パーティーリーダーのアドバイス
「食料はいっぱいになったのにゃ?」
「う~ん…、いっぱいと言えばいっぱいだけど、複製する度に、“アレもコレも”って思っちゃうね~。 まだまだ足りないものばかりだよ」
「そういうものにゃ」
溜息を吐きながら本音を言うと、訳知り顔でハクが頷く。 …まだ0歳のクセに大人ぶってるのが可愛くて笑い出しそうになったけど、必死に我慢した。
ハクが拗ねたら困るからね!
「ライム、広がってくれるかな?」
「はぁい♪」
【製薬】の材料をこぼしても【クリーン】で綺麗にできるのに、ついついライムに頼んでしまうのは、もう、習慣になっているからかもしれない。
「何を作るのにゃ?」
「<植物活性薬>。 裁判所の裏庭を荷物置きに使わせてもらってるお礼にね。 モレーノ裁判官に渡そうと思って」
「……只であげるのにゃ?」
「お世話になっているお礼だからね。 芝生が元気な方がハクもライムも転がるのが楽しいでしょ?」
“只”に引っ掛かっていたハクも“芝生の気持ち良さ”を想像して、納得してくれた。
クリーン済みの薬草1株とスライムジェルを1体分の1/5と浄化水を鍋に出して、【製薬】♪
スキルの光が落ち着くと、鍋の中の材料は黄緑色の液体になっていた。
名前:植物活性薬
状態:優
備考:弱っている植物にかけると元気になる
:咲き終わった花には効果はない
うん、成功だ♪ 材料に余裕があるから30個ほど作っておいた。 【薬師】スキルも早くレベルアップして欲しいなぁ。
「もう、終わったのか?」
「ええ、1種類作っただけなので」
1階では、皆が思い思いに寛いでいる様に見えたが、それぞれに自分の武器を身近に置いて、警戒を忘れていなかった。 とっくに<鴉>をインベントリにしまっていた私は警戒心が足りないようだ。
「裁判所は、何時から開いてますか?」
「この時期は7時から開いてるぞ」
随分と早いな。 何時に出勤してるんだろう?
「さっきのお買い物の話ですが、7時30分には裁判所に着く予定で、行ける所を検討してもらえますか? 私は食事の支度をしますので」
「1番の優先は?」
「ミルク」
「了解!」
行動予定の組み立ては地元に詳しい4人に任せて、ごはんのストックを作ろう。
この家の台所には2連式のかまどとオーブンがあって、使い勝手が良さそうだ。 使っていた形跡はないけど、徹底的にクリーンを掛けておく。
1基でご飯を炊いている間に、もう1基で作りかけだったスタミナ炒め(にんにく無し)を仕上げてしまう。
昨夜は、作っている途中で盗賊たちが襲って来たんだったな。 いろいろあったから、まだ24時間経っていないのが不思議な感じだ。
スープの方は、野菜だけだとハクが拗ねそうだから肉団子でも入れようかな。 インベントリに残ってる分を全部入れてしまおう。 軽く焼き付けてから鍋に入れて、味を調える。
ハクとライムが嬉しそうにこちらを見ているから、肉団子を入れて正解みたいだ。
寸胴鍋で作った煮オークと煮ボアを1鍋分全てスライスして、【ドライ】♪
(!! 全部干し肉にしたのにゃ!?)
煮オーク5本と煮ボア5本を全てを干し肉にすると、ハクがびっくりして寄って来た。
(煮オークむすびを作って欲しかったのにゃ!)
泣きそうになっている顔も可愛いけど、意地悪をする気はないので、さっさと種明かしをする。
(さっき、鍋ごと複製しておいたから大丈夫だよ。 インベントリの中で複製したから、びっくりさせたね。ごめんね?)
(……料理は複製しないって言ってたにゃ)
(うん、買った料理は複製しないよ。 でも、自分で作った料理は複製しないと、消費に間に合わないんだ。オークはまだ複製できないしね)
(ふぅん…。 アリスは良くわからないにゃ…。 でも、ごはんが増えるのは良い事にゃ♪)
私の勝手な決め事だけど、ハクはあまり気にしないでくれるのでありがたい。
ありがたいから、インベントリからご飯と煮オークを出しておむすびを作ってあげる。
(今、食べる?)
(明日のお昼でいいにゃ)
明日の昼はおむすびで決まりらしい。 そろそろ定番の梅干しとか昆布のおむすびも食べたいなぁ…。
ご飯が炊けてかまどが2つとも空いたので、片方でストック用のお湯を沸かし、片方には芋粥用のさつま芋を茹でるために寸胴鍋を置く。 今日みたいに、食欲がイマイチの日の為に、おかゆを多めにストックをしておきたい。
オーブンをしばらく観察して、何となく使い勝手がわかった気がしたので、試しにトーストを焼いてみる。
バターを深皿に入れて湯煎で柔らかくしたものに同量のお砂糖を入れてよく混ぜて、スライスしたパンにたっぷり塗る。 後は焼き色が付くまでオーブンに入れるだけ♪
思った以上に甘い香りが広がって、ハクがそわそわし出したけど、見ないフリ。
シュガーバターだけだと飽きるから、チーズトーストも作ろうかな♪ スライスしたパンにバターを塗って、生ハムとチーズを置いてオーブンに入れるだけ! マヨネーズがあったら完璧なんだけど、先輩移住者が広めてくれてないかな~? 探してみよう。
小さなトーストを熱々の内にインベントリにしまって皆の方を見ると、マルタと目が合った。
「予定が立ったわ」
ちょうど良いタイミングだったので、今夜はもう、ごはんにしよう。
「今、行きま~す。 皆さん、食欲はどうですか?」
さつま芋を茹でている寸胴鍋以外を全てインベントリにしまって、部屋と自分たちにクリーンを掛けると、護衛組が一斉にブーツを脱ぎだした。
「開放感がクセになっちゃって…。 食欲は普通より、ちょっとだけ少ない目かな?」
マルタが頬を赤らめながら告白すると、男性陣も大きく頷いた。 ……近いうちに、スライムが激減しそうな予感。
「ここは絨毯がないから冷えますよ?」
一応、忠告をすると、
「「「「大丈夫!」」」」
と、自信満々の答えと共に、寛ぎ空間作りが始まった。
部屋を照らしていたランプを端に避けると、イザックが帆布を敷く。 その上に皆がそれぞれの毛布やタオルや着替え(!)などを敷きながら私を見るので、クリーンを掛けてあげると嬉しそうに歓声を上げた。
タオルや服を踏まれることに抵抗はないの……? 片付ける時に、もう一度クリーンを掛けてあげよう。
私の毛皮の敷物も敷いて真ん中にアルバロが天板を置くと、それなりに寛げる感じになった。ブーツを脱いで開放されたかったのは私も同じで、自然と頬が緩んでしまう。
ご飯の釜とスープの鍋を出してしゃもじとおたまを突っ込むと、エミルとイザックがよそうのを手伝ってくれた。
私もだけど、遅い時間におやつを食べてしまった皆もあまり食欲がないようなので、ハーピーの手羽元の塩・胡椒焼きを1本とぶどうを出して終わりにする。
「足りますか?」
「十分!」
「アリス、皿をくれ」
マルタに手伝ってもらいながらぶどうの房を外している間に、アルバロがハーピーの手羽元を皆に切り分けてくれたが、思いのほか手馴れている。
「アルバロ、上手ですね?」
「野営中に肉を均等に分けるのは、パーティーリーダーの仕事だからな」
「ふぅん」
「取り分ける量にバラつきがあると諍いになる。 下手すればパーティー解散だ」
「あはは^^」
アルバロの言葉を冗談と受け取った私に、護衛組が真剣な顔で大きく頷いている。
「遠征中の食料は、とんでもなく貴重ってことだ。 覚えて置け」
パーティーを組む予定はないけど、食料の大切さを改めて心に刻んで大きく頷いた。 食料のストックをもっともっと増やしておこう!
「「「「今日の糧に感謝を!」」」」
「いただきます」
「にゃん♪」
「ぷきゅ♪」
おやつを食べたばかりだったので、残るかな?と思っていた夕食は、“食べ物は大事”と話した直後だったせいか綺麗に無くなった。 ちょっと嬉しい。
スープに入れた肉団子を食べたイザックが、ハンバーガーをもう一度食べたいと言ってくれた。 リクエストがあると、楽だな♪ 近い内に作ろう!
ありがとうございました!




