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試食会 6 おまけ

「アリスさんが秘匿にするほど貴重なレシピなのですか!?」

「ねえ、どうして? 楽しみにしていたのよ?」


 シャーベットを試食に出さないと言うと、ギルマスとサブマスに掴みかからんばかりに迫られた。目が血走っていて結構怖い。


「私が冷凍庫を所持していないから、登録したくないだけです」


「「はい?」」


「自分が食べたい時に作れないものを、他の人の為に登録してあげるほど親切にはなれません」


 我ながら心が狭いと思うけど、仕方ない。 


「私が冷凍庫を買った後か、氷魔法を手に入れた後なら登録するかもしれませんが、今はしません」


 いい感じに焼けた誘惑のトーストをインベントリにしまいながらきっぱりと言い切ると、


「そんな…。 とても珍しい上に美味しそうな新作なのに、味見も出来ないなんて……」


 サブマスターは調理台に手を突いてうなだれ、ギルマスは、


「では、この部屋の冷凍庫を1台差し上げましょう!」


 おバカなことを言い出した。









「右がレモンシャーベット、左がフローズンヨーグルトです。

 いいですね? 1匙ずつだけですがおかわりはありませんよ」


 ギルマスの「冷凍庫をプレゼント」発言にサブマスが嬉々として賛成していたのを丁重にお断りすると、今度は席にいた幹部たちが駆け寄ってきて、


「一口! せめて一口だけでも味見を!!」


 とうるさく迫るので、レシピ班と調理班を帰らせた後にシャーベットの試食をすることにした。


「ハクとライムもどうぞ!」


 2匹の分は少し多めにお皿に盛りつける。 贔屓? それが何か?


 皆さんのもの言いたげな視線は真っ向から跳ね返した。 


「早く食べないと溶けちゃいますよ?  いらないなら…」


 従魔たちにあげて欲しいと言おうとしたら、皆さん慌ててスプーンを口に運ぶ。


「これは…っ!」

「……!!」

「一瞬で溶けて無くなってしまった…」

「口の中に残るこのさわやかな甘さはなんだ!?」

「「「「おかわりっ!」」」」


 最初に“おかわりはなし”と言っておいたのに、揃ってお皿を突き出してくる。


「ありません」


「では、売ってください! いくらですか!? いくらでも支払いましょう!!」


「残りは私と従魔の分ですから売りません」


「なら、作ってください!」


 ラファエルさんが冷凍庫を指差しながら懇願するように言うが…、


「レシピを秘匿するので、もう人前では作りません」


 さすがに、ね。 少しは警戒心も表に出しておかないと流されそうだから、きっぱりとお断りする。


「そんな……。 私たちが信用できませんか!?」


 ラファエルさんがショックを受けたような顔をするけど、


「私はこれでも商人の端くれですよ。 何か間違ってますか?」


 と聞くと、「間違っていません」と呟くように言って席に戻って行った。 でも、ギルマスは諦められないようで、


「しゃーべっと、ですか? これをレシピ登録していただけるなら、ギルドから新品の冷凍庫をプレゼントします!」


 一度断った冷凍庫で私を説得しようとする。


「そうだな、この食品にはそれだけの価値がある!」


 幹部の誰かがギルマスに賛同の声を上げると、一斉に拍手が起こった。


 ギルマスが“話は決まった!”という顔で器を差し出すが、


「冷凍庫は受け取りませんよ? だからおかわりはなしです」


 と断ると、“信じられない!”という顔で私を凝視する。


「冷凍庫は、お金に余裕が出来たら自分で買いに行くと約束しているので受け取れないんです」


「どなたとのお約束です!?」


「とある魔道具職人さんとの約束です。 せっかくオーダーメイドで作ってもらうのなら、自分で行って細かい希望を伝えた方がいいでしょ?」


 これで話は終わり。 シャーベットは諦めてくれるだろうと判断して、使った食器にクリーンをかけようとすると、


「オーダーメイドというと……、 お嬢さん! もしや、開発者のオースティン氏とお知り合いですか!?」


 一見紳士なおじさま風の男がギルマスを押しのけて飛びかかるように私の肩を掴み、ガクガクと揺さぶった。


「シャーッ!」

「ジュッ!」

「ギャッ!! な、何をするんだ!」


 私が男の腕を払いのける前に、ハクとライムが助けてくれた。


 頬に引っかき傷をつけ、足にやけどを負った男は憎々しげに従魔を睨むが、


「今のはおまえが悪い。従魔たちの前で主にそんな乱暴な真似をしたら、攻撃されて当たり前だ」

「女の子相手に乱暴だわ。 その程度の軽い怪我で済ませてもらったことに感謝するべきよ」


 ギルマスとサブマスの2人に注意されて、冷静になった。


「あ、ああ。そうだな。俺が悪かった…。 お嬢さん、すまない。 少し興奮してしまったようだ。 

 君たちにもすまなかったね。 もう、不用意にご主人様に触れないから許して欲しい」


 後ろに下がり、恥ずかしそうに頭を下げてくれる。 ……悪い人ではないようだ。 2匹にも謝ってくれたので和解の印にヒールをかけてあげる。


「! ありがとう、お嬢さん。 ……それで、オースティン氏とはどういった?」


「知り合いって言えるほどじゃないんです。 たまたま一晩の野営地が一緒になっただけなので」


 悪い人ではないけど、あの興奮具合をみると「オースティンさんが留守の間、部屋を借りてました」とか言わない方がいいだろう。 軽く流すと、


「そうか。 すまなかったね」


 と席に戻っていった。 ギルマスも、


「口約束でも約束は約束だ。 商人は信用が第一……」


 と呟きながら席に戻っていったので、安心して従魔たちを褒め倒した。


 最近のスキンシップ不足を取り返す勢いで褒め倒し、もふり倒した♪


ありがとうございました!

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