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まさかの値上げ

「ねえ、アリスぅ。 あたし『ドライアップル』が食べたい!」


「夜まで待ちませんか? 甘いものばかり食べていると太りますよ?」


 ミルクを味わいながら飲んでいると、思い出したようにマルタがねだり始めた。


「甘いのですか?」

「干しりんごのことじゃないのか? もっと甘いのか?」


 “甘い”に裁判官とイザックが反応すると、従魔たちを抱っこしてほくほくしていたエミルも顔を上げて私をみつめる。


 アルバロが戻ってからの方が良いんじゃないか?という思いは、期待に満ちた視線に負けた…。


「美味しい!」

「ハクやライムは幸せだな!」

(そんなことないにゃ。アリスはケチにゃ!)

「甘いな♪」

「これも素晴らしい!!  当然これもレシピ登録したのでしょう? いつから使用できますか?」


 ハクの発言は気になるけど、みんな甘党らしく、ドライアップルも気に入ってくれてなによりだ。 


 レシピ登録はしていないが、アウドムラの牧場への紹介状のお礼にレシピを教えるって言ったら、裁判官は「登録するように!」と力を込めて勧めてくれた。 


 手が空いたら考えよう。


「アリスは<情報使用料>と<レシピ使用料>だけでも暮らしていけそうだな。 旅がしたいなら、冒険者を護衛に雇ってもいいんだぞ? 俺たちなんかどうだ?」


「わたしと婚約すれば、依頼料は飯だけでいいぞ?」


 イザックが面白そうに言うと、エミルも悪乗りを始める。 


「あたしはパーティーメンバーごと雇ってくれたら、依頼料は割引きするわよ?」


 マルタの提案はお得だし、護衛組は皆いい人だから一緒に旅をしたら楽しいだろうけど、


「魅力的なお誘いですが、私は<冒険者>になってレベルを上げて、簡単には死なない程度に強くなりたんです。だから、しばらくはソロで冒険者活動を希望です♪」


 まずはお金を貯めてお風呂付きの宿に泊まる。もっとお金が貯まったら冷凍庫を買って、お風呂付きの家を買う。


 護衛を雇う余裕なんて、欠片もないな~。  護衛の売り込みは丁重にお断りだ^^


「では、もう<冒険者登録>はすませたのですか? 口座を開いたなら教えてもらいたいのですが」


 護衛組の「え~、つまらな~い」や「残念だな」と言った笑い声の中で、モレーノ裁判官の真面目な声はよく響いた。


「登録はまだですが、口座が必要ですか?」


「ええ。 昨日、コンラート夫妻から、向こう1年間の慰謝料の支払い手続きを依頼されまして。 まあ、口座は<商業ギルド>のものでも構いませんので、明日には手続きを完了できそうですね」


「お手数をお掛けします」


「これも裁判所の業務の一環ですから。 向こう1年間の()()()()()()()()()()()()を、来月末から12回、アリスさんの口座に入金する形になります」


 えっ!?


「5割です、裁判官。 向こう1年間、()()()()()()()()()()()5()()です」


 どこで、家の収入の7割なんて間違いが起こったの!? 慌てて訂正したが、


「いいえ、コンラート家、コンラート夫妻の全収入の7割だと聞いていますよ? 私が担当したので間違いはありません。これが依頼書です。 

 アリスさん以外は見ないように!」


 裁判官がアイテムボックスから取り出した書類には、確かに“コンラート家の全収入の7割”とある。


「え? 私は5割って言いましたよね?  ねえ、5割でしたよね?」


 律儀に後ろを向いていた護衛組も頷いてるから、間違いない。


「5割です、裁判官!」


「さて、困りましたね。私は7割で依頼されているので、なんともしようがありません」


 モレーノ裁判官は「困った」と言いながらも、にこやかに微笑んだまま、


「最初は3割、次に5割で最終が7割ですか? 支払う方が値上げをしていくなんて珍しいケースですねぇ」


 ……面白がっていた。 ダメだ、このままでは埒が明かない。


「直接、コンラートさんと話をしてきます」


「ギルマスなら<商業ギルド>だぞ」


 立ち上がると同時にアルバロの声がした。


「さっき、商業ギルドのギルマスと一緒に商業ギルドに入って行くのを見た。 だから落ち着いて、先にこっちの依頼をすませろ」


 アルバロの後ろには20代後半くらいの男性冒険者が立っていた。見覚えが…ある! 商業ギルドの鑑定士を連れて来てくれた冒険者だ! 


「その節はお世話になりまして、ありがとうございました!」


 慌てて頭を下げると、アルバロの笑い声が聞こえた。


「やっぱり覚えていたか! こいつがギルドの酒場で飯を食ってたから、声を掛けてみた」


「ベニートだ。 アウドムラの牧場なら警備依頼を何度か受けているから、勝手がわかる。 返事が欲しいなら早く出た方がいいぞ」


 ベニートさんはそう言うと、片手を顔の斜め前に上げ、手のひらを開いて固定した。  ん?


「アリス、手のひらパッチン!」


 んん? …もしかして、ハイタッチ!? 


 マルタの言うとおりにベニートさんの手のひらに自分の手のひらを打ち合わせると、にっかり笑ったベニートさんはそのまま握手に持ち込み、ブンブンと手を振って言った。


「ダビが捕まったのはあんたのお陰だ。ありがとうな!」


「皆さんのご協力のお陰です。 こちらこそ、ありがとうございました!」


 気持ちよくお礼を言い合い手を離すと、モレーノ裁判官が手紙をアルバロに渡し、アルバロが依頼内容の確認を始める。 


「返事はどこへ持って行けばいいんだ?」


 ベニートさんの質問を受け、アルバロが私を見た。 えっと…、


「私たちは今から<商業ギルド>へ向かいます。 その後は……、首領の家にいます。 首領の家は…」


 首領の家はアルバロが説明をしてくれた。 うん、地元の人の説明の方がわかりやすい。


「わかった。 じゃあ、行って来るよ!」


 ベニートさんは家の場所を聞くと、片手を上げて颯爽と走り出す。


「頼んだぞ~!」

「お願いしますねーっ」


 手を振って見送ったけど、冒険者の行動の早さにはいつも感心させられる。 ドライアップルを勧める暇もなかったなぁ。


 ……私も見習わないと!  まずは<商業ギルド>へ!!


ありがとうございました!

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