表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/763

商業ギルドの不良在庫

 ギルマスから渡された“登録予定品リスト”には試食に出したものの2/3がリストアップされていた。


「アリスさんには負担をかけてしまいますが、自由に作ってもらって構いません。我々のレシピ班が全てを書き留めます!」


「こうしてリストを見るとオークの料理が多いですね…。 手持ちのオークが少なくなってきたのでオークとボアの調理法が同じもの、生姜焼きやカツなどのオークとボアの両方を出して味をみたものは、ボア肉だけで作ってもいいですか?」


 同じ調理方法でも肉で味が変わるのをわかってもらうために、オークとボアの両方を試食で出しているから大丈夫だろうと思いながら聞くと、


「それでかま」

「オーク肉がなくなったわけではないのなら、なくなるまではオーク肉で作るべきだろう!」


 ギルマスがしかけた返事に被せるように幹部の1人が怒ったように言った。


「オーク肉が無くなると、うちの仔たちが悲しむのでいやです」


「従魔の機嫌と登録で得る金のどっちが大切なんだ? 最高の材料で作るのが我々に対する礼儀だろう」


 男はふんぞり返って私を諭すように言うが、2匹の機嫌と登録で得るレシピ使用料。そんなのは比べるまでもない。


「じゃあ、オーク肉を使った料理の登録をやめ」

「ボア肉だけでかまいません!!」


 やめます。と言い切る前にギルマスが言葉を被せるように大声で言った。


 あまりの声の大きさにびっくりしている間に、他の人たちが“オーク肉で作れ”と言った人を部屋の隅に引きずって行き、周りを取り囲む。


「彼女は<冒険者>だと聞いただろう! 彼女が持っているオーク肉は彼女自身が倒したもので、若いがなかなか有望だと評判だぞ!」

「おまえの目は節穴なのか!? 彼女の服を見てみろ! おまえの目には彼女が多少の金で靡くように見えるのか!?」

「ギルマスが言っていただろう? 彼女は元々登録に積極的ではなかったと! おまえが相手にしている、金にしか興味のない治癒士ギルドのヤツ等と一緒にするな!」


 せっかく部屋の隅に連れて行ったのに、言っていることが私に丸聞こえなのはどうなんだろう。


 ギルマスを見ると、困ったように額に手をあてていた。


「彼をこの席に呼ぶのは早すぎたようです。申し訳ない」


「随分とお若い幹部の方ですね」


 私よりは年上らしいけど、なんて言うか、他の皆さんのようにどんな行動を取っていても(駄々こねをしていても)滲み出る“海千山千”の貫禄はなく、どちらかと言えば甘さを前面に感じる。


「正確に言うと、今日参加できなかった幹部の息子です」


「……七光り?」


「“教育の為に”預かっているのですが、どうにも親の光が強すぎたようで……」


「……それは羨ましいことですねぇ。 この場にいるという事はギルマスが彼を保証しているという事ですね?」


 最初の約束で、この部屋に入るのは全てギルマスが身元を保証している人だけのはずだ。


「ええ。彼は少し思い上がっている所がありますが、性根は悪くない。守秘義務はきちんと理解しています。 アリスさんのレシピを着服したり横流しをすることはありません」


 ギルマスが保証しているし、他の幹部たちも彼を放り出さずに“教育”しているようなので大丈夫だろう。彼のことは気にしないことにする。


 しばらく待つと“教育”も終わり、皆さんが席に戻ったので改めて、


「ではローストオーク、ハンバーグ、煮オーク、干し肉、オークカツ、生姜焼きは全てボア肉を使用するという事でいいですね?」


 と確認すると皆さんは笑顔で頷いたが、例の彼だけは「干し肉…」と呟いて少し顔色を悪くしている。

  

 ……顔色を変えるほど嫌いなら、無理して食べなくてもいいんだけど?


「不用意な発言が、どんなに重大なことになるかわかったか?」

「ギルマスに感謝しなさい」


 彼の両隣に座っている人たちが何かを言っているようだけど聞こえない。 でも、ハクが満足そうに頷いているから、私たちにとって悪い話ではなさそうだ。


「あと、私のレシピには<醤油>と言う他国の調味料を多く使っているので、再現が」

「<醤油>と言いましたかっ!?」


「……言いました。 ご存知でしたか?」


 ラファエルさんが尻尾をボンボンに膨らませてピンと立てながら駆け寄ってきた。


「本当に()()醤油ですか!?」


「多分…?」


 どの醤油かわからないので曖昧な返事しか出来なかったが、ラファエルさんには十分だったらしい。


「ギルマス! <醤油>の使用方法がわかりましたよ! これで()()()()が不良在庫にならなくてすみます!!」


「そうか! あの<醤油>がこんなにすばら」

「<お醤油>があるんですか!?」


 “あの”“不良在庫”と言うからにはここにあるに違いない。 ギルマスとラファエルさんの会話が終わるまで待てなくて、強引に割り込んだ。


「あるなら味見をさせてください!!」

「ええ、すぐに!!」


 試食会の最中だったにも関わらず、ラファエルさんは返事をすると部屋を飛び出して行った。


 ギルマスや皆さんが何かを聞きたそうにしていたけど、話はラファエルさんが醤油を持ってきてくれてからにする。


 醤油の味見の準備をすませて冷凍庫のシャーベットをインベントリに移していると、


「アリスさん! これです!」


 ラフェエルさんが息を切らして戻ってきて、アイテムボックスから私が両腕でやっと抱えられるくらいの大きさの樽を取り出した。


 樽を開け、小皿に少量とって香りを確認してから味をみる。


 間違いなく、醤油だ! 


 マルゴさんから貰った醤油と味を比べてみると、こちらの方が鮮度がいい。 なんとか売ってもらおう!


「アリスさん、これは大根ですよね?」


 私の様子をじっと見ていたギルマスが、醤油の味見用にテーブルに出していた小皿を指差して聞いた。


「ええ、大根を薄く切っただけのものです。 ギルマスも味を見ますか?」


 ギルマスとラファエルさんに大根の小皿を渡す。


「まずは大根をそのまま食べて大根の味を覚えてください。それから大根に少量の醤油をつけて醤油の味の確認をします。つけすぎると辛くなるから気をつけて」


 ギルマスたちが黙って味見をしている間に、サブマスターが事情を話してくれた。


 今ギルドにある醤油は抱き合わせ販売のものを買い取ったものだけど、味見をしてもただ辛いだけで不良在庫になっていたとのこと。売った商人でさえ使い方が分からなかったというからお粗末な話だ。


 ……マルゴさんはちゃんと料理に使えていたけどね。どこで覚えたのかな?


「しょっぱさの中に甘みがある…」

「深みのある辛さだ。 以前の味見では喉が焼けると思ったものだが……」


 2人が醤油の味を理解してくれたのが嬉しい! そのうちに(たまり)醤油が手に入るようになるかもしれないなぁ♪

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ