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アルバイト 今日は終わり!

 全てを話して両手が再生した首領を先に見たせいか、盗賊たちはみんな素直に供述し、アイテムボックスを持っている人は中身を出してくれた。


 最初に首領が全てを話してくれたから、特に目新しい情報はなかったが、共犯者や顧客への別方向からの見解を聞けて、捕らえる為の糸口が増えたらしい。 


 取り調べと治療は順調に進み、7人目の治療が終わったのは11時42分だった。 予定の3分前だ。


「時間ですね。終了します」


 モレーノ裁判官が席を立ちながら告げると同時にティト裁判官が振り返り、興奮しながらモレーノ裁判官に詰め寄った。


「アリス殿は聖女様だったのですね!?  桁違いの魔力に高度な回復魔法、盗賊たちを無償で治療してやる慈悲深い心! これで、盗賊たちの素直な態度の説明がつきます! 聖女様の御心に触れ、改心したのですね!」


 モレーノ裁判官ごしに私を見るティト裁判官の目が、キラキラし過ぎていてちょっと怖い。


「私は、アリス殿は冒険者(志望)だと認識しているが?」


「モレーノ裁判官のおっしゃるとおり、私は冒険者になりますので、聖女だなんてとんでもないお話です。

 モレーノ裁判官、私は疲れてしまいましたので、休憩を取りたいのですが?」


 少しでも早くティト裁判官から離れたくて、“出て行きたい”アピールをすると、盗賊を連行して部屋から出て行ったマルタが戻ってきた。


「アリス、エミルとイザックが()()()報告したいことがあるそうよ?」


 私を連れ出しに来てくれたようだ。 


「わかりました。 では、モレーノ裁判官?」


 モレーノ裁判官に“裏庭で待ってる”のアイコンタクトを送りながら、退出の許可を願って、


「ええ。ゆっくりと休まれてください」


「ありがとうございます」


 モレーノ裁判官から“わかった”の頷きを受け取り、ティト裁判官に話しかける隙を与えないようにさっさと部屋から出て行くと、本当にエミルとイザックが待っていた。


 部屋の中の会話が聞こえていたようで、挨拶もそこそこに裏庭に移動する。


「お疲れのようだな? 聖女サマ」


「イザック、冗談でもやめて。 もう、クリーンを掛けてあげませんよ?」


 イザックがお昼ごはんの為に帆布を広げながら笑って言うが、私は笑えない。 


「聖女は治癒魔法が使える女性の憧れなのに、アリスはなりたくないの?」


 マルタまで不思議そうに首を傾げるが、


「聖女、でしょう? 

 教会に閉じ込められて、教会の為に無償で人助けを強要されて、運が悪ければ王の后にされて、民の不満のぶつけ役にされる、()()()()でしょう?

 どうして、そんなものになりたがるの?」


「「「「…………」」」」


 疑問を口にすると、護衛組が何とも言えない表情で黙り込んだ。


「……そう言う見方もある…のか?」


「確かに、市井を見物するといった自由はなさそうだが…」


「いや、アリス? アリスはいったいどこでそんな認識を持ったんだ?」


 護衛組のびっくり顔を見ていると、ちょっと不安になる。


「保護者からですが、何か間違っていますか?」


 保護者(ハク)の主観だから、他者から見たら違うのかもしれない。参考までに聞いてみると、


「いいえ、間違ってはいませんよ。 アリスさんの保護者殿は、確かな目をお持ちですね」


 背後から、モレーノ裁判官の穏やかな声が聞こえた。


 あ、ハクがものすっごく!!得意げに胸を反らしてる!  白い毛がふよふよ揺れて、かっわいいなぁ~♪


「モレーノ裁判官!? それはどういう事ですか?」


 聖女に夢を持っているマルタがびっくりして聞いているが、


「憧れや尊敬を身に受けるには、それなりの代償が必要と言うことです。 『聖女』を誉れに感じるか、窮屈と取るかは本人次第。 アリスさんは後者のようですね」


 淡々と答える裁判官に、それ以上は聞かなかった。


「アリスさん、先ほどは申し訳なかったですね。 どうやら彼は聖人や聖女に強い関心があるらしい」


 モレーノ裁判官が謝ってくれるが、私が考えなしにリカバーを多発したのが悪かったんだ。


「いえ、お気になさらず……。 でも、この先、ティト裁判官の誤解が深まらないといいんですが…」


「そうですねぇ…。 今日の立会いは終わりにしましょうか。 アリスさんのMPが切れたという形で」


 MPはまだ残っているけど、聖女扱いなんてまっぴらだし、モレーノ裁判官の提案の通りにした方が良さそうだ。


「そうします。 続きはまた、明日以降に。 ……明日は寝込もうかな」


 思わず呟くと、裁判官は苦笑して首を横に振った。


「先ほどまで元気な姿を見せていましたからね。 それは説得力に欠けるでしょう」


「それもそうですねぇ…」


「準備できたぞ! 話は座ってからにしたらどうだ?」


 アルバロの声に振り返ると、護衛組がブーツの留め金を外し、【クリーン】待ちの状態で立っていた。


 腹が減ってはなんとやら、いい考えも浮かばない。まずは食事だ!


「お待たせしました! 先にごはんにしましょう。 【クリーン】♪」


 クリーンを掛け終わると、護衛組の歓声があがり、従魔たちは芝生の上をころころと転がりだす。 


 ごはんとクリーンのどちらに反応したのかは不明だが、喜んで貰えるとやっぱり嬉しいものだ。 裁判官と目を合わせて笑い合い、私たちもブーツを脱いだ。  


 うん、開放感♪


「アリス、お水ありがとうね!」


 朝渡した水差しを返してくれたマルタが、そのまま帆布の上で寝転がる。


 視界の隅に入る盗賊からの戦利品の山に目をつぶれば、芝生は柔らかく、青い空には美味しそうな形の雲が浮かび、陽射しは柔らかく風が心地いい。


「今日も、ピクニック日和♪」


 となれば、お昼ごはんもお弁当っぽい方がいいかな~? 何を出そう♪


「ピクニックとはなんでしょう?」


「え?」


「あたしも知りたい。 何のこと?」


 インベントリのリストから顔を上げると、裁判官とマルタが不思議そうな顔で私を見ている。 え? “ピクニック”が翻訳されてない?   


「お弁当を持って野外に出かけて、自然を楽しんだり、遊んだりすることです。 鳥の声を聞いたり、花を眺めたり…」


「ふぅん。 随分と命がけの楽しみ方ね? たくさんの護衛が必要だろうに、アリスの故郷の魔物は大人しかったの?」


「あ~…、そうですね。 私の暮らしていた周辺や行動範囲には、危険な生物は生息していなかったので…」


 そうか。この世界でピクニックなんて暢気なことをしていたら、魔物に襲われる可能性があるんだ。 


 うかつな発言には気をつけよう!


 マルタの感心したような視線と、裁判官の妙にあたたかい視線を感じながら、思わず頬を掻いていた…。


ありがとうございました!

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