優秀な従魔たち、と、護衛たち
(アリス? アイスボールはどうやって使うのにゃ?)
あ、忘れてた! ミルクを冷やさないと!!
ミルク…と水とりんご水を1ℓのビンに移して寸胴鍋の中に立て、かち割ったアイスボールを入れて上から塩を振る。
「ハク、焚き火で肉を焼くときの要領で、このビンをくるくる回してくれる? ライムはハクのお手伝いをしてね?」
「にゃん♪」
「ぷっきゅう!」
「……え?」
私がヘラルドの相手をする方が良ければ誰かが呼びにくるだろうし、とりあえずは料理の続きをしてしまおうか。
「え? え? 本当に!?」
「マルタ、どうしたの?」
「ハクちゃんがビンをクルクル回してるし、ライムちゃんはハクちゃんの足場を作る為にあんなに変形してるのに、どうしてアリスは驚かないの!?」
「うちの仔たち、おりこうだから! ハクもライムもお手伝いが得意なの♪」
驚くマルタに何を思ったのか、ハクは少し顎を上げて、ライムはハクを支えている所以外を器用にぷるぷるさせている。
…私も胸を張って得意がってるから、2匹のコトは言えないけど!
台所の空いているスペースにインベントリからかまどを2基出して、それぞれでハンバーグを焼き出すと、マルタは目を丸くして今度はこちらを凝視した。
「そんなに一度に焼いたら、焦げない……?」
「かまどが隣同士の位置で、4個ずつくらいなら大丈夫。 マルタが焼くときは2個から始める?」
シチューの次はハンバーグを焼いてもらおうと思ったら、マルタに全力で拒否された。 焦がすのが怖いらしい。
「ハンバーグの表面が焼けたら、後はオーブンに入れるから大丈夫だよ。 やってみない?」
「いい加減にしろっ!!」
……しつこくマルタを誘ったら、アルバロに怒られた。
訳ではなく、長々と続くヘラルドの言い掛かりに、とうとうアルバロ達が怒ったらしい。
「どうしておまえは、アリスが登録を済ませたことを知っているんだ?」
「な、なんだと…?」
「おまえ自身がギルドに登録に行ったからだろう?」
「おまえが【クリーン】魔法の使用を、自分の発見として登録しようとしていたのを、俺たちは見ていたぞ!」
「アリスの使った方法を盗んで登録しようとしたおまえが、堂々と“情報を盗まれた”などと言い出すから、笑いを抑えるのに苦労したぞ?」
「あ、いや、それは…」
まさか見られていたとは思わなかったんだろう。 ヘラルドは言葉に窮している。
「おまえはアリスを出し抜くつもりで夕方話がしたいと言ったんだろうが、俺たちには通用しなかっただけだ。
おまえは自分が仕掛けた姑息な戦いに負けたんだ! いくら吠えても何も変わらないぞ! とっとと帰れっ!」
「待て…。 待ってくれ! それはお嬢さんに説明をする。 直接お嬢さんと話をさせてくれっ」
……私なら丸め込める自信があるってこと? さっきまで“あの小娘”って呼んでいたくせに、今度は“お嬢さん”か。 話をする気にはならないな。
ハンバーグの表面が焼けたらインベントリに入れておいて、フライパンにクリーンを掛けて次のハンバーグのタネを置く。
「同じハンバーグなのに、そのまま置いたらダメなの?」
「うん。オークの美味しい油が出てるからもったいないって私も思うんだけど、そのまま次を焼くと焦げちゃうんだよ」
「そうなの…」
マルタのパーティーの食事が少し不安になって話を聞いてみると、普段は外食で、野営の時は堅パンと堅~い干し肉、乾燥したくず野菜をお湯で戻して塩を入れただけのスープで我慢して、売り物にならない肉やその辺りで何かが採取できたらメンバーが簡単な料理をするらしい。
……オスカーさんの言っていたことは大げさじゃなかったんだな。 マルタがそんな食生活で我慢をしていたなんて……。
「アリス、そんなに心配しないで? 冒険者はみんな似たようなものよ」
マルタは笑って言うけど、心配だよ。 明日はおいしいものをいっぱい作るからね!
「アリス、シチューはいつまで混ぜるの?」
聞かれて鍋を覗いてみると、もったりとしていい感じになっている。
「うん! そんな感じ。 マルタありがとう! じゃあ、次はハンバーグを」
「お嬢さん、話がしたい! 出て来てくれーっ!」
「おねえさん! ロレナ、おねえさんとお話したいの!」
……今日はマルタにハンバーグを焼かせるなってことかな? さっきから変なタイミングで手が止まる。
(アリス! クッキーが焼けたにゃ!)
ハクに言われて急いでオーブンを開けると、もう少しでクッキーが焼き過ぎになる所だった。
(ハク、偉い! ありがとう!!)
ハクが気がつかなければ、大事な食材を無駄にするところだった。 気が散るからヘラルドにはさっさと帰ってもらおう。
「私は向こうで話しをしてくるから、クッキーの味見は1人2枚までね?」
ため息を吐きながら、クッキー以外の出していたものをインベントリにしまうと、2匹とマルタがドアの前に集まって来た。 口をもごもごさせながら、ジェスチャーで「一緒に」と言っている。
お口をもごもごさせながらでも、心配してくれて嬉しいよ♪
ありがとうございました!




