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アルバイト 約束は守ります

 両手がない首領は食事や排泄をどうしていたのか、とぼんやり考えていたら首領と目が合った。


「【リカバー】片方だけ!!」


 “有益な情報1つにつき、1箇所治す”と約束していたことを思い出して、ついリカバーを発動させたが、


「モレーノ裁判官、約束の分だけ先に治療をさせてもらいました。 不都合があれば、もう一度切り離しますが…」


 “治療は取り調べの後”という裁判官の意向があったのに、勝手に治療したのはまずかった。


 責任を取るつもりで<鴉>を取り出したが、


「そのままで構いませんよ。もう片方残っていますからね」


 裁判官は笑って許してくれた。 でも、以後気をつけよう…。 今の私はアルバイト中!


「おまえ……、鬼か…?」


 反省している私に、首領は“信じられないものを見た”とでも言いたげな視線で追い討ちをかける。 そんな意地悪を言うと、


「…次の【リカバー】は失敗しちゃうかも」


 しれないよね? 八つ当たりを込めて首領をじっとりと睨んでやる。 しばらく睨んでいると、


「さっさと始めてくれ。 終わったら、残りの腕も生やしてくれるんだろう?」


 “げんなり”とした表情で、首領はモレーノ裁判官に言った。 


 首領の態度に、場が整ったのを見て取ったモレーノ裁判官は表情を消し、質問を始める。


「では、名前、盗賊団の詳細や犯した罪、共犯関係にあった者、顧客など、思い出せる限り、思いつくままで結構。 全てを話しなさい」


 裁判官に促された首領は、聞かれたことを素直に思いつくままに話し出し、部屋には首領の声と、調書を作るティト裁判官のペンを走らせる音だけが響いた。


 首領が思いつくままに話し、一区切りつくとモレーノ裁判官が気になることを質問して、また首領が話し出すといったことを、


「もう、本当に、本当に、何にもねぇぞ」


 首領が疲れたように言うまで何度も繰り返した。


「では、供述内容に偽りがないことと、隠し事がないことを誓いなさい」


 モレーノ裁判官が机の端に置いていた『審判の水晶』を机の中央に移動させると、アルバロとマルタに連れられた首領が前に出て来て、水晶の上に手を置いた。


「俺は嘘偽りなく、思い出せる全てを話した。隠している事はない」


 首領が誓いを立てても何も起こらない。  …嘘はないらしい。


「アイテムボックス内のアイテムを全て取り出しなさい。 アルバロ、マルタ」


「「お任せください」」


 名前を呼ばれたアルバロはバトルアックスを片手に構え、マルタはナイフを取り出し、首領の後ろから心臓の位置に刃先を添えた。


 武器や危険物への備えらしいが、え? 今まで危険を放置してたって事? 


 驚く私に気がついたモレーノ裁判官は、首領の上腕に嵌まっていた金属のリングを指差し、


「罪人用のリングです。魔力を吸収する作用があるので、装着時には、魔法はもちろん、魔力を使用するアイテムボックスの開閉はできません」


 と教えてくれた。  …物騒なアイテムだな。 間違っても、あんな物をはめられないように、気をつけよう。


(ハク、念の為に裁判官を守る結界をお願いできる?)


(アリスじゃないのにゃ?)


(私もセットで。できる?)


(余裕にゃ!)


 ティト裁判官が首領の腕からリングを外して1歩下がった次の瞬間に、裁判官2人と私を守る壁のように、ハクの防御結界が発動された。


「今さら、何にもしやしねぇよ…」


 結界に気が付いた首領が疲れたように呟くが、気にしない。 万が一を防ぐには、気を回し過ぎるという事はない。


 首領はため息を吐きながら、アイテムボックスからナイフやフード付きのマント、お金、携行食を取り出し、ボックス内はもう空だと水晶に誓いを立てた。  


 いつでも逃げられるだけの用意を持ち歩いているあたり、盗賊も楽な稼業ではないらしい。


 危険はなくなったと判断したハクが結界を解くと、モレーノ裁判官が水晶に手を置いて何かを呟き、首領を再度呼び寄せ、命じた。


「アイテムボックスを含む、全てのスキルを手放すことを誓いなさい」


「勘弁してくれよ! 大したものは持っちゃいねぇ!」


 それまでは淡々と従っていた首領が初めて声を荒げ、身をよじり、モレーノ裁判官に懇願したが、モレーノ裁判官の表情は変わらなかった。


「素直にスキルを手放さないなら、『断罪の水晶』でステータスも奪うことになる。 選びなさい」


 渋っていた首領も、モレーノ裁判官に譲歩の余地がないことを理解すると、ステータスまで奪われるよりは、と素直に『審判の水晶』に手を置き、スキルを手放すことを誓った。


 首領の誓いを受けた審判の水晶が光を放ち、小さなスキルの水晶をいくつか生み出した。 ……水晶から水晶が転がり出てくる不思議な光景だった。


 『審判の水晶』は嘘を発見し、嘘を吐いた時のみ罰を与えるだけの比較的穏やかな水晶だと思っていたら、なかなかに凶悪な力を持った水晶だった。  


 『審判の水晶』と『断罪の水晶』が裁判官にしか使えない上に、悪用したら罰があるっていうのは本当にありがたい。


「終了です。 アリスさん」


 モレーノ裁判官の呼び掛けでこれで全てが終わったとわかったので、約束どおりに首領にリカバーを掛けると、両手が揃った首領は一度両方の手を強く握り締め、深く溜め息を吐いて、


「おまえ、すごいな…。 何の違和感もなく動くぞ」


 盗賊らしくなく、屈託なく笑った。


「褒めてくれてありがとう。 でもね、盗賊さん? 次に私を“おまえ”と呼んだら、両手両足の全てを切り飛ばして、2度と治療しないわよ。 覚えておいてね?」


 親しくない人間に“おまえ”呼ばわりされると、気分が良くないんだよね~。 今度いつ会うかわからないけど、一応言っておく。


「………わかった。 覚えておく。次にアンタに会ったら、なんて呼べばいいんだ?」


「アリス()()。 親しくないんだから当然でしょ? 盗賊さんの名前はその時に聞くわね。 今聞いても覚えていられる自信がないから」


「……そうか。 アンタは冒険者なんだろう? せいぜい長生きしてろよな」


「ありがとう! 私はおもしろおかしく長生きするから、盗賊さんは堅実に、手堅く長生きしてね? 食事の前にはきちんと手を洗い、よく噛んでから飲み込むのよ?」


「アンタは俺の母親(おかん)かよ……。 もう行っていいか?」


 深くため息を吐いた首領は、モレーノ裁判官が頷くのを見て、アルバロとマルタに連行されて出て行った。


「……盗賊団の首領とはとても思えないほど、スムーズに取調べが終わりましたね」


 首領の後ろ姿を見ながら、ティト裁判官が驚いたように呟いていたが、モレーノ裁判官は軽く頷いただけだった。 経験の差ってやつだな。

 

「盗賊たちのアイテムボックスの中身とスキルは、捕縛したあなた方のものですよ」


 と言ってくれたので、全てをインベントリに預かっておく。


 スキルの水晶は、身体能力向上4、剣術1、物理耐性2、だった。 


 身体能力向上のレベル4は、手放したくないよね。 首領が抵抗した理由がわかった。  


 高く売れるといいな♪


ありがとうございました!

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