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氷ーっ♪

 支払いをすませ、フェルナンくん親子に見送られて外に出ると、牧草地でアウドムラが数人の冒険者に囲まれていた。


「!?  …あれは何をしているの?」


 一瞬だけ泥棒かと疑ったが、落ち着いているフェルナンくん親子を見て違うとわかる。


「アウドムラに氷をあげてるんだよ。 塩辛い氷が大好物だから、警備に雇っている冒険者に頼んでたまに食わせてやるんだ。 機嫌を良くして2~3日はミルクの味が良くなるんだぜ」


「へぇぇぇ…」


 見ていると、冒険者がアウドムラの前の地面に魔法で氷を撃ち出して、その上に別の冒険者が塩を振りかけている。 なかなか面白いおやつだな。


 ………っ!!


「ねぇ! アウドムラに氷をあげ終わった後に冒険者たちのMPに余力があったら、氷を分けてくれるように交渉してもいいかな!?」


「ねえちゃんも氷を食うのか?」


「もっと暑くなったら食べるけど、今日は違う。 明日の朝に飲むミルクを冷やしたいの。 そんなに多くなくてもいいから!」


 どうして今まで思いつかなかったのか! 冷凍庫がなくても、自分が氷魔法を持っていなくても、氷を作れる人から買えばよかったんだ!


「冷たいミルクは、腹がゴロゴロするぞ?」


「大丈夫! 体は丈夫なの♪」


 ビジュー特製の体だからね!


「ふぅん? 母さん、いいか?」


 お母さんが笑顔で頷くと、フェルナン君は冒険者を呼んで事情を話してくれた。


「残りのMPだと、アイスボールを2発が限界だ」


「1発、いくら?」


「あ~、悔しいけど無料。 依頼主からの指示だからな。もともと氷魔法を使う契約になってるんだ」


 どうしようかとフェルナン君を見ると、ニカッと笑って、


「いっぱい買ってくれたからな。おまけだ!」


 と言ってくれた。 フェルナン君、いい経営者になるよ~! お母さんも笑顔のまま止めないので、遠慮なく甘えることにした。


 冒険者から離れた位置にイザックから借りた帆布を敷いて、真ん中よりやや後ろに立ちクリーンを掛けると、ハクが私の前面に防御壁を張ってくれる。 


【魔法衝撃吸収壁】という魔法らしく、飛んで来る氷をバラバラに砕かないで受け止めることができるそうだ。


「おまたせーっ! 私のお腹を狙って打ち込んでくださ~い!」


 わくわくしながら待っているけど、なかなか氷が飛んで来ない。


「おい、アルバロ! あの娘は何を考えているんだ!? 地面に打ち込むんじゃないのか!? どうして自分を攻撃しろなんて言っているんだ!?」


「俺にもわからん。でも、怪我はさせるなよ?」


「無理だ! 殺しちまうぞっ!?」


「ダメだ。 氷の大きさはそのままで、威力を落として上手く攻撃しろ」


「はぁあああああああああっ? 無理だーっ!」


 ……冒険者の悲壮な声が聞こえてくる。 ハクの結界とビジューの装備があるから、多分大丈夫だと思うんだけど。


「大丈夫―っ!  即死さえしなければ、回復魔法でなんとかなるからーっ」


 安心材料を増やすつもりで自己申告したのに、冒険者は安心するどころか、余計に興奮しだした。


「腹に穴が開いたら、自分に回復魔法を使う余裕なんかあるかっ!」


「(ハクが)結界張ってるし、そこまで酷い怪我はしないと思う! 気にしないで撃ってくださーい!」


 冒険者はしばらく「自分の攻撃力をバカにしてるのか」とか「なんで、女子供を攻撃しないといけないんだ!」とか、結構抵抗していたけど、護衛組がどう説得したのか、諦めて攻撃の態勢を取ってくれた。


 冒険者の代わりに、今度はフェルナンくん親子が慌て出したけど、マルタとマルタの肩に乗ったライムが抑えてくれている。


「早くっ早くっ! 結界を張るのに疲れちゃうっ!」


(失礼にゃ! この程度じゃ疲れないにゃ!)


(ごめんっ! ハクの事は信じてるよっ!)


 冒険者の気が変わるのを防ぐために、「もう結界を張っているからMPがなくなる前に早く撃って欲しい」と急かしてやっと、冒険者は【アイスボール】を放ってくれた。 


 これで明日は冷たい飲み物が飲めるーっ♪













 冒険者の撃った【アイスボール】は、狙い通りに私のお腹に飛んできて、ハクの【魔法衝撃吸収壁】に当たってから、“ボトッ”と帆布の上に落ちた。


 氷、Get!! 


 氷が解けないように急いでインベントリに収納して、次の攻撃をお願いしようと冒険者を見ると、彼は地面に両手を突いてうな垂れていて、その横でポーションを両手に持ったエミルとイザックが何か話しかけていた。


「なんだよ、アレ…。 俺の【アイスボール】があんなに簡単に…。 もしかして俺は弱かったのか……?」


「そんなことはないぞ。 おまえはDクラスでも上の方じゃないか! 今度Cランクの昇格試験を受けるんだろう? …アリスが変なんだ!」


「そうだ、しっかりしろ! 俺たちの両手を見ろよ。 おまえが撃ち出す直前の氷を見て、必要だろうと判断してポーションの準備をしていたんだぞ?  …アリスの魔力がおかしいんだ!」


 なんだか酷い言われようだけど、


(ハク? 私、また失敗しちゃった?)


(にゃ? 大丈夫にゃ! Dランク程度の攻撃を防いだって、何の問題もないにゃ♪)


 ハクが大丈夫って言うから、きっと大丈夫だ♪


「冒険者さ~ん! 2発目をお願いしまーす! 大きいのくださーいっ!」


 張り切って声を掛けると、冒険者は何かを吹っ切ったかのように立ち上がり、


「全力で行くからな!」


 宣言と同時に、1発目よりも2回りほど大きいアイスボールを撃ち出した。


 “ボトッ”


「ありがとーっ!」


 氷を回収して冒険者にお礼を言うと、マルタの手を振り切ったフェルナン君が駆け寄ってきて、目をキラキラさせて褒めてくれた。


「ねえちゃん、凄いな! モレーノ様の紹介だし、護衛を4人も連れて買い物に来るから、 “シンソウのお嬢サマ”かと思ってたのに、強いんだな!?」


「ふふっ♪ ありがとう!

 でもね、どんな攻撃がどこを狙っていつ来るのかがわかっているのを防ぐだけだから、大したことじゃないんだよ?」


 ハクが頑張ってくれたから、私はただ立っているだけだしね。


 フェルナン君のキラキラな視線が心に痛くて説明をすると、冒険者が小さく首を横に振るのが見えた。


 ……Cランク昇格試験、頑張って欲しいな~。


ありがとうございました!

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