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見ないフリも大事です

 ティト裁判官は入室した私を見るなり目を輝かせ、手を取って椅子までエスコート……しようとしたらしいが、マルタに阻まれた。


「アリスは15時30分にはここを出て行くから、今日は時間がないわよ?」


「…ウーゴ隊長! 1人目を入室させてください」


 初めは不愉快そうな視線をマルタに向けていたティト裁判官だったが、時間がないとわかるとすぐさま感情を切り替えて盗賊を呼び込むあたり、モレーノ裁判官に仕事を任されるほどには優秀なことが納得できる。


 取り調べの内容はほぼ昨日のモレーノ裁判官と同じだったが一人一人にかける時間は長く、今日は4人だけで立会い終了の時間になった。


 治療のすんだ4人目が連行されて行くと、ティト裁判官はすぐさま斜め後ろに座っていた私を振り返り「奇跡の力」「慈悲深い」と褒め称えてくれるが、私はただ盗賊たちとの約束を守っただけなのでとても居心地が悪く、


「アリスさま、お疲れさまでございました。 玄関までお送りいたします」


 ドアを開けて退室を促してくれたウーゴ隊長がとても頼もしく見えた。


 ティト裁判官が見送ると言っても「自分の職務」だと言って跳ね除けて、ティト裁判官のキラキラした視線と過分な褒め言葉を遮ってくれたことには感謝しかない。 道すがらに感謝の気持ちの瓶入りクッキーを渡すと「職務ですから」と言いながらも嬉しそうに受け取ってくれたので、融通の利かない堅物というわけでもなさそうだ。 今後も頼りにさせてもらおう♪


 受付で今日のアルバイト代の12万メレを受け取って受領のサインをするまでを見届けてからウーゴ隊長は戻って行ったが、その際に柱の陰からこちらを見ていたティト裁判官もちゃんと回収して行ってくれたので、私は何も気が付かない・見なかったことにした。 イザックが舌打ちしていたのも聞こえなかったことにする。










 のんびりと町を抜けて裏門に着くと、この町に着いた時に表門にいた門番さんが立っていた。


「よお!」

「おう!」


 門番さんとエミルは知り合いだったらしく、気軽に挨拶を交わしている。


「もう暗くなるぞ。 急ぎの依頼なのか?」


 門番さんは護衛組を見ながら心配そうに言ったが、私を見て首をかしげた。


「ちょっと散歩に出るだけだから心配はいらんぞ」


「そうか。 気をつけて行けよ」


 私からすればつっこみどころが満載のエミルの説明も、門番さんはさらっと流した。 不思議に思ったのが顔に出ていたのか「冒険者が行き先を秘匿するのは珍しくない」とアルバロが教えてくれる。


「お嬢さんは冒険者登録がすんだのかい? ちゃんと通行税を返してもらったか?」


 アルバロの説明が済むと、今度は門番さんが私に向かって優しく聞いてくれた。

 

 事情があって先に商業ギルドで登録をしたことを伝えると、少し驚きながらも安心したように笑っている。 その反応に何か引っ掛かりを感じていると、エミルが門番さんに何かを耳打ちし始めた。


「?  ……!?」


 声は聞こえなくても、門番さんの驚きの顔とハクと護衛組の笑っている顔を見ると何を言っているかの推測はつく。


 これでも成人してま~す。 大人ですよ~?


 ちょっとだけやさぐれた気分になりながら、みんなを置いてさっさと門をくぐった。












「ねえちゃん! 今日は早かったんだな!」


 牧場に着くと昨日顔を合わせた冒険者たちがいて、「オーナーから坊ちゃんの所へ案内するように言われている」とミルク搾り中のフェルナン君のところへ案内してくれた。


 大きなアウドムラの中でも一際大きい個体の足元にいるフェルナン君の小さな体は、油断していると踏み潰されそうでハラハラするが、本人は何の心配もなさそうに機嫌よくミルクを搾っていた。


「こいつがうちで一番美味いミルクを出すんだ! 一昨日氷を食わせてやったから今日のミルクは最高だぞ!」


 と、得意そうに笑うフェルナン君はとっても頼もしい!


「お嬢ちゃん、準備が出来たわよ」


 美味しいことが確定しているミルクを使って何を作るか考えながら待っていると、ここで雇われている冒険者が声を掛けにきた。


「準備?」


「今日はこいつらに氷を食わせる日じゃないから、ねえちゃんが欲しいなら氷を分けてやる。 今日もいっぱい買ってくれるからサービスだ! どうする?」


「欲しい!! すっごく嬉しい♪」


「だろ?」


 喜びいっぱいで返事をした私に、フェルナン君は得意げにニカッと笑った。  優秀な跡取りで牧場の未来も明るいね!





 案内された先には、昨日【アイスボール】を出してくれた冒険者が待っていた。


「今なら【アイスアロー】も撃てるぞ。 どっちがいい?」


「昨日のリベンジだな? アイスアローを撃ちたいんだろ?」


 冒険者の顔にはわかりやすくアイスアローを撃ちたい!と書いてあったので、イザックにからかわれている。


「燃費のいい方で。 攻撃威力よりも、後に残る氷の量が大事」


 と答えると、冒険者はあからさまにがっかりして「アイスボールだ」と呟いた。


 買ったばかりの帆布と自分にクリーンをかけて、ハクに【魔法衝撃吸収壁】を頼んだら準備完了!


「いつでもどうぞーっ」


「いくぜっ!!」


 手を振ると好戦的な掛け声の後に昨日より少しだけ大きなアイスボールが飛んで来て、昨日と同じように“ボトッ”っと帆布の上に落ちる。 


 使い易いように砕けたのも欲しいなぁ。


 ハクに相談すると普通の魔法防御壁にすればいいという事なので、4発を魔法衝撃吸収壁で、3発を魔法防御壁で受け止めた。


 冒険者は砕けた氷を見て喜びの表情を浮かべたが、砕け具合に喜ぶ私と従魔たちを見てまたがっかりと肩を落として護衛組に慰められていた。 


 何にがっかりしたのかはわからなかったけど、お使いから戻ってきたマルタに何かを言われて嬉しそうに笑っているから大したことじゃなかったんだろう。


ありがとうございました!

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