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レシピ登録の誘い 3

「私はある貴族家に代々仕える執事長の息子として生まれました。 父の跡を継ぎ執事になるつもりでしたが、17の歳に御用商人の娘に一目惚れをして、家族と主家を説得し商売の道に入りました。 

 そこから商いを学び主家で培った“物の良し悪しを見る目”を武器に小さな商会を立ち上げ、商機を決して逃さずに大商会へと育てあげ、今ではこの町の商業ギルドのギルドマスターになった男です。

 私の見る目に間違いはない!!  

 アリスさんのレシピは必ず金を生み、ギルドを発展させるものです!!!」


 サンダリオギルマスは立ち上がり、胸を張って強く言い切った。


「なあ、そこは“ギルドの発展”じゃなくて、“アリスの利益”を強調する所じゃねぇのか?」


 アルバロの当然の疑問にも、迷いのない目で答える。


「君はそんなものでこちらのお嬢さまの心が動くと思っているのかね?」


「…動かねぇな」


 いや、動くけど? また何か誤解されてるみたいだ……。 でも、ギルマスが“あなたの為・あなたの利益”と言わないで“必ず自分たちの利益になる”と言い切ったことは、とても好感が持てた。


(登録するにゃ?)


(ふふっ、ハクは鋭いね~♪)


 さすがに保護者は私のことをよく見ている。 心が動いたことはバレバレだ。


(いっしょにおふろにはいれる?)


(入りたいね~!)


 一通り従魔たちと笑い合いギルマスに返事をする為に顔を上げると、満足そうな顔の裁判官と目が合った。


 ………?


「サンダリオ。 君はこれだけのレシピを所有している人間が、手柄を焦った愚かな男の為に命を散らす所だったと聞いたらどう思う?」


「!! …許せませんな。 商業ギルドのマスターとしてもですが、腕を生やしてもらって生き生きとしている男の友としても許せるものではありません。 私の商会からその男の領地の商会に回状を回してやりましょうかね」


 ギルマスは“愚かな男”が誰であるかわかっているらしい。いつの間に情報を集めていたんだろう…。


 裁判官はギルマスの返事に満足そうに頷くと、


「では、君もその男との話し合いに同席しなさい。 ()()()()()()()()()()()()()()()()を守るのもマスターの仕事でしょう。 愚かな男には自分の行いを理解させて、きっちりと責任を取らせますよ」


 ソラル子爵へ慰謝料請求を行う場へ、ギルマスを招待してしまった。 


 ……まだ返事をしていないのに、レシピを登録する方向で話が進んでるのはどうしてかなぁ? 間違っていないけど。


 裁判官の言葉を否定しないことが、ギルマスへの返事になったようで、


「ええ、もちろん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を守るのはギルドマスターの()()ですから。 是非、同席させていただきましょう!」


 ギルマスは満面の笑顔で宣言した。










 その後は護衛組(マネージャー)とギルマスの間で話がまとまり、


 ・審査は明日の午後、護衛組が冒険者ギルドでステータス・スキルの水晶のオークションに参加している時間

 ・審査会場内に出入りする人間はギルマスが身元保証した上で、全員私の鑑定を受けること

 ・審査員は私に1,000メレを支払ってクリーン魔法をかけてもらうこと。

 ・食材は私の持ち込みだけど、調理道具はギルドが用意しておくこと。(私は自分の道具を使ってもいい)

 ・料理の代金は当日中に支払うこと



 が決められた。


 私はその間に“欲しいものリスト”を作成してギルマスに渡しただけだ。


「明日の審査に必要なものが、“水・パン・乳鉢・深皿・皿・小さ目のカップ・取り皿・各種カトラリー”で、アリスさんが欲しいものが“紙と漏斗”ですか…。

 食材などは必要ありませんか?」


「食材は自分で見て選びたいからいらないわ。

 水はクリーンの検証を兼ねるから少し多めに。パンは普通の丸パン50個ほどを私の買い取りで。深皿と皿は審査員へ料理を出すときに使うから少し大きめのものを。カップ、取り皿、カトラリーは審査員の人数分用意してね」


「わかりました」


「ギルマス? 私、平民なの」


「ええ。ちゃんと平民の言葉を使えていますよ」


「じゃなくて! 私がギルマスにこんな口調で話してるのに、ギルマスが登録したばかりのギルド員にそんな口調なのはおかしいと思うのだけど?」


 護衛組と私への態度に差があったので、“平民”アピールをするために口調を変えてみたけどギルマスは、


「私はアリスさんが貴族だろうと平民だろうと、あなたへの接し方を変えませんよ。 “この人はこんなもの”だと思って慣れてくださいね」


 と言って譲ってくれなかった。 

 

「わかりました…。 紙は見本を数種類ください。買うのは1種類につき100枚程度です」


 仕方がないので諦めると、ギルマスは何もなかったかのように笑って頷いた。










 明日のお昼に裁判所まで迎えに来る…というか、お昼ごはんを食べに来ると約束をして、ギルマスはセルヒオさんと一緒に商業ギルドへ戻って行った。


 モレーノ裁判官は明日の試食会に向けて今日は準備をしてはどうかと提案してくれたが、夕方にはアウドムラの牧場に行く予定もあることだし、準備は今夜と明日の午前中にすることにする。


「では、今日はティト裁判官の取り調べの立ち会いをお願いします」


 大きな怪我をしていた幹部クラスは昨日の取り調べで終わっているので、今日はモレーノ裁判官がほとんど怪我をしなかった幹部の取調べを、残りの怪我をしている団員の取調べをティト裁判官が行うらしい。


 ……ティト裁判官かぁ。 私のことを<聖女>とか言って目をキラキラさせていた人だよね。


 ちょっと躊躇したのがわかったのか、裁判官は、


「今日は護衛が4人揃っていますからね。 彼の言動がおかしくなりそうなら彼らが何とかするでしょう」


 と護衛組に向かって微笑みかけた。


「ああ、あの裁判官ね…。 大丈夫よ、私でも押さえ込めるわ」

「今日の立会いは15時30分までで7人、出来たら6人くらいで止めておこう」


 護衛組もちゃんとティト裁判官を覚えていて対策を考えてくれるし、


「こちら側の護衛責任者のウーゴ隊長にも良く言い含めてありますので」


 モレーノ裁判官もその辺りのコトはきちんと考えてくれていたようだから、安心して大丈夫だろう。


 受付でモレーノ裁判官と別れてティト裁判官の準備が整うのを待つ間に、受付の人に植物活性薬を渡すととても喜んでくれた。 受付さんは出勤してすぐに裏庭でストレッチすることを習慣にしているらしく、やっぱり芝生の傷みが気になっていたらしい。


 植物活性薬、作った甲斐があったなぁ♪


ありがとうございました!

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