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マルタ、初めての…料理?

 玄関のドアノッカーが激しく打たれたのは、オーブンにクッキーの生地を入れた直後だった。


 マップで確認すると、ドアの前に()()ポイントが2つ。


「嫌な気配」


 とだけ伝えれば、ドアの近くにいたイザックが剣を抜いて応対してくれた。


「誰だ?」


「わしだ! 牧場のヘラルドだ!」


「この忙しい時に……」


 思わず毒づくと、台所の近くにいたアルバロが笑いながら、


「ドアを開けていいのなら、俺たちが相手をするぞ。 どうせ登録の件で言い掛かりを付けに来たんだろう」


 と言ってくれた。


「だったら、私が相手をしないと。 私に文句を言いに来たんでしょ?」


「アリス、忘れたのか? ミルクの登録は、俺たちも当事者だぞ。 アリスのお陰で<共同登録者>だからな!

 それに、アリスはまだ料理の途中だろう? 俺たちはマルタ以外、暇だったんだ。 

 せっかくの暇つぶしなんだから譲れよ」


 私が面倒がっているのをわかっているアルバロは、“暇つぶし”と言って面倒ごとを引き受けようとしてくれる。 こんなことは護衛の仕事じゃないだろうに、優しいなぁ。


「アリス、ここはアルバロに任せて! アリスが側にいないと、あたしが不安なの。 おねがい、ね?」


 面倒を押し付けるわけにはいかないから自分が応対を、と思ったら、シチューを混ぜながらマルタが焦ったように訴える。


 ミルクを足して寸胴鍋の8分目までシチューが入り、かき混ぜるのも一苦労なのに、文句も言わずに混ぜ続けてくれていたマルタがそう言うなら、仕方がない。


「わかった、アルバロ達に任せる。 明日のお昼ごはんは期待していてね!」


 招くつもりのなかった客の相手はアルバロ達に任せて台所の奥に引っ込むと、中を隠すようにドアをほとんど閉められた。 


「アリスのレシピは金になるからな。これ以上開けるなよ?」


 エミルの注意が聞こえる。 話す声は普通に聞こえるらしい。


「わかった。 面倒だろうけど、応対は任せるね」


「ああ、わたしも明日の昼食を期待しているから、アリスは料理に集中するといい」


「ふふっ♪ 了解!」


 マルタと一緒に、美味しいごはんを作るからね!










 シチューの味見をしていると、横顔にマルタの視線が突き刺さるので、マルタにもシチューを掬ったスプーンを渡すと、恐る恐る口をつけ、


「美味しいっ!」


 スプーンを振り回しながら喜んだ。 少し行儀が悪いけど、今回は見逃そうかな^^


 うん、確かに美味しい。 でも、少し塩が足りない気がする。 塩を足してから少し馴染ませて、今度はスプーンに注いでマルタに渡す。


「!! さっきよりもっと美味しい!」


「マルタが頑張ってくれたから、こんなに美味しくなったんだよ!」


「本当? 混ぜてただけなのに?」


「ゆ~っくりと、焦げないように混ぜ続けることが大事だったの!」


 シチューが美味しく出来たことを喜び合っていると、今度はクッキーの焼ける甘い香りがする。


「マルタ、“あ~ん”して?」


「あ~ん」

(あ~ん、にゃ♪)

(あ~ん♪)


「ふふっ♪ はい、どうぞ! 熱いから気をつけてね?」


 開いた3つの口と口らしきところに、1枚ずつクッキーを入れていく。


「こんな食感、初めて…。 甘いけど、あっさりしてるからいくらでも食べられそう!」


(あったかくて甘いにゃ!)

(あまくてやわらか~い♪)


「柔らかいのは出来たてを食べられる、作った人達だけの特権だよ♪」


 うん、思ったより美味しくできてる! あとは冷ます為にテーブルに置いておくんだけど……、


「つまみ食いは禁止! 1枚でも減っていたら、明日はお肉とおやつは抜きだからね?」


「にゃっ!?」

「きゅっ!?」

「えっ!?」


 えっ、じゃないよ。マルタまで…。 


「本気だからね? 私たちだけお肉とおやつ抜きで、アルバロ達にしか出さないから。 ちなみにアルバロ達から分けて貰うのも禁止にするから!」


 ここまで強く言っておいたら大丈夫だろう。


 “シュン”としてしまった食いしん坊たちは放っておいて、次のクッキー生地をオーブンに入れる。


「マルタ? 腕はもう疲れた?」


「ううん。まだまだ平気!」


 後衛とはいえ、さすがは冒険者だ。 見た目以上に体力がある。


「じゃあ、これを煮詰めてくれる?」


 出来上がったクリームシチューを鍋に取って、マルタに渡す。


「さっきみたいに、温めながら混ぜ混ぜしてね? 水分が飛ぶと焦げやすくなるから気をつけて」


 マルタは注意を聞きながら、慣れたのか量が減って安心したのか、さっきよりはリラックスして混ぜ始めた。


 今のうちにイザックのリクエストのハンバーガーを作っておこう! 


 インベントリからハンバーグのタネを出して、成形しながら向こうの部屋から聞こえている怒鳴り声に意識を向ける。


 ヘラルドは玄関のドアを開けた瞬間から、「騙したなっ」とか「ロレナに詫びろ!」とか「登録を取り消せっ」とか、ずうっと、怒鳴り続けている。 


 …元気なおじいさんだ。 


 それにしても、どうしてここに孫娘(ロレナ)を連れて来たんだろう。 子供に見せたい光景じゃないだろうに。


 ハンバーグの成形が終わり、焼き始めようとすると、


「あの小娘(ガキ)を出せっ! 善人ぶってわしらを裏切った、あの小娘(ガキ)をここへ連れて来いっ!」


 私をご指名の声が聞こえた。 どうしようかな? もうすぐクッキーも焼けるし…。


 迷っている間にクッキーが焼き上がり、オーブンを開けると味見希望の食いしん坊たちの視線が突き刺さる。


「1人1枚だよ?」


「これも美味しい! さっきより甘みが強くて、風味が強い?」

(これがバターにゃ?)

(すごくおいしい♪)


「うん、こっちはバターたっぷりで卵入り。 さっきのはバター少なめで卵を使わなかったの。 

 どっちが好き?」


((りょうほう!)にゃ♪)

「両方好き!」


「そう? よかった♪」


 好みが別れるかと思ったけど、どちらも気に入ってくれると作った甲斐がある。 多めに作っている生地もいま全部焼いてしまおうかな^^

ありがとうございました!

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