【クリーン&ドライ】の販売
ダビの部屋は全体的に薄汚れていて臭いも残っていたが、クリーン魔法を何回か使うと簡単に綺麗になった。
「床も壁も天井も! こんなに一瞬で綺麗になって臭いも取れるなんて素晴らしい!
これなら業者を入れずに、このまま売りに出せますよ!」
セルヒオさんは【クリーン】魔法に感心しきりだ。
この部屋は使う予定がないと言ったら、「すぐにでも売りに出したいから、今、売買契約を結んで欲しい!」と言われ、最初の見積りよりも160万メレUPの940万メレで買い取ってもらった。
せっかくここで会ったのだから一緒に裁判所でお昼ごはんを食べないかと誘ったら、「昼食を食べる習慣がない」と迷っていたが、昨夜私が作っていたものを出すと言ったら、
「裁判所まで、喜んでお供させていただきましょう!」
とにこにこの笑顔で宣言し、護衛組にからかわれていた。
ふふっ、光栄ですよ♪
ダビの部屋を出ると、空が曇り始めていた。
天気予報が得意らしいエミルが、
「これは一雨降るぞ」
と言うので、みんなで急いで裁判所まで走ったが、ぎりぎりで雨に降られてしまった…。
裁判所の玄関でみんなに【クリーン】を掛けてから【ドライ】を掛けると、同じように雨に降られた人たちが羨ましそうに私を見る。
(ダメにゃよ!)
(え?)
(知らない人にサービスしちゃダメにゃ! <冒険者>も<商人>もただ働きをしちゃいけないのにゃ!!)
ドライくらい掛けてあげようかな?と軽く思っていた所を、ハクにしっかりと釘をさされてしまった。
(商売としてお金を貰ったら?)
(だったらOKにゃ♪)
自分たちだけすっきりしているのが居心地悪かったので、みんなには少しだけ待っていてもらい、
「今だけ! 今この場にいる人たちだけ! 【クリーン&ドライ】の魔法を1回1,200メレで販売しま~す!」
と声を掛ける。
こちらを羨ましそうに見ていたけど、有料だったらどうするのかな?と思って見ていると、数人はつまらなそうに歩き出したが、
「助かるよ。こんなことで風邪を引きたくないからな」
「ドライだけじゃなくてクリーンも掛けてくれるの? 嬉しいわ~♪」
と、嬉しそうに1,200メレを払ってくれる人もいた。 うん、場所を代えたら立派な商売になりそうだ。
(7人分で8,400にゃ♪ 儲けたにゃ♪)
ハクも喜んでいるし、よかったな^^
……と思った私がバカだった。
ここは裁判所なんだから、無許可で商売なんかしたら叱られて当然だよね。 今回は「商売とはいえ善意でしたことだろうから」と注意だけですんだけど、次からはきちんと気をつけよう…。
名前を告げに受付へ近づくと、受付の横に立っていた2人の職員さんから先に声を掛けられた。
「アリスさま! 昨日の報酬をお渡しするのが遅くなってしまい、誠に申し訳ございません!
お約束の1人3万メレで昨日の7人分、合計21万メレでございます。 お受け取りください!」
立会いのアルバイト代は日払いだったらしく、職員さんは本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。
「昨日はこちらも急いでこの場を離れましたので、どうぞお気になさらず……。 21万メレ確かに受け取りました」
今日は帰る前に一声掛けることを約束して受領書にサインをする。
「昨日のオークションの売り上げでございます。 こちらのリストに落札代金も記載していますのでご確認ください」
もう1人はダビと盗賊たちの荷物の落札代金を渡してくれる。
護衛組を見ても誰も動こうとしないので、私が代表して受け取れということらしい。 落札代金の相場なんてわからないんだけど……。
リストを護衛組に渡すと、アルバロとマルタが確認してから私に向かって頷いた。 少しだけ嬉しそうな顔をみると、悪い金額ではないらしい。
「ありがとうございました。 手数料はおいくらですか?」
「はい?」
「オークションの代行手数料をお支払いしないといけませんよね?」
裁判所の部屋を使って職員さんが動いてくれたんだから当然手数料がかかってくると思っていたら、オークションに参加した商人たちから受け取ったと言われた。
護衛組も頷いているからここでは当たり前のことらしい。
裁判所で行われるオークションの出品者は、ほとんどが裁判で勝った犯罪被害者か犯罪者を捕まえた冒険者らしいので、面倒なことは全て数字に強い商人に丸投げするらしく、商人たちはオークションの参加費を支払ったうえで落札手数料を払うが、出品者はそのまま落札金を受け取るだけですむらしい。
ちなみに、私が指定した“素行のよろしくない商人たち”は、裁判所からの招待に応じ、善良な商人たちの数倍の参加費を支払った上に、売れ残りそうだった品を高値で買ってくれたようだ。
どんな招待をしたんだろうね♪
お礼を言って受領書にサインをすると、今度は受付の人が立ち上がってそのままモレーノ裁判官の部屋まで案内してくれる。
もうお昼前だから、裁判官に「お昼ごはんを食べましょう」とメモを渡してもらおうとしたんだけど、受付の人が「このままお部屋まで、是非に!!」と言って譲ってくれなかったのだ。
「失礼いたします。 アリスさまがいらっしゃいました」
受付の人がノックをして声を掛けると同時に部屋の中からバタバタと足音が近づいて来て、ドアが勢いよく開かれ、
「おまちしてましたよ! アリスさん!!」
熱烈な大歓迎を受けた! ……モレーノ裁判官ではない人に。
ありがとうございました!




