていたらしく、交換した魂はその生を終えるまで、わたくしに『ビジュー』を見せてくれた。
そんな魂の一位として、愛凜澄と出会ったの。
グローブは最近『日本』と言う地域がお気に入りらしく、愛凜澄の前の数位も日本から送られてきた魂だった。
元々、地球から送られてくる魂は柔軟で、死を理解するとビジューへの転生を拒むことは少なかったが、ここ最近の日本から送られてきている魂は、転生に対して積極的な魂が多かった。
愛凜澄も、弟の流威君が亡くなったことや、死因に対しては憤っていたが、自分が死んだことに対しては、驚くほどすんなりと受け入れていた。 だから転生に対しても簡単に納得をしてくれるものだと、わたくしは思い込んでいたの。
愛凜澄は転生先の『ビジュー』を怖れた。死が身近にありすぎると。ここしばらくの日本から送られてきていた魂は、『ビジュー』の話をすると、
「剣と魔法と魔物の世界、冒険へ出発だ!」
嬉々として転生をして行ってくれていたからわたくしは忘れていたの。
文明の発展した世界から、別の発展を遂げる世界へ行く事の不安を。
“長寿の国”と言われている日本から、死が身近な世界へ行く事の恐れを。
自分の愛する家族を地球において、独り、未知の世界に送られることの寂しさを。
でも、愛凜澄はその全てを飲み込んで、わたくしの為に、ビジューへ転生することを受け入れてくれたわ。
1年以内に亡くなる確率が高いだろうが、その間に楽しい世界をわたくしに見せてくれる為に、転生をする、と。
嬉しかった! 愛しかった! 地球から来てくれた魂を、愛しいと感じたのは初めてだった。
そんな愛凜澄が最後に私に願ったことを、私は叶えると約束をしたの。
ありがとうございました!
長くなってしまって話をぶった切ったので、明日に続きます。




