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新たな疑惑の発生と確定

 この世界で日本人顔が受け入れられるかは不安だけど、上手に成長すれば将来、ビジューの芸術的に美しい肢体が手に入るかも!と想像するだけでも楽しい。


 水から上がり、湿ったままのインナーを身に着ける。


「ハク、様子はどう?」


 魔力感知では危険はなさそうだが、“保護者”のハクに確認する。


「大丈夫にゃ。でも、早く木苺を採るにゃ! いっぱい食べるのにゃ!」


 ハクは木苺が随分と気に入ったらしい。


「今、食べたいの?」


 と聞くと、


「ライムと一緒でいいにゃ」


 おりこうな返事が返ってきたので、ライムと同じ数だけ摘んで渡してやる。


「ありがとにゃん!」


 嬉しそうに噛り付いたハクの口はやっぱり周りが赤く染まり、『生肉をむさぼってやったぜっ!』と言った風情になっている。


「ハク、顔を洗ってあげるからおいで」


 声を掛けると、ハクは舌なめずりをし、


「これで大丈夫にゃ♪ 早く木苺を採るにゃ!」


 得意げに笑いながら催促してきた。 でも、赤い果汁はそんなに簡単には取れない。


「水面を覗いてごらん」


「先に木苺をとるにゃ…」


 顔を見てくるように言うと、ぶつぶつ言いながら水辺に寄って行った。


 …ハク、『守銭奴疑惑』に続き『食いしん坊疑惑』が発生です。






 ハクは白い毛皮が赤く染まっているのを見て、そのまま湖に飛び込んでしまった。 気持ち良さそうに泳いでいる。


 空を見上げると陽が傾いてきているので、急いでドレスアーマーを身に着けながらライムを従魔部屋から出す。


「ハク、ライム。今夜の予定なんだけど」


 木苺を摘みながら声を掛けると、


「どうするにゃ?」


 ハクが水から上がってきた。白い毛皮はちゃんと綺麗になって、可愛いハクに戻っている。


「ここは野宿に向くかなぁ?」


「アリスはどう思うにゃ?」


 意見を聞きたかったのに、甘やかさない保護者に質問返しをされてしまった。


「ここは水の調達に便利だし、(ひら)けた場所だから野宿に向いてるかな?って思う。  

 でも、水辺は動物や魔物も水を飲みに来るだろうし、ここで解体や調理をして血の臭いをさせたら魔物や大きな動物とかを呼んでしまって危険かな?とも思うし……。

 ちょっと判断が付かない」


 野宿初心者としては、指針が欲しい。


「アリスの言う通り、水辺は動物や魔物が水を飲みにくるから安全ではないにゃ。でも、この辺りならそんなに強い動物も魔物もいないし、肉の解体で出る血や内臓も、ライムに吸収してもらえば臭いも長くは残らないにゃ。

 今日はここで野宿をして、寝るときは木の側に寄って寝るにゃ」


 ハクが言い、ライムも肯定するようにぷるんぷるんと震えた。


「わかった。肉を焼く為に火を起こすにしても、水の側の方が安全だもんね………」


 そこまで考えてやっと気がつく。


「火がないっ!!」


「にゃっ!?」


 急に大声を出した私に、ハクがびっくりして()け反る。


「枯れ木は移動しながら拾っていたから、それなりの量がインベントリにあるけど、肝心の、火を起こす道具が何もないの……」


 残念だけど仕方がない。


「幸い暖かい時期のようだから焚き火は諦めて、今夜はりんごと木苺と水がごはんだね」


 そう言うと、ライムは特に反応しなかったのだが、ハクは、


「ボア! ボアを食べたいのにゃ!」


 私に食いつく勢いで訴えてきた。


「火を熾す道具もないし、火を出す魔法も持ってない。 使えそうなスキルもないから無理だよ。

 ボアはインベントリに入れておいたら傷まないから、今夜は諦めよう?」 


 今はどうしようもないと説明すると、ハクはしばらく考え込んで、


「僕が火を出すにゃ!」


 と言った。


「ハク、魔法を使えるの!?」


 聞いてないよ?


「使えるにゃ」


「戦闘でも使ってなかったよね?」


 あの、面倒なバンパイアバットの時に使える魔法は無かったのかな? ハクが危険かもって心配したんだけど。


「最初から僕が魔法を使って、アリスに楽を覚えさせるのはダメだと判断したのにゃ」


 ああ、“保護者”モードね。 で、今は教育より自分の食欲を優先させた、と。


「ハク、教育方針はコロコロ変えちゃいけないよ。今日は水とりんごだけで我慢しようね?」


 私も焼いたお肉は食べたい。食べたいけど、なんだか面白くない。 頭で理解していても、納得できないものはある。


 最初の予定から木苺を抜いて提案したら、


「肉も食べないと、アリスが明日も頑張る力が出ないにゃ! 焼いた肉はきっと美味しいにゃ! 火を焚いて体を温めておいたほうが風邪を引かないにゃ! 火を焚いておくと、戦闘になった時に視界の確保にもなるにゃ!」


 ハクは必死に、肉と火の必要性を訴えてきた。


 でも、“焼いた肉はきっと美味しいから肉食べたい” が本音だね?


「私は、地球でも毎食肉を食べていたわけじゃないから、果物と水だけの食事でも全然大丈夫。 こっちに来る時に、食料は簡単に手に入らないかもって覚悟はしていたし、果物があるだけで十分だよ。

 今は暖かい時期みたいだから、火が無くても凍える心配もなさそうだし、今日は疲れたから少しでも多く眠りたい。一晩中、火の番をするのはしんどいよ」


 疲れているのも、水しか飲めないかもって覚悟していたことも本当だ。


 でも、ハクは肉を諦められないらしく、重ねて訴えてきた。


「水が豊富にある今のうちに、獲物を解体しておくと、後が楽にゃ!」


「こんな長刀の<鴉>で解体作業は効率が悪いよ。 解体は人里に着いてから、解体に向いたナイフを手に入れてきっちりと教わりながらした方が、高く売れる部位とかいろいろと勉強になると思う」


 大きいマグロの解体ショーでは、このくらいの日本刀を使ってるのを見たけどね。やっぱり気分がもやもやしてるんだ~。


 ハクのMP量を考えたら魔法を使えない方が不思議だったけど、攻撃力が低かったのと、なにより可愛い外見に騙された!


「じゃあ、陽が落ちきる前にもう少し木苺を摘んでおいて、暗くなったら水とりんごで食事をしてから木の側に移動して、警戒しながら朝まで休憩ってことで」


 決定。と言おうとした所で、ハクが叫ぶように言った。


「僕が火の番をするにゃ! 警戒も引き受けるから、アリスは一晩ゆっくりと休んでも大丈夫にゃ! だから、ボアを食べるのにゃ~!!」


 よっぽどワイルドボアの肉を食べたいらしい。


「ハクが警戒と火の番をしてくれるっていっても、そのちっちゃな体でどうやって薪をくべるの? それに、ハクだって疲れているだろうし、ずっと起きてるなんて無理があるでしょ? 明日も移動するんだよ?」


「火の番くらいちゃんとできるにゃ! それに僕は神獣にゃ。眠ることは好きだけど、眠らなくても大丈夫にゃ。この辺りの魔物には絶対に負けないから任せるにゃ!

 だから、ボアを食べさせるのにゃ~~!!」


 自称・保護者は、小さな顔の半分は口か?と言うくらいに大きく口を開けて訴えてきた。 そろそろ折れてあげようかな。


「わかった。じゃあ、ハクに火の番を任せるけど、本当に眠らなくても大丈夫なんだね? 神獣って言っても、まだ赤ちゃんなんだから無理しちゃだめだよ?」


「本当に大丈夫にゃ。 赤ちゃんじゃなくて、まだ若いだけにゃ!」


 肉食べたさの駄々コネぶりは、ちっちゃい子そのものだったけどね…。


「ワイルドボアの肉はそんなに美味しいの? ハクは、いつ食べたの?」


 気になる。私より後に生まれたはずなのに、いつの間に食べたのか。


「食べたことはないのにゃ。でも、美味しいらしいのにゃ♪」


 食べたことがないのに、“自称・保護者”の立場を捨てて、あれだけの駄々コネを……?


 ……ハクの『食いしん坊』疑惑は、確定です!


ありがとうございました!

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