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試食会 3

「拠点や裁判所でわたしがいただいた料理が出てきませんでしたが……」


 セルヒオさんの一言で、皆さんの視線が私に集まった。


「まだ、斬新で美味しいものを隠しているのか!?」

「登録をするのが惜しいほどの何かを隠しているのか?」


 目を見開いて詰め寄ってくるので、誤解が生まれる前に急いで説明する。


「残っているのは、すでに流通しているものとか誰でも思いつくようなものばかりですよ! 

 そもそも、皆さんはまだ食べられるのですか? 結構な品数をお出ししましたよ!?」


 もう、お腹はいっぱいだろうと思って言ったのに、サブマスの女性があっさりと否定した。


「品数は多かったけど、一口分とか一切れずつだったじゃない? まだまだ食べられるわ! 1人1皿でもいいくらいよ!」


「ふふっ、ギルマスが破産しちゃいますね」


「どういう事だ?」


 ラファエルさんが試食は有料だと知っていたからてっきり皆さんも知っていると思っていたが、知らない人もいたらしい。  


 まずいことを言ったかな?とギルマスに視線を投げると、


「アリスさんに登録の意思はなかったと言っただろう? 最初は断られたんだよ。 

 この試食会を開いてもらう為にわたしがつけた条件の一つが、1皿につき1万メレの支払いだ」


「我々がクリーン魔法を買うことと鑑定を受けることも条件の1つだったな。他にもあるのか?」


 幹部の1人に聞かれて、ギルマスは鷹揚に頷いてから説明を始めた。


「レシピの作成もギルドが請け負った。

 流れとしては、試食したものの中から我々が登録できそうだと判断した物をこれから作ってもらって、レシピの作成と先ほど出された物とこれから作るものが同じ味であるかを確認する為の試食をする。

 類似レシピの登録がないことの確認が取れたら、こちらでレシピ通りに作ったものをアリスさんに試食してもらって、アリスさんの許可が出たものだけを登録する流れだ。 

 我々の働き次第で登録までの日数の大幅な短縮ができる」


「ギルマス! 英断だ!! よくやった!!」


「だろう?」


「ああ、さすがはギルマスだ。 これらのレシピは1日でも早く流通させなくてはならん。大仕事になるぞ!」


 幹部の人たちから拍手を送られて、サンダリオギルマスが得意そうに胸を張っている。


 ……“物は言いよう”だな。  ただ私が面倒がっただけなのに、“時間短縮の為の必要な措置”に聞こえる。 


 お陰でここにいる人たちに悪い印象を持たれなくてすんだから、ギルマスには感謝だ。


「提案があるわ」


 拍手を送りながら何かを考えるそぶりを見せていたサブマスターが勢いよく立ち上がった。


「こちらのお嬢さんのお料理の試食をすることは、ギルドにとって必要なことよ。 今回はギルドの経費として支払いましょう。

 だから是非! 2万メレで1種類2皿を出してもらいましょう!」


 サブマスターが高らかに言い放ち優雅に椅子に座ると、また一斉に拍手が起こる。


「賛成だ! 一口では驚きが勝ってしまってゆっくりと味わうことが出来なかった。 本当は1人1皿と言いたいが、この後のことを考えると腹をいっぱいにするわけにはいかんからな。 全員で2皿がいいだろう」

「わしも賛成だ! もっと味わいたいぞ!」


 全員がにこにこと拍手をしている。


 ……流れのまま、2皿提供することに決まりそうだな。 元々多めに作る予定だったし、きちんとお金を支払ってくれるみたいだから別にいいけど。


「それで、お嬢さん。 セルヒオが食べたというメニューはいつ出してもらえるのかしら?」


 1人納得していると、サブマスターが朗らかに笑いながら私を見た。


「え? これから作る料理じゃなくて、他の料理を出すの?」


 びっくりして確認すると、全員がこっくりと大きく頷いた。  


「もう、出回っているようなものや、どこかでありそうなものしかないですよ?」


 と言っても納得する気配はない。


 ギルマスが、


「今日の昼に衛兵の詰め所に差し入れをしたクッキー。1種類は明らかに新作でしたね」


 と言うと、


「何!? 新作が詰め所にあるのか! よし、わしが奪ってきてやろう!」


 年配の男性幹部が立ち上がった。  鍛冶ギルドとの折衝が担当らしく、兵の上層に顔が利くらしい。


 お礼に渡したものを奪われるのはちょっとイヤかも…。


 ギルマスはお皿を両手に1枚ずつ持って私に差し出しているし、セルヒオさんは“チラッ、チラッ”と私を見るだけで、本当に奪いに行きそうな勢いの男性幹部を止めようともしない。


 仕方がないので、“お腹がいっぱいになってしまって登録用の料理の試食が出来なくなっても私は関与しない”ことを条件に、インベントリを開いた。










「これは登録するべきだろう!」

「これも美味いなぁ」

「どうしてこれを隠していたんだ!?」


 別に隠していたわけじゃないから、私を睨むのは止めて欲しい。


 お皿が空になる度に「次は?」「次を」と催促されて、おむすびから芋粥まで、ストックしていたものはおおかた出し終わった。


 見ていただけの私がお腹いっぱいになりそうだ。


「ああ、美味かった!」

「今日の日を女神に感謝します!」


 試食という名の“ギルド幹部の審査”だったからもっとピリ付いた雰囲気になるかと思っていたけど、和気あいあいとした雰囲気で、試食会後半の私の気分は“学生食堂のおばちゃん”だった。


「余韻に浸るのはこの辺でしまいにして、そろそろ審査を始めよう」


 ゆっくりとお腹をさすりながらギルマスが言えば、


「もう、全部登録候補でいいんじゃないか?」


 とセルヒオさんの上司が答え、


「そうよ! そうすれば、全種類をもう一度食べることができるんだわ!」


 とサブマスターが手を叩いて賛成し、


「おお、そうか! 審査を通した料理は今から作ってくれるんだったな! わしはてりやきハーピーを1人で1皿食いたいのぉ」

「俺はオークそぼろのちゃーはんが気に入ったぞ!」

「私はオークかつを1枚切らずにそのままいただきたいですな!」


 皆さんが自分の気に入ったものをたくさん食べたいと主張し始めた。


 本当に、まだ食べるつもりなのかな……?


ありがとうございました!

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