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揚げたてチュロス

「あちちっ! 美味しいっ♪」


「火傷するなヨ?  次が揚がったゾ!」


「蜂蜜? これも美味しい!」


 エミルさんに案内されたチュロスの店は、チュロスの専門店だった。 


 店はお昼だけの営業で、今は店を閉めたところだ。ちょうどいい時間に来たらしい。


(甘いにゃ~♪)

(おいしい!)


 揚げ立てチュロスに2匹もご機嫌に齧りついている。


「おじさ~ん! 冷めない内にアイテムボックスにしまいたいんだけどいいですか?」


「1本300メレだゾ」


「数はきっちりと数えますから、『シュガー』と『ハニー』、両方ともどんどん揚げてください!  皆さんは食べた数を覚えておいてくださいね~!」


「オウ! いっぱい食べて大きく育テ!」


((うん♪)にゃ!)


 この店の店主は、私と同じくらいの身長のおじさんだ。もっさりしたひげとがっちりした体格が印象的な『ドワーフ』と言う、お酒大好き♪な種族らしいが、この店の店主は、お酒よりも甘いものが大好き♪な変わり種らしい。


「アルバロも、人目を気にせずに揚げたてを食べるチャンスだったのにな」


 イザックが幸せそうに両手に2種類のチュロスを握って残念がっている。 アルバロは従魔たちに貢ぐオムレツの為に、バルで焼きあがるのを待ってくれているのだ。


 ゴツイおじさんが人前でニコニコと、甘いものを食べてもいいと思うんだけどね~?


「アルバロの分は、ちゃんと揚げたてを持って帰るから大丈夫ですよ。 私たちは揚げてる音と一緒に楽しみましょう♪」


「ああ、そうだな! 揚げている音もいいんだよな~♪」


 イザックも見かけによらず甘党らしく、口の周りに粉砂糖をつけながら、嬉しそうに笑っている。


「アリス、あのね…」


「マルタの分も、熱々を持って帰りましょうね?」


「うん!」


 オムレツの食べ過ぎでチュロスが食べられないマルタは、美味しそうに食べるイザックを恨めしそうに見ていたが、やっと機嫌を直した。


 エミルは自分が食べるよりも、ライムとハクの為に長いチュロスを食べやすく千切ってあげるのに忙しい。…エミルの分も持って帰ろう。


 私たち用にお店が用意していた材料を全部揚げたら、食べた分とインベントリに入れた分で128本になった。


「おじさん! 128本で、38,400メレね」


 お会計をしようとすると、エミルが先に小銀貨を3枚、店主に渡してしまう。


「わたしが買ってやると、ライムとハクに約束をしたんだ。 半分くらいは出させてくれるだろう? アルバロにばかり、良いカッコをさせられない!」


 ……うちの従魔はモテモテだな。 貢がれた従魔たちは私の返事の前に、エミルの足元で可愛らしくありがとうのすりすりを始めた。


 エミルにもありがたく甘えることにして、残り1/4の8,400メレを払おうとすると、


「適当にアイテムボックスに入れていたように見えたのに、きっちり数が合ってるゾ! 凄いから400メレまけてやル」


 店主さんが代金をおまけしてくれた。  


まとめて揚げていたのに、数をきっちりと数えていた店主さんの方が凄いと思いながら、お礼を言い、8,000メレを支払って皆でバルに戻った。









 バルの前には人が集まり、店が開くのを今か今かと待っている。


 急いで店内に駆け込むと、ハクが座っていたアルバロに飛びついた。 ライムはエミルの腕の中にいる。

 

 ……自分の従魔たちが夜のお店で売れっ子になっている幻覚が見えた。


「遅くなってすみません! もう、開店ですか?」


 店主に一言詫びると、


「いいや~、まだ時間はあるぞ。 表に並ぶのはいつものことだから気にするな。 時間まで店は開けないんだ」


 ニッカリと余裕で笑われて、この店の人気ぶりを実感できた。


「オムレツが18枚とピンチョスだ。 受け取ってくれ」


「ありがとうございます♪」


 ハクに懐かれてデレデレのアルバロからオムレツとピンチョスを受け取ると、店主夫妻にお礼を告げて、速やかに裏口から表に出た。  

 ……別に、入ってくる時の開店待ちのお客さんの視線が痛かったからではない。








「アリスの買いたい物ってなに? 欲しい物があるの?」


 昨夜の盗賊の襲撃や後始末でみんな疲れているから、今日はもうゆっくりしようと隠れ家への道を急いでいると、マルタが思い出したように聞いた。


「とりあえずは、牛のミルク、にんにく、レモン、植物油。 後は、町を見て回って、気になるもの適当に、ですかね~」


「食品ばかりなのね!  ………ねえ、それがあったら、更に美味しい物が作れるの?」


 最初は笑っていたマルタが、いきなり真剣な顔で食いしん坊発言をするから、アルバロとエミルの腕の中で大人しくしていたハクとライムが大騒ぎを始めた。


(早く手に入れるにゃ! 今から買いに行くにゃ!)

(おいしいものいっぱいたべたい! かいにいこう?)


 私の腕の中に飛び込んできて、引っ張る勢いで興奮している。


「美味しいかはわかりませんが、レパートリーは増えます。 ハクとライムは落ち着こうね? 今日は疲れているから買いに行かないよ~。 

 マルタは売ってる所を知ってますか?」


 2匹を落ち着かせて振り向いてみれば、護衛組が顔を突き合わせて何かを相談していた。


「……2回…直接…」

「…の外…朝」


 何の相談かはわからないが、私は早く戻ってゆっくりしたい。


「置いて行きますよ?」


 面倒になったので返事を待たずに歩き出すと、4人も慌てて付いて来た。


「明日の朝、<朝市>に行ってみない? にんにくとレモンを売ってるかもしれないし、他にも色々と見られるわ。 植物油は売っている店を知っているから、アリスの都合がいい時に案内できるわよ」


「牛のミルクは市場で買うより直接牧場に行く方がいいな。 町はずれだが行ってみるか?」


「アウドムラの牧場が町の外にあるんだが、ここは直接行くより、朝、城門から入ってくる時に交渉する方がいいだろう」


「アウドムラ?」


「牛の魔物だ。 町の中では育てられないから町の外に牧場がある。 高いけど、その分美味いミルクだぞ。 通常は契約先にしか売らないが、多めに絞れたときは朝市に出すことがあるんだ」


 護衛だけじゃなくて、買い物についても真剣に考えてくれていたのが嬉しい。 いっぱい仕入れて、色々なものを作ってあげよう♪









 隠れ家に着くと、まずはアルバロとイザックが家に入って安全確認をしてから私を迎え入れてくれた。 護衛の基本行動らしい。 なるほど、勉強になる!


 今はまだ、18時を少し過ぎたばかりだけど、今日は1日が長かった…。  忘れないうちに複製をしないと……。


「製薬したいので、しばらく1人にしてくださいね」


 2階に来ないようにお願いすると、イザックがコーヒーを淹れ始めたので、買ったばかりの熱々チュロスを渡して階段を上がった。


 チュロスに釣られずに一緒に上がってきた2匹にはご褒美のオークの干し肉を一掴み出してから、インベントリリストをチェックする。


 ご飯やおかずのストックが少なくなっているなぁ…。


 盗賊からの戦利品の検証は後日にして、今日はちゃちゃっと食料を増やして、ごはんのストックを作ることにしよう! 


ありがとうございました!

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