フェルナン君とお買い物
お目当てだったニンニクとレモンもしっかりと買い込み、市の所々に設置されているベンチで休憩をしていると後ろから声を掛けられた。
「あれ? ねえちゃん達は今日も買い物か?」
「フェルナン君! 今日はミルクの配達は?」
「今何時だと思ってるんだよ、とっくに終わったぞ! 俺は母さんに頼まれてるトマトを買いに来たんだ。
……ねえちゃんが作ったトマトの上にチーズを乗せて焼くヤツ、母さんがもう一度食べたいって言うんだけど、真似してもいいだろ?」
昨日、チーズの味見用に作ったものを気に入ってくれたようだ。 嬉しいな♪
「いいよ~。 上からオリーブオイルをかけるのも忘れないでね!」
と教えてあげると、嬉しそうに頷いて、
「もう、買ってある!」
と胸を張った。 「じゃあな!」と手を振って駆け出そうとしたフェルナン君だったが、思い出したように立ち止まり、
「ねえちゃんがミルクを欲しくなったらいつでも声を掛けてくれよな! いい牛を選んで俺がミルクを搾ってやる!」
と言ってくれた。
「じゃあ、今日! 追加で50ℓほど欲しい!」
「……ねえちゃん、昨日買ったばかりだろ? いくらミルクが美味くても、飲みすぎたら腹を壊すぞ?」
早速注文をしたら、フェルナン君にダメな大人を見る目で見られた…!
「いや、全部飲むわけじゃないからね? お料理に使ったりするとすぐになくなっちゃうし、私のアイテムボックスはレベルが高いから、新鮮なままで保存しておけるんだよ!」
誤解を解こうと説明をしているのに、護衛組は大笑いをしていて何のフォローもしてくれない。
「それにね、私だけじゃなくて、従魔と後ろで笑ってるおじちゃん達もみんなアウドムラのミルクが大好きだから、多めに買っておかないとすぐになくなるの!」
「……そうか。 なあ、おっちゃん達はいつもばか笑いしてるけど、ちゃんと護衛はしてるのか?」
フェルナン君に“おっちゃん達”と呼ばれた上に、仕事を疑われた護衛組はショックを受けたようだが、放っておこう。
さっきフォローしてくれなかったから、お互い様だよね♪
「まあ、いいや。 今日の夕方に50ℓだな。
もう、ミルク缶は買ったのか? まだなら店に案内してやるぞ!」
「嬉しい♪ ありがとう!」
フェルナン君に案内してもらった農具屋はまだ開店前だったが、フェルナン君の顔を見ると、機嫌よく店を開けてくれた。
「20ℓ缶を2本と10ℓ缶を4本、あと“じょうご”はあります?」
「じょうご……?」
「あ~、漏斗?」
「ああ、漏斗! 漏斗は置いていないんじゃよ、すまんなぁ。
見た目の良い缶だと20ℓ缶が1缶87,000メレ、10ℓ缶が1缶75,000メレ
普通の缶だと20ℓ缶が一缶58,000メレ、10ℓ缶が1缶50,000メレになる。 どっちにしなさる?」
インベントリの中に入れっぱなしのものだから普通のでいいかな?と思ったら、なぜかライムが見た目の良い方の缶の前から離れない。
(それがいいの?)
(うん、こっち!)
鑑定してみると、見た目の良い缶の方が素材も良いようだ。 さすがライム♪
「見た目の良い方で」
「見る目のあるスライムじゃな。 ……474,000メレじゃ」
「じいちゃん、高いよ!」
合計すると少し高いかな?と思ったが、フェルナン君の紹介の店だから素直に支払おうとすると、当のフェルナン君が値切りだした。
「ウチで使ってるのと同じヤツなのになんでそんなに高いんだ!? ……俺の客にふっかけるのか?」
「フェルナンの所に売るのと一見の客とは値段が違って当然じゃ。 でも、フェルナンの紹介じゃから、47万メレに負けてやろう」
「……わかったよ。じいちゃん、無理言ってごめんな。
ねえちゃん、違う店を紹介してやるから行こう!」
値引きに納得できなかったらしいフェルナン君はそれ以上交渉することなく、私の手を引いて店の玄関に向かって歩き出した。
「ま、待て、フェルナン! 465,000…、46万メレでどうじゃ?」
店主が慌てて値引きを始めたが、フェルナン君の足は止まらない。
「45万…、わかった! 40万メレじゃ!」
74,000メレの値引きは大きいな。 フェルナン君も足を止めて私の顔を見る。
「ねえちゃん、どうする?」
「うん。フェルナン君の紹介のお店だからね。ここで買おうかな」
そう言うと店主はほっとした顔をしたが、フェルナン君は悔しそうな顔になった。
「じいちゃんの紹介の客には俺もミルクを値引きしてるんだ。 だから安心して連れてきたのに、嫌な思いをさせてごめんな」
「ううん、いいの。 一緒に来てくれてありがとうね!」
悔しそうな顔が可愛くて、フェルナン君の頬をなでなでしていると、
「ああ、もう、わかった! 38万メレじゃ! フェルナンの牧場に売っているのと同じ値段じゃ! これでどうじゃ!」
店主が諦めたように叫ぶ。 それを聞いて、フェルナン君はやっと笑顔になって店主に抱きついた。
「じいちゃん、ありがとう!」
「ああ。 おまえさんの客を相手に商売しようとしたわしが悪かったんじゃ。 許しておくれ」
「儲けさせてやれなくてごめんな。 でも、ねえちゃんはチーズやバターの美味い食べ方を教えてくれた恩人なんだ」
いつの間にか、フェルナン君の中で私は“恩人枠”に入っていたらしい。 試食品を作っただけなんだけど……。
「そうか。その食べ方はわしにも教えてもらえるのか?」
フェルナン君が私をじっと見るので笑顔で頷いたら、嬉しそうにニカッと笑って店主に向き直り、
「ああ! 今度俺が作ってやるから楽しみにしてろよな!」
と約束した。
楽しそうに笑いあっている店主とフェルナン君の間がギスギスしなくて、本当に良かった♪
フェルナン君と別れてダビの部屋に行くと、中でセルヒオさんが待っていた。 顔を合わせるなり駆け寄ってきて、
「アリスさん! 昨日いただいたりんごのお菓子と干し肉は感動的に美味しかったです! 本当にありがとう!
妻が出産から戻ってきたら一緒に食べるために、大事に大事に置いておきますよ!」
私の手を握りしめてブンブンと振り回した。
「おいおい、少し落ち着けよ。 アリスがびっくりしちまってるぞ」
見かねたアルバロがセルヒオさんの肩を叩きながら宥めると、
「あ…、これは失礼を……」
慌てて私の手を離し、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
いえいえ、そんなに喜んでもらえると、作った私も嬉しいですよ~♪
ありがとうございました!




