真摯な態度は誰かのために
「初級ポーションの効果は初級以上中級未満。
解毒薬はDランク以下の魔物や植物の毒を解毒。
増血薬は頑張らなくても飲み干せる程度の味になっているようです。
植物活性薬については効果があるとしかわかりません」
簡単に説明をすると、サンダリオギルマスのキラキラ(ギラギラ?)していた目がまん丸くなって、口をうっすらと開いたまま動かなくなってしまった。
モレーノ裁判官はゆったりと微笑んだまま何も言ってくれないし、護衛組もギルマスと似たような感じで動かない。
(ふふん! アリスはなかなかなのにゃ♪)
(ぼくたちのありすはすごい!)
……何も言ってもらえなくて手持ち無沙汰な私を不憫に思ったのか、従魔たちが私を褒めてくれる。
なんだろう、この言葉にし辛い感情は。 小さい子供に気を使わせてしまった不出来な大人の気分? 凄いのは能力をくれたビジューなんだけどね。
埋め合わせのつもりで生キャラメルを追加してあげると、2匹は大はしゃぎでお皿の前に陣取った。
おかわり欲しさのお世辞だったんだろうけど、嬉しいからボアの干し肉もおまけだよ~!
楽しそうにじゃれあいながら、甘い生キャラメルと濃い味の干し肉を交互に食べている2匹を眺めていると、
「初級以上の効果とはどういうことですか!? アリスさんの腕がいいだけですか? それとも何か新しいレシピを開発したのですか!? 解毒薬は1本で魔物と植物の毒を両方解毒できるんですか!? 増血薬の味が飲み干せるようになっているようだとはどういうことですか? どうやって確認を!?」
ギルマスの怒涛の質問が始まった。
「基本は水や素材に【クリーン魔法】を使用することです。
初級ポーションは、普通の初級ポーションと私の初級ポーションとの比較実験をまだしていない状態ですが、鑑定で初級以上中級未満とわかりました。
解毒薬も同じです。 鑑定では“Dクラス以下の魔物と植物の毒に効果”とあったけど、使ったことはありません。
増血薬は飲み干した2人の患者が周囲に味覚障害を疑われていたので、普通に飲める味になっていると判断しました。 2人の患者に味覚障害がないことは私が確認済みです」
「……なんと!」
一言呟いたきり黙り込んでしまったギルマスに代わるように、今度は護衛組が騒ぎ出した。
「それはもう売りに出しているのか!? 増血薬を10本と解毒薬を5本くれ!」
「俺は増血薬と解毒薬を5本ずつ欲しい!」
「あたしは増血薬を5本と解毒薬を3本!」
「わたしは増血薬を2本と解毒薬を3本、初級ポーションを20本頼む!」
自分よりも大きな4人が「売ってくれ!」と迫ってくるのはなかなかの迫力で、お正月の初売りお楽しみ袋の売り子さんの気分がわかった気がする。
「待って! 私のポーションは初級だし解毒薬は低ランク向けのものだから上位ランクのみんなには必要ないでしょ?
それに検証作業をしてないから、まだ売り物にはならないよ!」
迫力に呑まれないように叫ぶように答えると、「検証を手伝うから、せめて増血薬だけでも売って欲しい」とすがるように迫られて、従来の増血薬の不味さが何となく想像できた。
命が掛かっているとはいえ、そこまで不味い薬を頑張って飲んでいる冒険者たちが不憫に思え、売れないけど譲るのはありかな?と考え始めると、
「検証作業は、我が<商業ギルド・ジャスパー支部>が総力をあげてお手伝いします!!」
護衛組の4人を1人で蹴散らす勢いで、サンダリオギルマスが叫ぶように言った。
「アリスさんのことですから、そのような状態では情報も薬もまだ登録してはいないでしょう?
私の指揮の下、ギルドの総力をあげてアリスさんが納得するまで検証を行いますので、是非! 是非!! 我が<ジャスパー支部>でご登録ください!
この情報を世に広める名誉ある仕事を是非我々の手で!!」
料理のレシピ登録の話をしていた時はまだ“わくわく”といった感情が伝わってきていたけど、今はそれ以上に使命感のようなものを感じる。
マルゴさんのアドバイスもあって、薬に関しては商業ギルドで登録するつもりだったからサンダリオギルマスに任せてもいいんだけど……。
「私が検証をするならただですが、ギルドを動かすには手数料が」
「いただきません!」
「商人たちの手本となるギルマスがただ働きをすると?」
「商人だからこその先行投資です!」
「登録した後の情報使用料の取り分の調整で取り返すという事ですか?」
「いいえ! 今回の検証の手伝いは我がギルドの使命です。 アリスさんへの不利益は決してないとお約束します!
我々が行うただ働きの先にあるのは世の中に役立つ情報を広めたという栄誉。 手に入るものは“信頼”、その先にあるギルドの発展です!」
私の質問の一つ一つに真摯に答えるギルマスの言うことを信じるなら私に不利なことはなさそうだけど、自分の作ったものの検証を人任せにするのは抵抗があるので迷っていると、
「商業ギルドに任せた方が後々がスムーズに進むな。
アリス、頼む! ギルドに検証を任せて、1日も早く登録・販売をしてくれ!」
アルバロを筆頭に、護衛組に深く頭を下げられた。
「正直なところ、増血薬は味覚が狂いそうなほどに不味いんだ! 俺たちがアリスの増血薬を飲みたいってのも大きな理由だが、それだけじゃなくて、新人冒険者の為でもある。
新人は増血薬の必要性がわかっていないヤツが多くて、怪我をしても“高い上に不味い”って理由でポーションだけで手当てを済ませて途中で倒れるバカが後を絶たない。
貧血を起こすのは当然、激しい戦闘中が多い。 戦闘中に動きが鈍ったり倒れたりしたら、簡単に命を落としちまう。
冒険者を代表して頼む! 1日も早く登録と販売を開始してくれ!!」
「「「「お願いします!!」」」」
護衛組が増血薬を欲しがるのは自分たちの為だと思っていたら、新人や冒険者みんなの為だった。
ギルマスの理由も共感を持てるものだったし、護衛組の手伝いをしたくなったので、
「わかりました。 ギルマスにお任せしますので、段取りをお願いします」
了承し、軽く頭を下げると大きな歓声が上がる。
“世の中の為”“誰かの為”という姿勢は私も見習わないといけないなぁ。
ありがとうございました!




