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再燃する疑惑と覚悟

明けましておめでとうございます!

 倒したバンパイアバットを収納し薬草などの採取をしていると、魔力感知に反応があり、同時に少し離れた繁みから猪が飛び出してきた。


お肉(ぼたん)っ!!」


 スライムやバンパイアバットとは比べ物にならないほど大きい生物との遭遇だったのだが、私は感覚が麻痺していたらしく、野生動物に遭遇してしまった恐怖より、食料(おにく)に出会えた喜びでいっぱいだった。


 すっかり手に馴染んできた<鴉>を振りかぶり、勢いに乗って突っ込んで来る猪に向かって力いっぱい振り抜いた。


「グギャアア!!!」


 ドカッ!

「あっ、ぃたたたっ!!」


 突進してきた猪に正面から振り抜いたのが悪かったのか、頭部の右半分を落とした猪はそのままの勢いで、血を撒き散らしながら私に突っ込んできた。とっさに反応できずにそのまま体で受け止めてしまった私は勢いに押され、後ろの木まで吹っ飛んだ。


「アリス、大丈夫にゃ!?」


 ハクが慌てて様子を見に来てくれたが、


「頭痛いし、気持ち悪い。失敗したぁ……」


 精神的なダメージが大きい。 でも、1つ学んだ。


 突進されたらまずは避け、それから反撃しよう。 でないと良くても血塗(まみ)れ、悪くすると怪我をする。


 ともあれ、


猪のお肉(しょくりょう)Get♪」


 水はある。果物も椎茸(きのこ)もある。肉が手に入って、これで直近の食糧問題は解決だ! と喜んでいたら、


「ワイルドボアにゃ~♪」


 ハクに訂正された。


「え?」


「猪型の()()にゃ」


 ……魔物って、


「これ、食べられないの……?」


 さよなら、ぼたん肉……。


「美味しいにゃ!!」


 残念に思って落ち込んでいたら、ハクの嬉しそうな声が聞こえた。


「魔物の肉って、食べられるの?」


 毒があったり、お腹を壊したりしないのかな?


「食べられないのもいるけど、ワイルドボアの肉は美味しいらしいにゃ♪」


「…猪とどっちが美味しい?」


「ワイルドボアにゃ! 

 見た目が似ていても、魔力を宿している魔物の方が美味しくて、素材も取れて、魔石も取れて、いくつもオイシイのにゃ♪」


 私はとてもお得なものを狩ったらしい。


「やったね!」


 ハクに向かって片手を挙げると、ハクも可愛らしいピンクの肉きゅうを私の手のひらに打ち合わせてくれた。この世界にも“ハイタッチ”の習慣があるようだ。


 ワイルドボアをインベントリに収納して一息つくと、浴びてしまった返り血の臭いが鼻につく。


 持っている水は、飲み水が皮の水筒1つ分。3つまで複製することもできるが、この血を流すには少ないし、なによりも貴重な飲み水をこんなことに使いたくない。


 【マップ】を使って水場を探してみると、そう遠くない場所に湖があった。


「ハク、この森を東に向かうと湖があるから、とりあえず水浴びをしに行きたい。浴びてしまった血の臭いで気分が悪くなりそう」


 そう伝えると、ハクも臭いが気になっていたのか、


「わかったにゃ♪」


 嬉しげに返事した。













 湖までの途中にも魔物らしき赤いポイントがちらほらあるから、汚れついでに狩っておこう。ついでに採取もしておきたい。


 ただ、さっきから気になっているのが……、


「ねぇ、ハク」


「なんにゃ?」


「私、何かおかしくない?」


「どういうことにゃ?」


 う~ん……。


「スライムとかバンパイアバットの時も感じていたんだけどね。ワイルドボアみたいに、動物にしか見えない魔物を手に掛けて、こんなに血に(まみ)れているのに、どうして平気なのかな?」


 この手で命の奪っているのに、ここまで忌避感がないのはおかしい気がする。


「魔物にゃ。この世界で魔物を討伐・退治するのは当たり前のことにゃ」


 元々この世界で生まれ育ったのなら、当たり前なのかもしれないが、


「私は地球で、ねずみや小鳥も殺したことなかったよ」


「害のある生物を退治しているだけにゃ。食べられる獲物を狩って糧にするのは、生きるのに必要なことにゃ。

 ありすは地球で何を食べていたのかにゃ?」


 ……生物、食べてた。 肉も魚も大好きだった。


 誰かが命を奪ってくれたものを、喜んで食べてた……。


「そっか。何も変わらないね。 命をもらって生きているのはどこの世界も一緒だ」


 自分の命を永らえるためにこの手で命を奪う。それを嫌がるなら、この世界で生きていくことは難しい。


「変なこと言ったね。忘れてくれる?」


 気持ちに整理をつけて言ったつもりだった。


 だけど、


「アリス。 アリスは今、ビジュー様から魂の保護を受けた時の神力の残り香みたいなもので、心を護られてるにゃ。 だから、魔物を倒しても忌避感が湧かないにゃよ。でも、それはいつまでも続かないにゃ。

 ……この世界には、人型のモンスターもいっぱいいるにゃよ」


 そう聞いて、身構えてしまう自分がいた。


「人型?」


「そうにゃ。ゴブリンにオークにオーガ。他にもいろいろいるにゃ。人族の盗賊もいるにゃよ」


 人型の魔物。 人族を私は手にかけられるだろうか…?


「アリスのいた所では、同族殺しはなかったのかにゃ?」


 ……同族殺し、殺人。 あったよ。とっても身近に。


 私は、同族(にんげん)に殺されたから、今ここにいる。


「敵を前にしたら、()らないと、()られるだけ、か」


 死にたくはないし、ね。 ここはアレだ。“心に棚を作れ”


「私はここで長生きして、死ぬ時にはビジューに『転生させてくれてありがとう』って思いながらベッドの中で死ぬんだ。こんな所でくだらない死に方はしない!」


 決意を込めて言うと、心配そうに私を見ていたハクが、


「魔物は金になるにゃ。いっぱい稼いで楽しく暮らすにゃ~♪」


 少し悪い顔で笑った。



 ……ハクの守銭奴疑惑が再燃です。


ありがとうございました! 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今日、何かいい感じに読み応えのある文量の小説が無いか探していたらたどり着き、読み始めました。 作品紹介(?)で、最初はとっつきにくいと書かれていたので覚悟を決めて読み始めましたが、いい意味…
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