表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/763

従魔たちの新技

「牧場のばあさんは、賠償金の支払いに納得したぞ。 じいさんと孫の無事を確認したいと言って、自分で金を持って来てる」


「? どこに?」


「表に」


 のんびりとミルクを入れたコーヒーを飲みながらイザックが言うので慌てて立ち上がったけど、私以外はみんな落ち着いて座ったままだった。


「入れてあげなくてもいいの?」


 不思議に思って聞いてみると、


「ミルク瓶の残骸を片付けるつもりなら、もう少し時間がかかるだろう?」


 とのことだった。


「おばあさんに、片付けるように言ったの?」


「いいや、何も言っていない。 だが、相手の誠意を見るなら、放っておいた方がいいだろう?」


 イザックの説明に、みんなは普通に頷いている。 


 理解していないのは私だけだったが、言われてみればその通りだったので、そのまま座り直した。


「この後は、賠償金を受け取るだけ?」


「いいや。 金を受け取った後に、俺たちや家に近づかないという誓約書を書かせる必要がある。 

 そこは、衛兵殿に任せていいのか?」


「ああ、構わない。 俺たちは慣れているしな。 金はアルバロ殿が受け取るのか?」


「いいや、アリスだ。 俺たちはアリスの護衛だからな。 金の仕切りはアリスに任せる」


 この家はみんなの戦利品だから、賠償金も誰が受け取ってもいいと思うんだけど…。 まあ、いいや。 そういうことなら私が仕切らせてもらおう。


「セルヒオさんは、700万から壁の修理費150万を引いた550万の人数割りで…、91万。そこに犯人確保のお礼を入れて、100万メレでいいですか?  

 みんなは修理費を合わせた600万の人数割りで、120万メレね」


「「「は…?」」」

「「ええっ?」」


 ん?  どうしてみんな口を開けっ放しなの?  私が仕切っていいんだよね?


「わたしには賠償金をいただく理由がありませんよ」


 気を取り直すように、咳払いをひとつしてからセルヒオさんが言った。


「え、でも、最初に賠償金の交渉をしてくれたのはセルヒオさんですし、犯人達を捕まえてくれたのもセルヒオさんですから、当然の権利でしょう?」


「わたしは仕事でお客さまの所へお邪魔したついでに、お客さまの不利益を防いだだけのこと。 商業ギルドの職員として、この物件の担当ギルド員として、あたり前の仕事をしただけですので…。 

 お礼なら、こちらで出していただいた食事や甘味で十分すぎるほどです。これ以上のお礼はいただけません」


「でも、遅くまでお引止めをしてご迷惑を…」


「わたしは今、1人暮らしです。 妻が実家に帰っているもので…。 なので、時間のことはご心配なく。 

 美味しい夕食をごちそうになれて、とても得をしてしまいました」


 セルヒオさんがお腹を“ポンッ”と叩きながらいうと、衛兵の2人も大きく頷いた。


「「役得です!」」


 ……仕事の一環と言うのなら、ここは素直に甘えておこう。


「じゃあ、700万のにんず」

「アリス! 俺たちは150万メレの人数割りの金しか受け取らないぞ?」


 ええ……? なんで?


「この家は盗賊からの戦利品だから、損害分の150万メレは売却金として判断するが、それ以外は、そこのジジイに迷惑を掛けられたアリスへの慰謝料だ。 俺たちは受け取れない」


 アルバロがきっぱりと言い切ると、マルタ、エミル、イザックの3人も大きく頷いた。


「あたし達は<冒険者>だもの。 仕事中の余禄は大歓迎だけど、自分が働いていない所で発生するものは受け取れないわ」


「21万メレ以上受け取ると、<上位ランク冒険者>としての矜持に傷がつくんだ。理解してくれ」


「1人21万メレを当然の権利として請求するぞ。だが、それ以上はいらない」


 全員にきっぱりと断られてしまった。 でも、


「どうして21万メレなの?  30万メレでしょ?」


 不思議に思って確認すると、アルバロに呆れたようなため息を吐かれた。


「盗賊退治では、ハクとライムも大活躍だったじゃねぇか。仲間はずれにするな」

(僕たちの分にゃ! でも、550万メレで十分にゃ♪)

(ぼく、ありすのごはんのほうがいい)


 ……なんか、嬉しいな。 


 みんながハクとライムを仲間として扱ってくれるのも、守銭奴(しっかりもの)のハクが自分から権利を放棄してみんなに譲ろうとくれるのも、ライムが可愛いのも!  もう、いろいろと嬉しすぎるっ!


「……わかった。

 じゃあ、700万から150万を引いた、550万メレは私たちが貰う。 その代わり、150万メレは4人で分けて?」


 これが私が譲れる最低ラインだ。 


「いや、わかってないだろう? どうしてそうなった!?」


「うるさいわよ、アルバロ。 素直にいうこと聞かないと…。 ハク!ライム! お願いっ!」


「にゃお~ん♪」

「ぷきゅ~ん♪」


 私の頼れる従魔たちが、アルバロ達へ向かって飛びこ……まずに、私の後ろに隠れた。


「え?」


 私の希望と違う2匹の行動に戸惑っていると、


「にゃん!」

「ぷきゅ!」


 私の後ろで、2匹が“ひょこっ”“ぴょこっ”と顔を出したり隠したりしている。


「「「「「「「か…、かわいいぃぃぃ」」」」」」」


 なんか、感嘆の声が多いけど、うん。まあ、可愛いよね。


(納得しないと、もう遊んであげない攻撃にゃ♪)

(あそんでもらってあげないぞ~!)


 ああ、そういう攻撃なの…。 “可愛い攻撃”のバリエーションが随分と多いんだね…?


 うちの従魔たちはいったいどこを目指しているのか…。

 

「あ~、素直に受け取らないと、もう、みんなに遊んでもらわないぞ!って言ってるけど…」


 2匹の可愛さにもだえているみんなに説明すると、


「「「「なっ…」」」」


 冒険者組は言葉を失い、困った顔で凍りつき、


「くっ、あざとかわいい!」

「なあ、猫とスライムって、あんなに頭が良いのが普通か?」

「うちにも欲しい…!」


 セルヒオさんと衛兵さんをうならせた。











 2匹の【僕たちと遊びたくないの?】攻撃は防御が難しかったらしく、4人は早々に陥落した。


「偉かったね! 朝市でおいしそうなものがあったらいっぱい買ってあげるからね!」


(約束にゃ!)

(やくそく~♪)


 2匹はご機嫌で4人に飛びつき、4人はもだえたりもふったりと忙しそうだ。


「嫁さんが実家に戻ったって、喧嘩でもしたのか?」


 衛兵さんに心配そうに聞かれたセルヒオさんは、お腹をさすりながら、


「いいえ。とても円満ですよ」


 と微笑む。


「!! おめでとうございます?」


「ええ。ありがとうございます」


「そうか、赤ん坊か! おめでとう!」

「おめでとう! つかの間の静けさだな。楽しめよ!」


 声を聞きつけた2匹はセルヒオさんの膝の上に飛び込み、護衛組もお祝いを言いに集まってきて、一気に部屋が賑やかになった。


 しばらく1人暮らしなら、お礼は日持ちする食べ物でもいいかな♪

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ