見覚えのある○○
湖に向かっている途中に猪を見つけ、迷わず確保した。
ワイルドボアが1頭あるとはいえ、大事な獲物だ。 止めを刺す瞬間に目が合ってしまったが、美味しく食べることを誓って止めを刺した。
スライムやバンパイアバットをみつけては、積極的に狩りながら着いた湖のほとりでは、ふわふわの白い毛皮のうさぎが、口元を赤く染めながら何かを貪っている。
「……ッ!」
異世界のうさぎは肉食なのかと驚いたが、どうやら木苺を食べていたようだ。
うさぎが食べているし“当たり”の木苺かと期待しながら1つ採って鑑定してみると、
名前:クサイチゴ(とても甘い)
状態:優(摘みたて)
いつもより情報が多かった。 もしかして!?
「【鑑定】!」
インベントリ内の採取物を取り出して鑑定してみる。
名前:薬草
状態:優
名前:椎茸(美味しい)
状態:普通
名前:しびれ草
状態:普通
名前:椎茸(美味しい)
状態:優(肉厚)
「やっぱり! ハク、鑑定がレベルアップしてる! この木苺は美味しいよ♪」
【鑑定スキル】がレベルアップして、<状態>がわかるようになった。
これで食料の入手がますます安全になる。
「本当にゃ!?」
ハクは喜びの声を上げ、
「本当にゃ! 甘くておいしいにゃ♪」
木苺を堪能していた。 そっちかぁ……。
私の自称“保護者”さんは、私のスキルの成長よりも、木苺が美味しいことが嬉しかったようだ。
でも、木苺は、
「あうっっ!」
茎に棘があるんだよ? 案の定、引っかかったらしい。
「あれ? 怪我はしてないみたいだね?」
びっくりしただけで怪我はしなかったようだ。 防御力が高いってこういう事なのかぁ!
気を取り直して、湖の水を鑑定してみる。
名前:シーダの森の湖
状態:優
飲んでも大丈夫なのかな? 念の為に手のひらに水をすくい、もう一度鑑定してみると、
名前:シーダの森の湖の水(美味しい)
状態:優(汲みたて)
情報が変わった。 見るのと、手にするのでは条件が変わるのか。
スキル【鑑定】はまだまだ奥が深そうだ。
「ライム、出ておいで~」
美味しい木苺も摘みたいし、美味しい湖の水も飲みたい。 でも、今は何よりも、このこびり付いた血の臭いを何とかしたい!
「ハク、ライム。 私は今、この湖でどうしても水浴びがしたいの! だから先に満足するまで飲んじゃって?」
私がそう言うと、ハクとライムは、
「わかったにゃ!」
「ぷきゅ~!」
返事をして、そのまま湖に飛び込んだ。
「えええええっ!? なんで!?」
ハクは上手に猫かきで水を楽しみ、ライムはぷかぷかと浮いている。 可愛くも気持ち良さそうな様子に我慢できなくなって、私も湖に飛び込んだ。
「気持ちいい~っ♪」
髪についた血を流す為に、水の中に頭まで身を沈める。目を開いてみると、小さい魚が暢気に目の前を横切って行った。 かわいいなぁ^^
「ハク、ライム、中心の方は深くなってるみたいだから、気をつけてね?」
髪を濯ぎ、顔を洗い、ドレスアーマーの血を濯いだ。 血糊は取れにくいものなのに、水で濯ぐだけで面白いように綺麗になっていく。
気分が良くなると喉の渇きに気がついた。 血糊を濯いでしまったことが気になったが、湖の自浄作用を期待して、少し移動してから水をすくい鑑定を掛けてみる。
名前:シーダの森の湖の水(美味しい)
状態:優(汲みたて)
鑑定を信じて、思い切って飲んでみた。
「おいしい…」
「おいしいのにゃ♪」
「ぷきゅきゅ♪」
ハクとライムも気に入った様だ。
「体が冷えない内に上がっておいでね」
2匹に声を掛け、先に水から上がる。 ブーツを履いたままの水浴びだったので、中に水が入ってしまって気持ちが悪い。
魔力感知とマップで確認して、魔物の危険はなさそうなので装備を乾かすことにした。
湖のほとりには柔らかい草が生えていて、踏んだら気持ち良さそうだったので、ブーツと靴下を脱いで草を踏んで歩く。 くすぐったいけど気持ちがいい♪
「アリス、木苺をたくさん摘んでおくにゃ。 美味しかったにゃ♪」
いつの間にかハクも上がって来ていて、ぷるるるるっと体を振って水を切りながら、おねだりしてくる。
「木苺を摘む間、ハクが警戒をしていてくれる? アーマーも脱いで乾かしたいんだけど、大丈夫かな?」
聞くと、ハクはライムを呼んで、
「任せるにゃ! でも、ライムは従魔部屋に入れておいて欲しいにゃ。無防備なアリスを護ることに集中するにゃ!」
と言ってくれた。 頼もしい^^
ライムの為に木苺を摘んで一緒に部屋へ入れてやり、私も一粒食べてみる。
「あま~い♪
ライム、また、後で一緒に食べようね!」
なでなでしながら伝えると、ライムは頷くように震えて素直に従魔部屋へ入っていった。
日当たりのいい場所にブーツと靴下を置いて、ドレスアーマーを脱いでいく。
着物特有のこまごまとしたアイテムはなく、襟を合わせて帯を簡単に巻きつけ、端を折り込んで留めるだけなのに着崩れしなかったのは、ビジューのこだわりの恩恵だろう。
水気を絞り木の枝に掛けて、風に飛ばされないように帯で簡単に結んでおいた。これで大丈夫だろう。
ショーツの上にスパッツを履いていた事に安心し、シャツの下にスポーツタイプのインナーを着ていたことに、ビジューの女子力を感じながら、脱いで絞っておく。
ふと、自分の体を見下ろして、既見感があるように感じた。自分の若い頃の体だから当然かとも思ったが、若い頃でもこんなにすらっとした手足だった覚えがない。なのに、どこかで見たような……?
白くきめ細やかな美しい肌。健康的にすらっとした長い手足にたおやかな肩。くっきりと出ている鎖骨に、小ぶりながらもふんわりお椀型のきれいな胸。桜色のきれいな……。
「ああああああああっっ!!」
これはビジューの体! ビジューの体の凹凸を控えめにして、幼い感じにしたら、この体になる!
「ちょっと水に入ってくるね」
ハクに声をかけ、もう一度湖の中に戻る。 波紋を立てないようにじっと身動きをせず、そうっと水面を覗き込んでみた。
顔もビジューの少女版なのかと期待したけど、私の16歳の頃の顔が水面に映っている。ちょっとだけがっかりしたが、肌質がビジューのものだというだけで、見覚えのある顔が美少女っぽく見えるからおもしろい。
髪の色も(多分、目の色も)元の色より黒味が強いように見える。さらさらストレートのきりっぱなしボブ(決して、おかっぱではない!)で、目の色、髪の色、着物もどきのドレスアーマーを合わせると、ちょっとハイカラな座敷童子かいちまさん……。
日本ならコスプレーヤーとして、人気が出たかもしれない。 ……いや、需要がないか^^;
ありがとうございました!




