お手伝い・・・?
「…という訳で、店主はカモを探していただけで背後に黒幕は存在しないと判断しました。
罰として、禁錮3日・罰金5万メレの他、商業ギルドを除名処分となりましたので、この町では2度と商売ができません。 いかがでしょうか?」
ベテラン衛兵さんは私を見ながら伺いを立てるように聞くが、なぜ私に聞くのかわからない。
「今回の被害者はお嬢さんなので、罰の軽さに納得できないなら審議にかけることが可能です」
「……十分かと思われますが」
禁錮・罰金はともかく、この町で2度と商売を出来ないのは露天商にとっては十分に重い罰だと思う。
「では、これを」
私の答えを聞いてベテラン衛兵さんはほっとした顔になると、小さな皮袋を差し出した。
「罰金の5万メレです」
「どうして私に? そういったものは国に収めるものでしょう?」
不思議に思い聞いてみると、ベテランさんも不思議そうな顔をしながら説明してくれる。
「お嬢さんの国ではそうなのですか?
この国では罰金は被害者や領主に渡ります。 今回はお嬢さんが被害にあった上に逮捕に貢献したのですから、安心して受け取ってください」
とのことだった。 とりあえず受け取ると、皮袋がもう1つ取り出される。
「こちらは一昨日の襲撃者に掛かっていた賞金です。 1人は無名でしたが、もう1人の方に“生死問わず”で20万メレがかけられていました。 どうぞ」
これは確かハクが受け取ることになっていたはずなので、「代表です」という顔で私が受け取った。
(おいしいものをいっぱい食べたいにゃ~)
(了解!)
受け取った20万メレをインベントリにしまうと衛兵さん達は安心したように立ち上がり、とても丁寧に食事の礼を言って帰っていった。
帰り際に、レシピの販売を楽しみにしていると満面の笑顔で告げられたけど、それは商業ギルドに言って欲しいな~。
「野菜がごちそうになってるぞ! 凄いな!」
「これはいつ食えるんだ!? 明日の昼? 楽しみだな~」
「おっと、油がハネた!」
「ヒール!」
「あま~い♪ こんなふうに美味しいものは出来るのね!」
護衛組がお手伝いを喜んだ理由がわかった。 つまみ食い…じゃなくて、味見をするのが楽しみだったんだ。
役に立ってくれてるから味見くらい別にいいんだけど、晩ごはんをあんなに食べた後なのにどこに入るのかが不思議で仕方がない。 うちの従魔たちだけじゃなく、護衛組のお腹も十分に不思議空間だった。
新スキルの【レシピ作成】は思った以上に使い勝手が良くて、油1つとっても、作りたい料理に向いている油が何となくわかるようになった。
私の経験と違う選択が出た時に試してみると、スキルに従って作った方がおいしいのでショックを受けたりもしたけど、“おいしい”は正義だから仕方がない。素直にスキルに従うことにした。
「なあ、これは全部、明日の試食会の為のものか?」
「違うよ。 ついでに私たちのごはんも作ってるんだけどダメだった?」
「ダメじゃない!! そうか、あれもこれもわたし達も食べられるのか。 楽しみだな!」
気が向くままに色々と作っていると、護衛組がまだ食べたことのないものに気を取られるようになったので、ちゃんとごはんに出してあげると約束をすると歓声が上がった。
「野菜の切り方に呼び方があるなんて知らなかったぞ。 アリスの故郷はおもしろい所だな」
たま~に、スルーして欲しい所に引っ掛かって返事に困ることも聞かれるけど、みんなでわいわいと作るのはとっても楽しい。みんなも料理をおもしろいと思い始めたようで、それぞれがコツや加減を色々と質問をしてくるようになった。
(次の味見は何かにゃ?)
(いっぱいたべる~!)
2匹が喜ぶのが嬉しいから!というのも理由の1つみたいだけどね!
失敗してもライムが食べてくれるし、上手に作れたら2匹揃って味見にきて可愛い催促の鳴き声を上げるから、隣の部屋で待機の順番になると「早く代われ!」とせっつく声が聞こえてくる。 時間じゃなく1品出来上がるごとに交代っていうのは意外と効率が良いのかもしれないな。
「アリス! そろそろ開けてもいいか?」
イザックに呼ばれてオーブンの側へ行くと、甘い香りが漂っていた。
オーブンを開けて鑑定してみると、ちゃんと焼けていることが確認できる。
「うん。いいみたい」
「よし!! クッキーが焼けたぞーっ!」
「1人2枚まで!!」
昨日、マルタが「焼き立てのクッキーが美味しかった」と言ったのを聞いた男性陣は、次は自分が手伝って焼き立てを味わうんだ!と決めていたらしい。
クッキーを焼くときのお手伝い権の争奪戦が白熱しかけていたので、全員に味見をさせる約束をしてしまった。 1種類につき1人2枚だけど、不平は出なかったので安心して次の生地を焼き始める。
「紅茶の葉を入れるなんて思ってもみなかった。 もう一度焼いてもいい?」
「うん。いっぱい必要だからどんどん焼いて!」
「だったら、バターがいっぱい入っていたのも焼いてくれ!」
気にいると自主的に次を焼こうとしてくれるから大助かりだ。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまい、まだ作りたいものはいっぱいあるのに、そろそろ寝た方がいい時間になってしまった。
「私も夜番に参加しようかな」
楽しかった時間が終わるのが惜しくて提案すると、従魔と護衛組全員に反対された。
(アリスの分は僕が頑張るから、アリスはちゃんと休むにゃ!!)
「アリスは護衛対象ってこともあるが、そうじゃなくてもハクとライムが夜番に参加しているんだからアリスの夜番は免除だ。俺たちに任せて安心して寝ろ!」
と言われ、ありがたい反面ちょっとだけ寂しい気分になっていると、ハクとライムが“好きなようにもふっていいよ”とすり寄ってきたので遠慮なくもふり倒すことにする。
無心にふわふわ・ぷにぷに触感を味わっているとすこしずつ目蓋が重くなってきて、頬に優しい感触を感じるのと同時に意識がなくなった。
「おまえたちは本当に優秀だな。子守りまでできるのか」
「にゃおん!」
「ぷっきゅ~!」
と言う声が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。
ありがとうございました!




